表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/268

90 神官がやって来た

 アークシュリラは私の店で、無為に時間を潰していた。

 特に相談をしている訳でもない。


 ふと広場を見ると、一台の馬車が噴水の脇に停まっている。

 街道を通っていた貴族か商人が立ち寄ったみたいだ。


「アークシュリラ。ナンだろうね」

「そうだね。今日はお店はやってないのにね」

 たまに食事をするために、広場に来る馬車がある。

 しかし、最近はお店の営業日が知れ渡った様で、定休日に馬車が来ることは余りない。


「お店を頻繁に利用して居ない人かもね。それで、今日が定休日ってことを覚えていないのかもね」

「あの馬車はとても立派だよ。乗っているのは貴族かなぁ。ヴェルゼーアたちを訪ねてきたのかもね」

「だったらハルメニア王国の人かもね」

「でも、馬車でエバマ大河を渡るのって大変だよね」

「そうだよね。相乗りに成る馬でも何日も足止めをくらったのだから、あの馬車だと一艘の船を借り上げることになると思うよ。なので相当な日数が掛かるよね」


 馬車は結構重たいので、一度に何台も運ぶことは出来ない。

 それに持ち物も事故の場合は弁償すると聞いたから、馬車も運搬中に壊したら弁償すると思う。

 それが豪華な馬車だと、とんでもない金額を請求されるかもしれない。

 なので運ぶ方も慎重になると思う。


「だったら違うかなぁ」

「貴族でもナンでも良いけど、騒ぎ出さなければ良いけどね」

 南から入って来たようで、ここからでは御者の姿は見えない。

 なので、まだ馬車の中に人が居るのか、既に誰か目的の人物の処に行っているのかは判らない。


「あれ? あのマークって見たことあるけど……何処で見たんだろう」

 アークシュリラは、馬車の後ろに付いているマークのことを言っていると思う。

 街か街道で見た覚えがあるが、すれ違った馬車に付いていたマークの様な気もする。

 確かに見たことがあるが、私もどこで見たのかを思い出せない。


「私も見たことがあるけど……」



 私たちが悩んでいると、御者がやって来て馬車の扉を開けた。そして、中から一人の人物が降りて来た。

 その人の服装は貴族ではなく、聖職者のモノだった。


「あっ、判った」「判ったよ」

 私とアークシュリラは同時に、何処で見たマークかを思い出した。

 それはサバラン教の教会で見たマークだった。


「ナニしに来たんだろう」

「ずっと現れないから、本当に遠くへ行ったと思ってたのにね」

「でも、一人だけだよ」

「そうだね。大勢の人はどうしたんだろうね」

 教会にいたのは2、3人ではなく、もっと大勢の人が居た。

「それにあの馬車の感じからすると、あのモノって結構高位のモノだよね」

司祭(プリースト)かもね」


 あのモノが司教(ビショップ)司祭(プリースト)かを、服装から判断する材料を私たちは残念ながら持ち合わせていない。

 進入者への対応は、ヴェルゼーアとレファピテルがしている。

 多分、馬車を広場から移動させろと行っていると思う。


「ゼファーブル、行く?」

「あの二人に任せても大丈夫じゃないの? ナニかしたら、ここから魔法を撃てばいいしね。それに私たちも行ったら逆に警戒されるかもよ」

 こんな所でサバラン教のモノも魔法を放ったり、ダガーなどを振り回したりするハズはない。

 ましてアンデッドを使うこともね。

 なので話し合いで済むと思う。

 多分ビブラエスも、これをどこかで見ていると思うからね。

「それもそうだね。大勢が集まって来たら、相手も警戒をするよね。もし、二人や村にナンかしたら私は直ぐに行くよ」

「その時は私も止めないよ」


 しばらくして馬車は広場の噴水を一周して、入ってきた南側から出ていった。

 それを見終えてから、私たちはヴェルゼーアたちの居る処へ行った。

「ナンだったの」

「あの馬車のことか」

「そう」

「食事をしに来たそうだ」

「食事をね……」


 私が周辺を散策して見回ったところ、この近辺でサバラン教の施設を発見することが出来なかった。

 なので食事のためだけに、まさかはるばるやって来たとは思えない。

 何処かへ行っていて家に帰る途中に、お腹が減ったので食事をするために立ち寄ったのかなぁ。

 それとも何処かへ行く途中だったのかなぁ。

 そのどちらにしても行き先があるのだから、それがどこだか知りたいなぁ。


 私が見逃しているだけで、本当は近辺に施設があるかと思ったので私は聞いた。

「あのモノってサバラン教のモノだよね。この付近に教会は有るの?」

「この付近で無いが、ここから北へ馬で10日ほど行った処に大聖堂があるなぁ」


「北ってイファーセル国やエンラント王国の辺り」

「もう少し北だな」

「今は周辺もサバラン聖教国やただ宗教国と呼んでいて、一国の様に成ってますね」

「国って言うと、幾つも街や村があるの」

「詳しくは知りませんが、幾つかありますね。中心都市はイメロンと言いますよ。そこに大聖堂が建っています」

「でも、あの馬車は南側から出て行ったよね」

「何処かへ行くのかもな。それとも北からも街道へ出られると思わなかったのかもな」

「ハルメニアの方にはサバラン教の教会ってないの?」

「有りませんね」


「じゃ、オーラガニアの方は?」

「ないと思うぞ。詳しくはザスティーニたちに聞けば、教えてくれると思うぞ」

「そうだね」

 そんなに離れた所なら、施設が有っても影響もないだろうから居ても構わないかなぁ。

 それが、たとえ危険な思想を持った団体でもね。


 私たちは、馬車が来るまでやっていたことをするためにそれぞれ別れた。

「ゼファーブル、宗教国ナンか有るんだね」

「ここからでは遠いけど、エマルダなら直ぐだから神官たちって国に帰ったのかなぁ」

「そうだね。神父たちは帰ったかもね。10日も離れたここに、高位のモノがナンで居たんだろうね」


 まさか高位のモノが率先して教えを広めているとは思えない。

 それに御者の格好は聖職者で無さそうだったから、雇って居るのかも知れない。

 御者も実際は信者で、馬車の運転が無償の奉仕かも知れないけど、二人も居ることには変わりない。

 だったら、神父が一人で馬を使って廻る方が効率は良いと思うけどなぁ。


「まあ、ここに来たのがアンデッドの材料探しで無くて、布教活動だったら良いけどね」

「アンデッドの材料って、そんな宗教はないよ」

「じゃ、ゼファーブルはエマルダで初めて、あのモノたちがアンデッドを使ったと思って居るの? 確かに杜撰なとこは有ったけどさぁ」


 私もあの時に初めてアンデッドを使ったとは思って居ない。

 過去にも使ったことがあって、その時は上手く行ったから、あの時も使ったと思う。

 サバラン教に付いて調べるとしても、詳しい人は私たちの中や周辺にも居ない。

 それに図書館にも“サバラン教の全て”などと云う本はないだろう。


 ザスティーニたちにもサバラン教の教会は有るかを尋ねたが、彼らは自分たちの国からほとんど出ることが無かったので、周辺に在るのかは知らないと云うことだった。

 でも、オーラガニアの国内にはないとも言っていたよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ