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89 矢が完成する

 私は海岸で魔法の訓練をするのをやめた。

 それはビブラエスたちがハルメニアへ帰ると思ったからでも、ジャイアントヴェスペと対話をしようと考えた訳でもない。

 ここで私が魔法を放って居ると、誰かが魚介類を取りに来るのを邪魔していると判ったからだよ。


 何処で練習をやろうかなぁ。

 私は村の中をうろついて、攻撃魔法を思う存分練習が出来る所がないことに気付いた。

 やっぱり練習でなくて、実践で少しずつ慣れていくしか無い様だ。

 だから強くなりたいモノは冒険の旅に出たり、誰も来ない森の奥や山にこもったりして魔法や武器の技を向上させていくんだね。

 今の私の様に他人と生活をするんじゃ無くて……

 そして自分の店に戻って、中央広場にある噴水を眺めている。

 今日は営業日でないから、広場にも人は少ない。


 本当にどうするのが良いのかなぁ。

 みんながここに居るならジャイアントヴェスペを退治に行くしかない。

 しかし、居なくなるんだったら、退治をする必要はない。

 ここから南方に広がる誰の土地でもない草原なら、今のオーラガニアがすっぽり収まるらしい。

 なのでオーラガニアの全国民が来たとしても、平気と言うことになる。

 北や東西に拡げると、小さいが村が有るのでいざこざが起こるけどね。

 それもオーラガニアなら、それらの全ての村々を併合することも可能かもしれない。


 ふと店内を見渡すと、私も店を日々片付けをしているが、結構散らかってきている。

 それだけここに長く居たんだと今更の様に思った。

 鉄より固い金属を作っていての失敗作が、部屋の隅に置いてあるのが目立つ。

 今では私がアークシュリラを守る為に、弓を射る機会は全くない。

 ここに居るのなら、戦闘が始まればヴェルゼーアもいる。

 ビブラエスも決して闘えない訳ではない。


 金属造りが暗礁に乗り上げだしたときに、ダルフさんに、『鉄の剣で直ぐに折れるのと折れないのがあるのってどうして』と聞いたら、鍛えて鉄自体を強くすると言っていた。

 ダルフさんたちは叩くことによって、鉄を強くしていたと言うことらしい。

 私はただ形を整えているだけだと思っていたよ。

 でも、ただむやみに叩けば良いと言う訳でもなさそうだ。

 後は鉄だけで無くて、鋼とかを混ぜるとも云っていた。

 剣も、ただそのもの自体を硬くすれば良いわけでなく、粘りも必要らしい。

 剣を扱うモノのクセを知って、混ぜ合わせる金属を変えながら使うモノに最適な粘りにするらしい。

 しかし、私の場合はあたって変形しては困る。

 そのままの形で抜けてくれなければ成らない。


 私は急に、いつも見ているヴェルゼーアとアークシュリラの剣の形が違うことが気になった。

 ヴェルゼーアは両刃の剣だから結構太い。それに比べてアークシュリラの持つ剣は細い。

 比べては居ないがヴェルゼーアの半分もない。

 アークシュリラはその剣を日本刀と言っていたよね。


 あの剣でも、ここいらに出没する魔物相手に戦っている。

 決してヴェルゼーアに後れを取っている訳ではない。

 あれは神様のくれたモノだからかなぁ。



 んっ、細い……

 そうだよ。矢を細くすれば、今の鉄の強度で射抜いても平気だと思う。

 両親が針の様に細い管を作っているのを見た記憶もある。

 確か体に刺すと言っていた。

 それは貫かないだろうが、縫い針は布を破らずに貫ける。

 しかし、針の様に細くすると弓で射ることは出来るだろうか。

 射れたとしても、思った方向に飛んで行ってくれるかなぁ。


 試しに杖を針のサイズに合う弓に変えて軽く縫い針を射てみると、案外真っ直ぐに飛んで的に当たった。

 良いね。

 これで弓のサイズを普通にして力を入れたら、弓につがえるのが大変だ。

 その上、目標が遠いと当たったかの確認が出来ないよね。

 でも、判らなくても良いか。

 これを使う時は私の魔法が全く効かなくて、アークシュリラも闘えない場合の最終手段なんだからね。


 それで、私は細い矢の試作を開始する。

 先ずは矢筈を弓につがえ易い形状にしないといけない。

 ここが太く成ると、矢自体を細くした意味が無くなる。イヤ、細くして折れやすく成った分扱いにくいだけだ。

 弦に負荷を掛けずにつがえ易く、それでいて細くしないといけない。


 先ず鏃の形状も矢篦(やの)からあんな飛び出す必要もないし、抜けにくくする意味はもっと無い。

 矢自体が真っ直ぐに安定して飛ぶくらいの重さがあれば良い。

 それと矢羽だが無くすと、近距離なら良いがちょっと離れるとダメそうだなぁ。

 多分鏃より、ここの抵抗が大きいからダメなんだけど……

 そうだこうしよう。

 これならそんなに大きく成らない。

 時間もあるので、取り敢えずこの矢を30本くらい作っておこう。

 随分経ったが、細い矢が出来上がる。

 完成すると試射をしたくなるってのが、心情だよね。

 そこで瓜を的にして、試射をする事にした。


 瓜なので全力で無くても射抜けるが、衝撃がどのくらい有るかを試す意味から、全力で射ることにする。


 私はその矢をつがえて、力の限り弦を引いた。

 そして指を離す。

 矢は瓜を目掛けて飛んでいった。


 瓜は破裂していない。

 外れたのかなぁ。当たった様に見えたけどね。

 少しして瓜から水が流れてきた。

 やっぱり当たったんだね。


 私は瓜に近付いて、瓜を見ると確かに小さな穴があいている。

 矢は後ろに作った土壁の中に有りそうだが、回収しないとどうなっているかが分からない。

 土壁を少しずつ消し去って、矢を探す。

 土壁の中に仕込んで置いた数枚の鉄板も、綺麗に射抜けていた。

 数枚の鉄板に当たったためと思うが、やはり矢尻は潰れていた。

 これなら魔物が相手でも、消し去らないで使えそうだ。

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