6 魔法使いの杖を調査をする
アークシュリラが話してくれた内容により、私はアークシュリラが今までやっていた行動について、あらかた納得することができた。しかし、話してくれた内容を完全に理解できた訳ではない。
「だいたい、判ったよ。でも、私もアークシュリラのことを、上手く説明することは出来ないけどね。で、先ず街でも村でも、そこで生活をするためにはお金が必要だよね」
「それは分かるよ」
「お金がなければ今までのように野宿とかをして、林や森に実っている木の実とかを食べるか、その剣で動物をやっつけて食べるしかないよ。海も同じ様なモノだね」
「それも分かるよ」
「それには、この近くにはどんな動物とか魔物が居るか知らないとダメだよね。じゃ、冒険者ギルドへ行って何をするかは判るよね」
「あっ、私に働けって言うこと?」
「違うよ。私たちはこの街に2日しか居ないんだよ。短期の仕事がないとは言わないけど、初心者が取り合うからこんな時間に行っても余り残ってはいないと思うよ。私が言ったのは、どんな依頼があるか確認に行くかってことだよ」
「ゼファーブル、他の人が受けた依頼を確認して、どうするの?」
「どんな魔物がどこら辺に居るかが判るよね」
「あっ、なるほど」
「あと、剣はあの時初めて抜いた訳じゃないよね」
「あの時が初めてだよ」
「私のそばに居なかったことがあったけど、その時に確認とかしてたんじゃないの?」
「違うよ。ゼファーブルが付いて来るなと言ったから、私は何度も別の所へ行こうとしたんだよ。そしたら何処からか声がして『一緒にいろ』って言われて戻って来たんだよ」
「えっ、アークシュリラって天の声が聞けるの?」
「あれって天の声って言うの?」
「ごめん。聞いた私が間違っていたよ」
この星のことは、私といる間に少しずつ学べば良いけど……剣術は私が教えることが出来ない。
「アークシュリラ。転生した時に剣以外に何か貰わなかったの?」
私の記憶では転生すると、特殊な能力を得る様なことも有った様な気がする。
それとも、あれは召喚したモノの方だったかなぁ。
「私は特に……このアイテム袋と服くらいかなぁ」
「アイテム袋は空っぽだったの?」
「この本みたいなメモ帳が入ってたよ」
「メモ帳?」
「この様に何も書いてないページが……えっ、文字が書いてあるよ、ゼファーブル!」
「何が書いてあるの?」
アークシュリラがそれを読む。
「火の付け方やマダーフォンについてとかだよ。私がこの星で生きていく上で知っていた方が良いことかなぁ」
書かれている内容はアークシュリラが経験する可能性があったことで、全く関係無いことは知っているべきことも書いてはなさそうだ。
「それじゃ、良く読んで覚えなくちゃね」
「うん、そうするよ」
「それと地球から来たって、あまり他の人に言っちゃダメだよ。私も他の人には絶対に言わないよ」
「どうして?」
「私は召喚術士じゃないから召喚術の魔法に詳しくはないけど、アークシュリラは多分転生者と言うモノなんだよ。もしアークシュリラが私たちの持っていない力を持っていたり、この星にない未知なる知識を知っていたりすると、それを狙うモノが出て来るかもしれないよね」
「私にはそんな力はないから安心していいよ。でもゼファーブルが言うなって言うなら、もう言わないよ」
私は直ぐに一階へ行き、もう1日宿泊を延長した。
それはアークシュリラが丸1日もあれば、本を完全とはいかないまでもある程度は読んで、理解することが出来ると思ったからだよ。
でも、私ってこんなにお人好しだったっけ……
私は部屋に戻って、アークシュリラにもう1日宿泊を延長したことを伝えた。
「アークシュリラ、私は少し出かけるよ。必要はないと思うけど銀貨一枚置いとくよ。おとなしくそれを読んで理解してね」
アークシュリラも私と行きたそうだが、出歩いていてはそれを読む機会はない。
「判ったよ」
「読み終わったら、一緒に買い物に行こうよ」
「うん」
アークシュリラの見た目は剣士だ。
そして私は杖を持っていないから、魔法使い系なら魔法を放つことのない職業である。召喚術士も魔導師や魔道師とか呪術師だって持って居る。
魔法使い系で、普段から杖を持ち歩かないのは錬金術師と占星術師が広く知れ渡って居る。
魔法を使わないモノからすれば神官もそうだし、実際には杖を持たない魔法使い系は探せば他にも居るけどね。
しかし私の場合は、腰に付けている短剣が目立つから盗賊や無頼漢と勘違いするかも知れないけどね。
これでは誰かと戦った場合、アークシュリラに支援魔法が無いことがバレバレである。
魔物だったら気にする必要はないが、今後どのようなモノと遭遇するかは判らない。
そのときに少しでも、こちら側が不利になる点はなくさなければいけないよね。
私は先ず魔法ショップに行き、魔法使いのローブと杖を買うことにした。
魔法ショップの場所は、だいたい冒険者ギルドのそばにある。
何人かの魔法使いが、歩いていく先にあると思うけど……
あぁ、ここか。これは探さないと見つからないね。
その建物は結界が張ってあって、一定のレベルに達していない魔法使いでは見付けられない様になっている訳ではない。
あくまでも普通のお店であるが、看板が無いので何を売っているのかが一目見ただけでは判らない。
そのために聞いただけでここに来ても、建物の前で迷子になる可能性がある。
そうは言っても、小さな窓からスクロールやポーションが見えるから、注意深く見れば魔法ショップと判るよ。
錬金術師も魔法は使う。
イヤ魔力の使い方が違うだけで、錬金術師も魔法使いの一種と言える。
だから、魔法ショップの中には、錬金術で使う品物も置いてある。
それにポーションは剣士なども使う。
但し、普通は剣士たちだと魔法ショップでなく、薬屋でポーションは買うけどね。
「すみません。ローブってありますか」
「錬金術師か、ローブはお前さんの右奥に有るだけだよ」
まぁ、魔法ショップの店員に、感じの良い接客を求めるのは間違っている。
何処でもこんなもんだ。
私は、右奥にあるローブを一つ手にとって見る。
うへ~。こんなに高いの。
それに初心者が着る様なローブしか店頭にはない。
これは耐魔法とかはかかっていそうもないから、一般的な布で作られたローブだよね。
多分、店の奥か地下にある倉庫には、上級魔法使いの使う品々があるかも知れない。
絶対にこの金額より安いことはないと思うから、あえて出してもらう事はしない。
それでこの値段だと……カモフラージュのためにこんな金額は支払うことは出来ない。
自分で作ることに決めて、私は店頭にあるローブを数着ほど確認する。
それから何本かの杖も触って確かめた。
店内に有った杖は、魔力を効果的に集める媒体になるものだけだった。
これも倉庫には、魔法が付与されたモノや強化するモノがアルかも知れないけどね。
やっぱりこれも想像した以上の金額だったから、購入することを諦めた。
杖も似た様なモノなら作れば良い。
なんせ私は錬金術師ナンだからね。
余り先に街を散策してしまうと、アークシュリラとあとで一緒に廻る際の感動が減る。
それで、私はひとまず宿屋へ戻ることにした。