4 仲間が出来る
それから何日かが過ぎたが、アークシュリラは私から一定の距離で付いて来る。
しかし、アークシュリラが私に近付いて来て、話しかけることはなかった。
たまに居なくなるときがあるけれど、そのままどこかに行ってしまうことはない。気が付けば、またある程度の距離で付いてくる。
外の人々から見れば、ケンカ中のパーティーとしか思えないだろう。
今日の太陽もかなり傾いてきて、夜は直ぐそこまで迫ってきている。
私とすれば剣士が傍にいて安全だが、このままではアークシュリラのタメにならない。
私は目的地に着いたらそこで暮らすので、アークシュリラが冒険を続けるつもりだったら、早く他の冒険者のパーティーに入って仲良くなった方がよい。
私は振り向いて言った。
「アークシュリラ、いくら付いてきても、あなたとパーティーを組む気はないからね。本当に他を当たってくれないかなぁ」
いつもはそこに居るはずのアークシュリラの姿がない。
どっかに行ったのかなぁ。
しかし、アークシュリラの気配は先ほどまであったよね。
私は周囲を見渡した。
そうすると少しばかり離れた処で、アークシュリラはタヌキの魔物であるマダーフォンと対峙している。
まぁ、剣を持っているんだからマダーフォンくらいなら平気だよね。と、見ているとどうやら雲行きが怪しい。
アークシュリラは、マダーフォンの体当たりを体でまともに受けて、とても苦しそうにしている。
なので、その攻撃を体で受け止めようとした訳では絶対にない。
マダーフォンはそんなに強い魔物ではないが、ウサギよりかははるかに強い。
私は駆けだして、声の届くところへ来て怒鳴った。
「アークシュリラ! その腰にある剣は飾りなの! 鞘から抜かないとやっつけられないよ! 追い払うだけなら鞘に入れたまま振っていれば、いなくなると思うけどね」
アークシュリラは私の声に我に返り、剣を鞘から抜くとマダーフォンに切りつけた。
一撃では仕留められなかったが剣の当たった所が良かったようで、マダーフォンは立っていられなくなってもがいている。
アークシュリラは、自分が振った剣がマダーフォンに当たったことに驚いている様だ。
「ナニしてるの? 早く、止めを刺してあげなさいよ! 可哀想でしょ」
私がそう言うと、アークシュリラはゆっくりとマダーフォンに止めを刺す。
「ありがとう、助かったよ」
アークシュリラは笑顔で私にお礼を言ってきた。
私はアークシュリラにさっき最後通牒をしたことなど、もうどうでも良くなった。
「解体は一人で出来るんでしょ。それと私はゼファーブルだよ」
あれほど邪険に扱っていたのに、私は自然と名乗っていた。
そして、なぜか私の顔からも笑みがこぼれた。
「ゼファーブル。解体は出来るけど、手伝ってはくれないの?」
「そのくらいなら、手伝ってあげるよ」
私たちはマダーフォンを解体して、アークシュリラは自分の持って居たアイテム袋に肉や魔石を入れた。
アークシュリラは骨などは捨てていくと言うので、私はそれを自分のアイテム袋にしまった。
いい薬の素材が集まったね。
そして、二人して焼き肉をたらふく食べながら、私とアークシュリラは簡単な身の上話などを少しした。
アークシュリラは、これが初めての旅だと言うことや自分は剣士ではないが剣はもらったこととか、そして私と同じでこの世界に身寄りがいないことなどを語っていた。
一人だったから喋りたかったのかなぁ。
私が旅をしているのは冬を越すために暖かい南方を目指して居るだけで、決して冒険の旅をしている訳ではないことを何度も繰り返した。
アークシュリラは、それを理解してくれた様だった。
それに、アークシュリラと多少話をして、悪人って感じはしなかった。
なんとなくだが性格も合いそうだから、途中まで一緒に行くだけなら私もそれほど困ることはない。
それに、黙々歩くよりかは、話し相手がいた方が私も気分転換になるからね。
でも、性格が合わないモノだと、余計に疲れるけど……
翌朝、私はマダーフォンの内臓などを煮込んで、ポーションを作りだす。
アークシュリラは興味深そうに、私のやっていることを見ている。
「へ~ぇ、ポーションってこうやって作るんだね」
「人に因るかなぁ。だから作り方は他の人に言っちゃダメだよ」
「言わないよ。そんなことしたらゼファーブルが怒るからね」
怒りはしない。ただ仲間で無くなるだけだ。
内臓が完全に溶けたから、もうしばらく煮ていれば良いね。
よし、これで売るモノは出来た。
ポーションを桶に移して、残ったモノでもっと効果の高いヤツを作ろう。
アイテム袋からヘラを取り出してかき混ぜる。
いい感じに出来た。
「アークシュリラ。これが冷めたら、鍋にへばり付いているモノをこの木型に力いっぱい詰めてね」
少ししてアークシュリラが鍋底にあるモノを木型に押し込んでいる。
「ゼファーブル、これで良い」
「もっと詰め込めるでしょ」
アークシュリラは真面目にやっている。
私はポーションを入れた桶に少々手を加えてから蓋をして、中級回復薬と書いたラベルを貼った。
「どんな感じ、見せて」
アークシュリラは私に木型を渡した。
私はそれを見て言った。
「初めてにしては上出来だよ」
アークシュリラは照れている。
私は平らな板を出して、木型を叩いて中のモノを取り出す。
そして木型の背を当てて数回往復をさせながら、アークシュリラが詰めたモノを球体にする。
それから、半分を懐紙に包んでアークシュリラに渡した。
「ゼファーブル、ナニこれ?」
「アークシュリラにあげるよ。これは完全回復薬だよ」
「完全回復薬って、スゴく高いんじゃないの? こんなに沢山あるけど良いの?」
「良いよ。私の分もあるしね。じゃ、このポーションを次の街で売って美味しいものでも食べようよ」
「分かったよ。私も剣士でなく錬金術師にしとけば良かったかなぁ」
アークシュリラは、ぽつりとつぶやいた。