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3 旅立つ

 翌朝になって、私はほら穴の中にある僅かな荷物をまとめて、とりあえず南に向けて旅立つことにした。

 昨日はいろいろと行き先を考えたが、考えているウチに月日が経ってしまっては仕方がない。

 そこで、去年と同じ所を目指すことにした。


 まぁ、街にある冒険者ギルドが付近の魔物を退治してくれているから、街の近くにある街道では魔物に会う方が希だよね。

 それに事件なんかが、そんなに頻繁に起こることはない。

 私は街道をゆっくりだが確実に進んで行く。


 もう太陽は地平線に近付いている。

 野宿をするならこの平原が良いかなぁ。

 それともまだ初日なので、このまま夜通し歩くかだね。

 でも、私の旅は別に急ぐ必要はない。

 私は周囲を見渡して、野宿が出来そうなところを探すことにした。


 あすこにある、木の周囲が良いね。

 今日の寝床は決まった。

 私はその木に近付くと、先客がいないことを確認した。

 先にだれかがここで野宿をすると決めたのなら、人が居なくても荷物が置いてあったり、石が積んであったりするよ。

 それを無視して、誰も居ないからと言って占拠することはやってはいけない。

 これは野宿をする上での最低限の決まりごとだ。


 私は、先ずは火を熾すために石を積んで、野宿の準備をした。

 薪は持って来てはいないが、周囲にも木の枝は落ちてはいない。

 仕方がない。

 それじゃ、錬金術で火を産み出すかなぁ。だったら少しの枝があれば良い。


「ゴメンね。この枯れかかっている枝を一本だけもらうよ」

 私はそう木に言ってから、木から小枝を折った。


 私はその枝を数回しごいてから先ほど積んだ石の中央に置いて、それから落ちている葉っぱを数枚振りかけた。

 そうすると火が熾る。

 これは火の魔法ではないよ。

 火は木より生じるからね。

 きちんとした錬金術の一部だよ。


 その一本の小枝は良く燃えている、これなら朝まで持つと思う。


 こんな感じに料理もできれば良いけど……錬金術の技では発酵や熟成なら出来る。しかし、下処理とか味付けなどの調理は錬金術では出来ない。

 まぁ、魔法じゃないから、小麦を粉にすることも無理だよね。

 今日も干し肉を鍋に入れて、煮ることにした。

 簡単な夕飯はあっという間に出来るが、食べるのも直ぐに終わった。

 後は寝るだけだね。


 私は木の幹に背を付けて、目を閉じた。

 少し寝たのかなぁ。

 火は少しも小さくならずに、まだ煌々と燃えている。

 火の管理をして都度薪をくべる必用がないから、錬金術で熾した火は本当に便利だね。


 少し離れた処にこの火に寄ってきたと思う、私と年齢が同じくらいの一人の女性が見える。


 気付いてない様にして、確認をすると剣を抱え込んで休んでいる様だね。

 甲冑は着てないから騎士やベテランの戦士ではなさそうだ。

 しかし、魔法剣士の可能性もあるよね。

 襲って来なければ良いけど、剣で襲われたらひと溜まりもない。

 今の私の所持金はホントに少ししかないけど、それで許してくれるかなぁ。

 怖いなぁ。


 沢山の旅人が周囲には居る様だが、さすがに火が有るのは数カ所しかない。

 木が数本しかないのだから、この場所で薪は簡単に手に入らない。

 たき火を熾しているのは私の様に枯れ枝から作るか、きっと持ってきている者たちだね。


 その人々は私が襲われたら、助けてくれるかなぁ。

 でも、あの人は周囲を気にしている感じはしない。

 本当に休んでいる様だ。

 なら大丈夫かなぁ。

 その上、まだ暖を取らないとならないほど、夜の気温も寒くはない。

 なのであの人にとって、傍に火が有って魔物が来なければ良いのかもね。


 私も断ってくれたら、火に当たることを拒絶することはしない。

 それは『この世の中に有るモノは、何一つとして自分のモノではない』と両親から教わったからだよ。

 それは自分の肉体も、自分のモノではないらしい。

 私にはそのことはまだ理解出来ていないので、上手く説明が出来ないけどね。

 だからと言って、自分からその女性を誘うことはしないよ。


 何事も無く朝を迎えた。

 あの女性が居た所を見ると、すでにそこには誰も居なかった。

 もう旅立ったんだね。


 私は朝食のキノコの干したモノを数個ばかりかじりながら、火を熾すタメに積んだ石とかを崩して元通りにした。

 じゃ、行こうかなぁ。


 そして街を通り過ぎて、今日は林の傍で野宿をすることにした。

 ここは薪に成りそうな枝は沢山落ちている。

 そのため、昨日よりも多くの火が見える。

 さすがに、今日は現れないよね。


 そう思っていると、またあの女性が現れる。

 そして私に近づいて来て、しゃべり掛けた。


「私はアークシュリラと言うの、あなたも一人ナンでしょ」

 私は一人だけど、仲間は募集していない。

「パーティーを組みたいなら、他を当たった方が良いよ。私は旅をしているけど冒険をしている訳ではないからね。それと火に当たるだけなら居ても良いよ」

 私がそう言うと「つれないこと……」と言い残して、昨日と同様に私から少し離れた所に腰を下ろした。

 まだ、寒くは無いので、暖まる必要はない。

 なのでアークシュリラの居る位置が、この火があることで魔物が来ない所なのだろう。


 そして、昨日と同じ様に剣を抱えて、眠りにつこうとしている。


 自分から初対面の相手に最初に名乗るなんて、変な人も居るんだね。

 まあ相手に本名を知られても、髪や血液とかを取られなければ、肉体を乗っ取られることはない。

 詛呪もやり方が色々あるが基本的に同様だったと記憶している。


 それに私と組んでも戦士だと、戦いの時に支援魔法を期待することはできない。

 アークシュリラにとって、得になることはナニひとつとしてないよね。


 それからアークシュリラは、日中も私から少し離れて付いてくる様になった。

 街道はずっと一本道のために、行き先が同じだけかと思い私が街道からそれて休憩をすると、アークシュリラも休憩をする。


 私も変なモノに懐かれたよね。

 危害を加えてこない様だから、このまま無視をしていれば、いつかどこかに行ってくれるかなぁ。

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