29 ほら穴がないよ
私たちは岩場から離れて、再び住居となるほら穴を探すことにする。
さすがにほら穴があっても、海に突き出した崖の中腹は住み処としては適していない。
「平原だとほら穴は無理じゃ無いの?」
「そうなんだよね。ちょっとした丘でもあれば良いんだけどね」
私たちは更に街道を進んでいく。
どこまでも続く、草原と海を見ながら私たちは歩いている。
「街もないね」
「本当だね」
「ここの人々は、買い物とかをどうしているのだろうね」
私はそろそろ村が有っても良いと思う。
確かにまばらにある家には畑があるので、野菜は収穫も出来る。
その畑は今年の収穫が終わったのか、結構あれた状態になっているけどね。
そして、周囲で狩りとかをすれば肉も入手できると思う。
しかし、これでは塩が手に入らない。
他のモノは無くても死ぬことはないが、動物は塩が無ければ生きていけない。
それはどんな生き物でもそうだ。
だから国によっては、塩を勝手に作ることを禁じている所も有るくらいだよ。
私も未だに、塩だけは作ったことはない。
各家々から人々が決まった日に集まって、海水から大量に塩を作っているのか、あるいは、近くに岩塩を採掘することが出来る場所でもあるのかなぁ。
でも、岩塩を採掘している所は、平坦なこの草原にはなさそうだけどね。
そうなるとやっぱり海かなぁ。
ここ何日かで、周りに出没する動物も変わって来たよ。
ベイシュヴァインとかマダーフォンはあまり見掛けなくなり、その代わりにシュヴィネフューシャやワッサヴッフェが現れる様になった。
空気も若干湿り気を含んできた感じがする。
草原の方も荒れ地が多くなってきている。
更にその先には念願の崖もある。
「アークシュリラ。あの崖に登ろうよ」
「そうしようか」
私とアークシュリラは崖の上に登って、周りがどうなっているのかを確認した。
左側には相変わらず海が続いていたが、少し先で無くなっている。
これは大きな湾なのか、それとも塩湖なのかなぁ。
右側はずっと平原が続いている。
所々に小さな川も流れている。
そして、街道の先に街が見えた。
「今日は、あの街で宿屋に泊まろうか」
「どうしたの?」
「どうもしないよ。ただ、ここがどこだか情報を知りたいからね」
「そうなの」
私たちは城門から街へ入った。
「結構大きな街だね」
「そうだね。三方からの道が交差するところだから、色んなモノが売っているかもね」
「面白いモノが有ったら良いなぁ」
我々はいつものように商業ギルドで宿屋を聞き、そこへ向かった。
「2人で一部屋だけど、空いている部屋はある?」
「何日だ」
「二泊だよ」
「それなら空いているぞ、食事はいるのか?」
「朝と夜だよね」
「そうだ」
私は掲示してある料金を確認した。
少し高いかなぁ。
まぁ、この街だとたくさんの冒険者や商人が利用すると思うから、この金額でも納得だ。
「先に払うよ」
「それはありがたいな。ほれ部屋の鍵だ」
それからそのモノは、食事時間など宿屋の細かい注意事項についての説明をしてくれた。
「判ったよ。よろしくね」
私たちは部屋に行って、ベットに倒れ込んだ。
野宿と違って、ベッドの寝心地はすこぶる良い。
「アークシュリラ、これから冒険者ギルドとか街を探検に行く? それとも、もうしばらく休んでいる?」
「ゼファーブル、どっちでも良いよ」
「じゃ、少し街でも散歩しながら冒険者ギルドに行こうか?」
「判ったよ」
私たちは先ずは街をぶらつくことにした。
さすがに規模が大きいだけあって、様々なモノが売っている。
全部を確認するのは、私たちの滞在期間では不可能だね。
もう少し見ていたいが、宿屋に泊まったのは情報を得るためだ。
「そろそろ冒険者ギルドへ行って見ようか」
「そうだね」
私たちは冒険者ギルドへ向かった。
まあ大きな建物に行けば、商業か冒険者のどちらかのギルドである事が多い。
もう、商業ギルドには行っているから、人々に聞かずとも、かなりの確率で冒険者ギルドにたどり着ける。
私たちは冒険者ギルドに着いて、掲示板の所へ行った。
掲示板の脇には簡単な地図が有るから、まずこれで近くに村や街が有るのかとか、林や森とか街道のおおよその位置関係が理解出来る。
当然、川とか湖や海も判るよ。
でも、距離は合っていないから、遠くに書かれている箇所が、実際にはやけに近いってことがあるけどね。
それでも出てくる順番は合っているよ。だから、川の向こう側に村が書いて有れば、絶対に川の手前と言うことはない。
「村はこの周囲には……え~と、東に2つと西に4つあるんだね」
「西の方が人が多いのかなぁ」
「そこはなんとも言えないかなぁ。小さな村が4つあるだけかも知れないしね。それと、西は川を越えないとその村へは行けないんだね」
「川って言っても、全て橋で渡れるみたいだよ。それに、東は林か森があるんだね」
これで、だいたいの地理関係は判った。続いて私たちは討伐依頼を確認する。
「アークシュリラ。ナンか面白そうな依頼はあった?」
「ゼファーブル、全く無いよ。魔物もあまりいなそうだよ」
「その様だね」
依頼の中には重量物の運搬とかもある。
平和なら良いけど、これでは冒険者は暮らしていけないよね。
 




