259 ナニを見たいんだろう
知らない貴族から手紙が届き、私たちは街を運営しているモノとどの様に対応をするか話し合いをしている。
「貴族ってそんなに偉いの? 無関係な国の民たちにも命令出来るの? それっておかしいよね」
「貴族とはそう言うモノだ。この世の中では常識だぞ、ゼファーブル」
「じゃ、聞くけど、あなたたちがヴェルゼーアたちを敬っているのって、彼女たちが貴族だからなの?」
私はヴェルゼーアの発言を確認するために、街を運営しているモノたちを見てから訪ねた。
「それもありますが、この街の発展のタメに寄与してくれていますから……」
「そうでしょ。街のタメに報酬ももらわずに、やっているからだよね。報酬をもらった時点で、それは労働だよ。ギルドで云う依頼と受託の関係なんだよ。だからどっちが偉いとかはないよ。あくまでも平等だね、違う?」
「そうだな。ゼファーブルの言うことは、多少の理想が入っているが言っているコトは正しい。その公爵が私たちに今までナニをしてくれた。イヤ、今回接待して今後はナニをしてくれると言うのだヴェルゼーア」
「ビブラエス、確かにこの街はエトガヌン連邦とはナニも取り引きはないな」
「今後はあるのか?」
「それはナンとも言えん。交易にしたって相手があることだ。今回はその視察と云うことも考えられる」
「私たちの街って別に交易しなくても自給自足が出来ていると思ったんだけど違ったの? お金だってこないだ見つけた金属で、充分なほどあるよね」
「そうです。この街自体は完全に自給自足出来ていますし、お金も潤沢にあります」
運営しているモノがアークシュリラの問いかけに答えた。
「だったら、別に来てもらう必要はないよね」
「アークシュリラ、国と国のつながりと云うモノは、食べ物だけではありませんよ。文化の交流を図ったり、両国で一緒に研究したりするコトも必要です。イルーツは出来たばかりですので、文化的側面はかなり弱いですからね」
「確かに娯楽とかは少ないけど、それって少しずつ形成されるモノであって、他の国から仕入れるモノではないよね」
「実際にはそうでしょうが、手っ取り早く根付かせるには仕入れるコトも必要です」
「レファピテル。そんな即席の文化なんて、薄ぺらいだけだぞ」
レファピテルはビブラエスの発言に、苦虫を噛み潰した様な顔をした。
これは私がとやかく言わないでも、貴族が来ることに反対の方が優勢だね。
でも、アークシュリラが私を呼んだのは、意見が二対二に割れたからかなぁ。
「公爵がこの街に来る目的は、神殿の見学かもな」
ぽつりとヴェルゼーアがつぶやいた。
「それだったら、順番に祈らせれば良いことだよね。神々にとっては、国王でも亜人でもナンであっても変わりはないんだからね。この街の神殿はどこでも、そういうルールだよ」
「そうだよな。でも公爵が亜人たちと仲良く並んで待つとは思えない。絶対に自分たちを優先しろと言うだろうな」
「言ったら私が一発殴ろうか? それとも理解するまで徹底的に殴ろうか?」
「そんなコトをしてみろ、戦になるぞ」
「そんなコトで……他の人も優先に賛成なの」
「私はアークシュリラと同じだよ。ルールを守れないなら来なくて良いと思うよ」
「そうだな。神殿の中では平等が基本だ。これは誰であっても変えることは出来ない。そうだったよなレファピテル?」
良くレファピテルが言っていることだ、神々の前では善人でも悪人でも平等とね。
なので、今回は貴族だから優先させるとは、さすがに云えないだろうね。
「でも、ナンで急に視察なんて思い付いたんだろうね。神殿なんかずっと前から在るのにね」
「この手紙には視察したい場所は書いてないから、神殿と云うのも今思い付いただけだ。アークシュリラが言う様に神殿は随分前からあるしな」
「全部の属性が揃ったのはつい最近ですよ。揃ったから見に来たいで合っていると思いますけど」
「それも一理あるな」
ビブラエスがレファピテルの意見に賛同する。
「もし神殿でないとすると、この街の料理や魔法とか、他のコトって云うこともあるんだよね。じゃ、ナニを見たいのか明確にしろって返事を書けば良いよ。料理だったらアークシュリラは作らないと思うから、ビブラエスとレファピテルが作れなかったら出せないけどね」
「私も作る気はない。だからヴェルゼーアとレファピテルで作れ。ハルメニア王国の国王ですら、他国の民に命令することはしない。今回は、たかがいち貴族の身分で失礼だな」
「文面自体は高飛車な物言いだが、この様に事前に行くことを連絡してある。そんなに失礼でもあるまい」
「ヴェルゼーア。その文章には日にちは書かれていないから、いつ来るかも判らないぞ。その間ずっと宿の部屋を空けておくか? 自分の都合だけで、こっちの都合は一切考えていない手紙だ。これのどこが失礼でないと云うのか」
「それもそうだな……」
「ヴェルゼーア。貴族だからといって関係の無い私たちが従う必要はない。この世のルールでは貴族が身分を明かした場合には、出来るだけ不便を与えない様にすることだけだ。最上のもてなしをしろとはなっていない」
ビブラエスはルールと云ったが、それは明文化されたモノではない。
ただこの星にあるほとんどの国や街などが、実施しているだけだ。
特にそれをやらなくても、世界政府などによって罰を受ける様なことはないよ。
「それも、そうだな。レファピテル、視察する処や日にちなどを連絡するように返事を書くか」
「そうですね、それが良いでしょう。相手が思って居たモノが見られないと、後々問題になりますからね」
「でも、返事を二人に書かしたら、臣下が提出する様な文章にならない?」
「アークシュリラ、ヴェルゼーアたちもそんな手紙は書かないと思うよ」
「なら良いけど」
「二人はそう言いますが、手紙にはそれ相応の作法がありますよ」
「だったら、作法に則っていれば、誤解を与えても良いってコト。文章的には謙っていても、相手が刃向かったと受け取ったらどうなるの」
「それが起きないように書くだけだぞ。もし、ゼファーブルに書かしたら、とんでもない文章になるぞ」
ナンか急に巨大な火の粉が飛んできた、イヤ目の前で火弾が爆ぜた感じだ。
私だってきちんと書こうと思えば、手紙ぐらいは書ける。
でも、このままだまっていて、肯定したと思われるのはしゃくだ。
「私が書く文章は、言いたい内容が判ることを第一に書いているからね。変に回りくどい文で誤読を誘う様なことはしたくないし、あったら大変だよ」
「だから、ゼファーブルの手紙って、いつも簡潔で用件だけしかないんだね」
「まぁ、今回は貴族だしヴェルゼーアに書いてもらいましょう」
「それは良いけど、貴族だからって云う考えはおかしくない、そもそも貴族が偉いのってその国の中だけだよね。まぁ仲が良い国でも同じ様に接してくれるコトがあるけど、私たちはエトガヌンとは一切関係ないんだからね」
「そうだよね。レファピテルだって調べなきゃ、知らない国の人物だったんでしょ」
アークシュリラの意見に私が追加して言った。
「確かに、そうですが……」