257 レファピテルの悩み
レファピテルがベンチに座って思いふけっている。
どうしたんだろうと思い、私はレファピテルの傍に行く。
「ゼファーブル?」
私が声を掛ける前に、レファピテルが声を掛けてきた。
「ナンか問題でもあった」
「問題……」
「あったんだね。なれるか判んないけど、私で良ければ力になるよ」
「ありがとうございます。では、最近サリアの書物を読むコトが多くありますが、魔法や魔方陣についてはハルメニア王国より高度ですよね」
「そうだね。凄く発展しているよね」
「私も昔ですが、魔法の研究を少ししていましたので、淋しいというかやるせない気持ちですね」
レファピテルが研究をしていたころって、ヴェルゼーアが王城に囲われる前の話だよね。
「淋しいってどう言うこと?」
「私たちが秘匿としている内容が、公開されているのですよ」
「なるほどね。あの国では周知の事実なんだろうね」
「確かに半島と大陸では往来する人数も違うので、発展するのは分かります。さらに大陸の中心部だともっと発展していると考えると、今、私たちが研究して見付けたモノが、既に公開されているコトもありますよね」
「確かに、その可能性はあるよね」
ハルメニアでなく、今度は私たちが行っている研究のコトかなぁ。
確かにその可能性はあるけど、そんなに悩むコトかなぁ。
「そうなると、ここで研究しているコト自体が意味のないモノと考えてしまい、どうするのが良いか思案してました」
「そう言っても空を飛ぶカヌーは、まだ私たち以外のモノって見たコトないよね。私たちが研究して、公開していないモノも数多くあるよ」
「確かにそう言うコトもありますよね。しかし、噂に聞いたのですが魔導王朝フェネルと云う処は、もの凄く魔法が発展しているそうです」
聞いたって言うことは、冒険者が良く立ち寄る居酒屋かハルメニア時代に聞いたのかなぁ。
「レファピテルは、その国へ行きたいの?」
「本音で言えば、行って魔法を学びたいですね。しかし、純粋なエルフでなければ入国は出来ない様ですから、私では無理ですね」
「ならばここを魔法研究の先進国にすればいいじゃん。そのタメには非公開なモノは止めて、公開する必要もあるけどね」
「そうですね。今時点で公開していないモノを公開すれば、多少なりとも魔法使いたちは集まると思いますね」
「研究施設を建てて、それらにここで研究してもらっても良いよね。一年か数年ごとに研究の成果を発表する催しを開催しても良いしね」
「そうですね」
ナンかレファピテルの返事からは、乗り気な雰囲気は感じられない。
私が話し終えたので、とりあえず言ったという感じだ。
「レファピテルはどうしたいの?」
「どうするのが良いのでしょうか? 確かに今まで判明したコトを公開して、ここが進んでいるコトをアピールするのは良いと思います。しかし、各国の防御などが手薄になると問題になりそうです」
「そんな心配は要らないよ。サリアだって公開しているモノもあるしね。もし、私たちが公開した内容で、国が滅んでも仕方ないコトだよ」
「そうですが……」
「この世界が始まってから今日まで、誕生した国のほとんどが滅んでいるんだよ。確かに歴史上ではつながって居てもね」
「……」
「ハルメニア王国だって、ガシララ王朝が滅びなければ出来なかったんだよ。この周辺にある幾つもの国もそうだよね」
「それは……」
「だからと言う訳ではないけど、国が滅ぶとかをそんなに心配することはないと思うよ」
「頭では理解出来ているのですが……」
「それと、私はそのフェネルには行ったことはないけど、魔法が発展していても世界征服をしてない処をみると、そんな心配は要らないんじゃないかなぁ」
「……」
「私が知っている話だと、ビブラエスはハルメニア王国が結界とか万全の体制で防いでいたにも関わらず、国王の寝所に忍び込んだんでしょ。魔法なんてそんなモノだよね」
「それはビブラエスだから出来たコトで、万人が出来るコトではないです」
「言っちゃ悪いけど、ビブラエスだって神ではなく、私たちと同じ人間だよ。だから全く同じ訓練をすれば、他のモノでも出来ると思うよ」
「そうですが、同じ様な訓練は……」
レファピテルの発言を遮って、私が言う。
「出来ないと言うの? ビブラエスはこの星で産まれたモノだよね。転生者じゃなくて」
「そうでした」
「ナゼ、レファピテルは、未だにハルメニア王国のコトを中心に考えているの? 私たちは一国がどうなっても、この星のタメに一番よい方法をやるだけだよ。あのヴェルゼーアだって割り切っているよ」
と言ったものの。レファピテルだってそんなコトは、今までの会話から解っている感じがする。
だから悩んでもいると思う。
ただ頭で解っていても心が抗っている状態では、いくら私やアークシュリラが言っても、ハルメニア王国に関係のないモノだからレファピテルの心には届かない。
ヴェルゼーアだって、無理だろう。
大多数の貴族は国や国王のタメに最後まで戦い殉じるモノもいるが、貴族の中には勝ち馬に乗るのが上手いモノもいるからね。
ヴェルゼーアの先祖がどうだったかは知らない。
でも、いままで続いているところを考えると、後者なのかも知れないね。
ビブラエスの出自は知らないが、同じ庶民ならビブラエスが言う方がレファピテルの心に響く可能性があるコトも確かだよね。
「ゼファーブルは親友や血縁者が路頭に迷う様なことでも、この星のタメになるのならためらわずに実施しますか?」
「イヤだけど、それがウィンデール……イヤ神々との約束だから仕方ないよ。力だけ与えてもらって、約束を反故にする様なことをしたらダメだよ。でも、それをやったことで、心にはキズが残ると思うよ。永遠に癒やされるコトのない、消えないキズがね。だから事前にそうならない様に根回しもするよ」
「ゼファーブルは強いですね」
「私は強くなんかないよ。レファピテルは居なかったけど、今回ヴェルゼーアと砂漠で――」
私は錬金術師の老女の話をした。
「――そのやり方で、ホントに良かったのかって未だに悩んでいるよ」
「そうですか。ゼファーブル、済みませんが一人になりたいので……」
そう言ってレファピテルは頭を下げてから、立ち上がって行ってしまった。