256 そのあとで
ルッスラムはその後、ダルフさんたちによってプラチナ貨程度のサイズに別けられた。
「ありがとうね。こんな遠くまで来てもらって」
「お前さんのお願いだ、いいってコトだ。それでルッスラムは要らないが、こっちのバルラデンは代金として確かに貰うぞ」
「ルッスラムも良いよ」
「ルッスラムは使い勝手が悪いからな」
ルッスラムは硬くて丈夫だが値段が高いから、それを使って製品を作っても高くなる。
いくらタダで貰ったからと云っても、安売りをすることは出来ない。
それは、正規の値段で仕入れた同業者の商売を邪魔するコトになるからだ。
ルッスラムは仕入価格が高いので売値も高くなるから、並の冒険者では手がでない。
かと言って歴戦の勇士だと、魔物が所有していた伝説級の武具を見つけている。
なので、わざわざ鍛冶屋に並んだルッスラムの製品を買うことはない。
そんなコトを言っていた。
まぁ判らなくもない。
私だって、今更、魔法ショップで杖を買おうとは思わないからね。
一緒に作業をしていたダルフさんの仲間にも、作業代としてバルラデンを渡したよ。
それをしても、レファピテルやビブラエスの分はあるからね。
「もし、ルッスラムが欲しくなったら言ってね」
「ならんと思うが、その時は頼む」
ダルフさんたちをエマルダに送り届けた。
これで、今までと同じ支出を続けていれば、五千年以上は税金を取らないでイルーツを運営することが出来るお金が出来た。
でも、しっかり税金は取ることには変わらないらしい。
一度止めたり安くしたりすると、復活させるのが大変だからと運営をしているものが言っていた。
確かにそうかも知れない。
別けたことで傘が増したこともあり、私たちは運営しているモノからルッスラムを随分貰った。
アークシュリラはビブラエスと一緒にウィンデールの処へ行って、約束した三つのお菓子を披露した。
私も試食したが、どら焼き、ショートケーキ、みたらし団子と、どれもが味わいが異なり素晴らしかったよ。
まぁ、ウィンデールが一番気に入るのは、どら焼きかなぁ。
それとビブラエスも作れる様だから、先生も二人でやればいいよね。
そのお菓子は神々が神殿内で食べるのではなく、お店で提供する様だ。
色んなお店が出来るのは、街にとって良いことだよね。
どこへ行っても同じでは、行く意味が薄れる。
神殿では祈るのがメインだとしても、敬虔な信徒でない限り、丸一日祈り続けるコトは少ないからね。
ヴェルゼーアからは、私に8体のホムンクルスを作ってくれと依頼してきた。
訳を聞くとラガービールなどの醸造を開始するので、その作業員として必要とのコトだった。
確かに私が言ったけど、他の人だって飲みたいハズだ。
決して私一人ではない。
レファピテルに頼んだって、文句は言わないハズだ。
私が製作している間に、ヴェルゼーアはラガービールの材料をオーラガニアへ仕入れに行っていた感じだ。
だから当分の間は、まだエールより高いかも知れないね。
それとお酢などの醸造も始める様なコトも言っていたよ。
これで清酒の醸造も始まれば、酒粕も簡単に手に入れるコトが出来る。
そうなると、自分の好みの味を作ってもらうことも可能かもね。
私が作ったホムンクルスの量は、醸造だけにしては多過ぎる。なので近いうちに蒸留設備も作って、蒸留も始めると思うよ。
あとはホムンクルス作りの合間に、レファピテルに見付けた本などを渡したくらいだね。
また穏やかな時間が流れ出した。
こう言う日が続けばいい。
そんな日々を送っていると、アークシュリラが訪ねて来る。
「少し、ゼファーブルに聞きたいコトがあるけどいい」
「ナニ?」
「ゼファーブルと戦ったモノって錬金術師だよね」
「そうだね」
「それって、例の肥沃な土地にするって依頼をした人じゃないの」
「多分、そうだと思うよ」
アークシュリラは、私からナニを聞こうとしているのかなぁ。
「ナンで、あんなコトをしたの?」
「あんなコト?」
「そうだよ。ゼファーブルなら始末をしようと思えば出来たよね」
「買い被りすぎだよ。私は真剣に撃ち合ったよ」
「そうかなぁ、確かにゼファーブルの得意とする雷撃は放っていたけど、天井からの直撃でなくて直進のヤツだったよね」
「そうだね」
確かに私が放った魔法の全ては、私から相手への直進であり、上や下からの直撃するようなモノはなかった。
「少しイラついてる? 私が聞きたいのは、ナゼ始末をすることが出来たのにそれをせずに、あんな長期間も屈辱的なコトをさせたかだよ。昔のゼファーブルなら、たとえ赦さなくても、五百年もの期間に及ぶ責め苦なんかやらなかったからね」
「そう言うこと。昔の私だったら、どうかは判んないけど……あのままやっつけてしまったら、あのモノは来世で罪を償う必要がでてくるよ。だから、今生で作った罪は来世に持っていって欲しくはなかったんだよ。それが同じ職業をしているモノの務めだと思ったよ」
「あれで消えるの?」
「それが、全部消えるかと云う問いなら、判らないよ。但し、山を崩しそうになったコトは、消えると感じるよ」
「そうだったんだね」
「生まれ変わって来世で人になれたら、もう一度錬金術師になって欲しかったからね」
「来世って、人は人じゃないの?」
「私の聞いた話では、罪が多く残っていると違う生き物になるそうだよ。どんな罪を犯せば違う生き物になるとか、善行を重ねれば高位の生き物になるとか色々と言われているけどね」
「そうなのかぁ」
「神々に聞けば、正解を教えてくれるかもね」
「それもそうだけど、これは知らない方が良さそうだよね」
「そうだね。私たちが忍び込んだから仕方ないとは云え、私だってああ言う出会いでなければ、錬金術について様々な事を語り合いたかったよ。でも、相手に話す気が全くなかったからね」
「それはしょうがないよ。私だって部屋に見も知らないモノが居たら、話し合おうなんて考えないで戦うと思うよ」
「本当に残念だったよ。でも、あの後で色々と聞いた時、結構脳にダメージを負っているって判ったから、もし普通に会ったとしても通常の会話は出来なかったかも知れないね」
「ギルドのモノも頑固って言っていたけど、実際は頑固なのではなくて、自分の考えを説明してただけかもね。ただ頭の中でまとまらないから違った意見を否定してただけってね」
「あのモノだったら体だけでなく、脳の老化も防ぐ薬を作れたと思うよ。でも、脳が老化していることに気付いた時には、既に手遅れだった感じかなぁ」
「そうだよね。それだけでも聞けて良かったよ。ゼファーブルが変わっちゃったと思ったからね」
「これから先……イヤもう既に始まっているかも知れないけど、私たちは少しずつ考え方などが変わって行くと思うよ。今までのようにしていたら、この星からの依頼に応えられなくなりそうだしね」
「力だけ与えてくれたら良いけど、それは出来ない相談なんだろうし、嫌だけどしょうがないよね。私たちが望んでなったコトだものね」
「そうだよね」