254 魔法を打ち合う
私は杖を弓に変えて矢をつがえ様としたら、アークシュリラが再度言って来た。
「ちょっと待った。扉に矢を放つの?」
「そうだけど」
「確か変な粉があったよね。透明化したモノを具現化するやつが、無くしたの?」
「あるよ。でも、あれって高いから使いたくないんだよね」
「高いって銀貨3枚だったよね。毎日飲んでいるラガービールと変わんないんだよ。それを高いと言うの」
「ラガービールも高いよね。エールだったら銅貨2枚で飲めるのにね」
「それは仕入れた金額で売っているだけだ。ならばイルーツで醸造する、そうなればエールと同額くらいにはなるぞ。だから扉に矢を放つのはよしてくれ」
「そうだよ。ゼファーブルがこの距離から矢を放ったら、扉に刺さるんじゃなくて家もぶっ飛ぶよね」
「それはやって見なければ判んないよ。でも扉はそれが見えなくても狙い易いからね。本当は屋根に棒状のモノがあると思うけど、あれを壊せれば見える様になるんだけども射抜くのは大変だよ」
「あれを折れば良いのか」
「壊せば良いよ」
「壊せば扉を破壊しないで済むんだよね。じゃ、壊して来るよ」
「私が行こう」
「イヤ、行く必要はないよ。私が魔法で取っ払うからね」
「そうか」
「アークシュリラ。出来るの」
「棒状のヤツだけで良いんだよね」
「そう」
「突風!」
アークシュリラが呪文を唱えると、一陣の強烈な風が起こった。
そして屋根にあっただろう棒状のモノが空中を舞っているのが見えた。
あれを吹き飛ばしたんだね。
「どう、取り外したよ」
アークシュリラが私に聞いてきた。
「えぇ、そうだね。私もやっと見えたよ」
私はそう答えた。
もう壊してしまったから遠慮をする必要はない。
でも、自然災害って思っているかなぁ。
そんな訳はないか。
私だって自然と魔法の違いくらいは判るからね。
玄関扉は鍵がかかっていなかった。
なんて不用心なコトだ。
私たちがこれから押し入るのに、そんな心配を私はしてしまう。
玄関の中は机とソファーが置いてあり、右側の壁には暖炉があった。
その上には一枚の風景画が飾られている。
扉は左側に一つある。
それ以外は目立ったモノはない。
ここは客と話し合うスペースの様だ。
私たちは扉で聞き耳を立ててから、扉を開けた。
そこは廊下であり、先に扉が2つ見える。
「扉があるね」
「近くから開けて行くか」
一つ目の扉の先は納戸になっていて、箱に詰め込まれたビーカーやフラスコ、そして大小の釜などがそこにはあった。
「この中にあるモノって、ゼファーブルの部屋にあるモノと同じだね」
「確かにね。この感じだと同業者だと思うよ」
続いて先の扉を開ける。
そこは大きな机があって、その上には所狭しと実験器具が置いてあった。
壁際には幾つかの棚があり、本や実験器具が置いてある。
「人は居ないね」
「そうだね」
「もう部屋はないが、隠し部屋か」
「それはないと思うよ。部屋の配置や大きさからいって、これ以上作ると外壁を越えてしまうからね」
「地下なら平気だよね。それと魔方陣とか」
「それなら可能性はあるけどね。探す?」
私たちがそう話していると、扉が開いた。
扉を開けたのは、年老いた一人の女性だった。
「ここでナニをしている」
と言うなり呪文を唱えた。
「捕縛」
マズイ、これでは話し合う隙がない。
私もほぼ同時に呪文を唱える。
「対魔法!」
「反魔法結界」
「結界崩壊!」
「拘束」
「解除!」
私たちは魔法を掛けては、即座に打ち消している。
その為に、室内は全くと言って良いほど影響が起きてない。
ヴェルゼーアとアークシュリラは、打って出る機会を窺っている。
相手はまだ結構怒ってるね。
大人しくならないのなら、仕方ない。
「人形化!」
「無効化」
えっ、私の人形化を防いだよ。
ならばレファピテルクラスと考えていい。
魔法の打ち合いは楽しかったけど、悠長なコトは出来ない。
ならばこれでどうだ。
「耐火結界! 雷撃!」
「反転」
「消滅!」
やるね。消せないと判って撃ち返すとは流石だね。
『ヴェルゼーア。耐火結界は貼れたから火の魔法を撃って、私が詠唱する時間を稼いで』
『判った』
『相手はレファピテルクラスだから気を付けてね』
『判った』「劫火!」
「絶対零度」
ヴェルゼーアと相手が撃ち合って居るウチに――
「我はゼファーブル。爾の力を持って目の前に居るモノを捕らえんコトを伏して願う。監獄!」
そのモノは、床に膝を突いて座った。
やっとのことで捕らえるコトが出来た。
「こいつが犯人?」
私はアークシュリラの方を見て言った。
「そうだよ。魔力は同じだよ」
「そう。あとは私が話を付けるよ」
私は感情を押し殺してそう言った。
「あんたにしゃべる気があるかは、この際どうでも良いよ。二つだけ聞くよ。一つは、あなたが山に変なコトをしたの? 二つ目がルッスラムを集めた目的はなに?」
「……」
「私が3つ数えるウチにしゃべらないと、二度と自分の口から弁明は出来なくなるよ。自分の方が上だとは思わないことだね。一つ」
「……」
しゃべる気はないなぁ。
仕方ないか。
「二つ」
「……」
「二人ともしゃべる気がなさそうだから、処分してよい?」
「処分ってヤルのか?」
「山が元通りになるまでは、絶対に死なせないよ」
「良いよ。好きにすれば」
私はポケットから真っ赤な瓶を取り出して、そのモノの方を向く。
そのモノはこれがなんであるか理解した素振りで震えだした。
「三つ」「ワシは……」
ナニかを言いかけたが、数えると同時に瓶から粉が舞ってそのモノに掛かる。
そして、そのモノはその場にうつ伏せた。
「しゃべるなら、もっと早く言ってくれなきゃ止められないよ」
「ゼファーブル。その薬は毒?」
「違うよ、テセメレンだよ。意識が戻っても虫みたいにしゃべるコトは出来ないね」
「それだけか。あのモノの怯えようでは、もっと邪悪なモノの様だが」
「そんなコトはないよ。振り掛ける時に思った期間は心臓が停止するコトが無くなるだけだよ。それとどの虫にするかも決めるよ」
「それってゼファーブルが思った期間、思った虫の様になるってコト?」
「そうだよ。そう言ってるじゃん」
「しゃべらないだけでなく、虫の様になるのか」
「あっ誤解しないで、体の形は変わんないよ。小さくなることは無くって、今のままだよ。食べられるモノとかは変わるけどね」
「それって安いの?」
「なんでそんなことを聞くの? でも、これはとても高いよ。こんだけしか無いのに、金貨10枚もするんだよ」
「そうなんだね」
アークシュリラからはあきれている感じがする。