248 山を発見
私とヴェルゼーアは砂漠を右手に見ながら、カヌーでヴェルゼーアが夢で見た山を探している。
結構な距離を飛行しているが、ここには山すら丘もない。
砂漠地帯の最南端まで行ったら、この場所でなかったと諦めれば良いと私が考え出した時に、突然ヴェルゼーアが言ってきた。
「ゼファーブル。右手に進路をとってくれ!」
「ナニか感じたの」
「あぁ、今まで経験したコトのないモノを感じるな。これがレファピテルたちが感じているモノなのか」
「私は感知系の魔法は得意ではないから、詳しくは判んないよ。でも、初めてでそんな感覚が判るなんてスゴいよね」
「おだてるな」
そうヴェルゼーアは言ったが、満更でもないって顔をしていた。
「じゃ、私はヴェルゼーアに付いて行くから、好きに飛んで良いよ」
「判った。それじゃ私に付いて来てくれ」
ヴェルゼーアは、何回もそこへ行ったことがある感じで飛行した。
もうモノにしたのかなぁ。
やっぱり、ヴェルゼーアはただ者ではないなぁ。
しばらく飛ぶと一つの山が見えて来た。
「ヴェルゼーア、あれなの?」
「そうだな、夢と全く同じモノだ。それで、ここいら辺から怪しいモノを調べるか」
「先ずは山に行こうよ。ナニか判るかも知れないしね」
「可能性はかなり低いが、人などの意識のあるモノでなく、魔物などが本能的に空間を作っている場合もあるな」
「確かにゼロではないよね」
土を食べる魔物もこの世界には居るが、食べたものを全て体内に吸収する訳ではない。
当然、排泄をするから、どんなに食べても空間は作れない。
それでも、魔物が排泄する前に鳥などに捕食されたら、少しは土が減る。
それを途方のない期間に亘り繰り返せば、空間も出来てイツしか山も崩れる。
だからその可能性は限りなくゼロだが、ゼロではない。
私たちは山頂に着いて、周囲を見渡した。
東には遠くに海が見えた。
それ以外は、砂漠に近付くに連れて荒れ地が多くなるが、想像した通りの草原がどこまでも続く景色が広がっている。
小さな街も見えないし、怪しい建物などもなかった。
「見える範囲には、怪しいモノはないね」
「そうだな。これが本当に崩れるのか」
ヴェルゼーアは地面の方を見てそう言った。
自分が見た夢を疑っているみたいだ。
「その言葉は私が言うコトだよ」
「済まん。つい出てしまった。ゼファーブルはこの中を調べられるのか?」
「穴を掘れば簡単だけど、ヴェルゼーアの聞きたいコトはそれ以外の方法だよね」
ヴェルゼーアは頷いた。
私は地中にあるモノを掘り出す方法は複数を持っているが、その中が空洞かを調べる方法は所持していない。
素材など目的のモノが埋まってるかは判るけど……
「この山が空洞かは判らないよ。でも、レファピテルほどじゃないけど魔法的なモノが仕掛けられているかは判るよ」
私はきちんと応えた。
「今回は一次調査でも構わない。それで、頼む」
私は杖を掲げてから、ゆっくり前方に振り下ろした。
そしてそのまま、地面を撫でるように一回転する。
「判ったよ。こっちだね」
「ナニが判ったんだ」
「魔法的なモノだよ」
「それは魔方陣か」
「感じからすると違うよ。ここまで来れたんだから、ヴェルゼーアだって手で地面に触れれば判るんじゃない?」
ヴェルゼーアは少し固まってから言った。
「そうだな。いつもの調子で頼んでしまったよ」
ヴェルゼーアは膝をついて地面に手を添えて、目を閉じた。
ナニかを感じている様だ。
そして、ゆっくりと目を開けて立ち上がった。
「あぁ、私も判ったよ。それに今も土は減り続けているな」
「そこまで判ったの?」
「でも、それを設置したモノは判らないけどな」
私たちは魔法的なモノの近くに移動をした。
そこには一辺が5センチメートルの金属性の立方体が一つあった。
「これだね」
私は杖の先で突っついてみた。
やっぱし動かないかぁ。
ダガーを取り出して立方体の周辺を掘り返すと、それは地中まであった。
「どうだ」
「これは四角柱で、地面に刺さっているね」
「これが土を吸っているのか」
「まだ、吸っているのか、溶かしているか、それとも違う方法かは不明だけどね。今わかってるのは、地面を一応コーティングして強化しているコトだけだよ。ヴェルゼーアだって触ったんだから判ったでしょ」
「ナニかしているとは判ったが、強化だったのか」
ナニごとも勉強だ。
こう云う作業は慣れもあるが、知らないとダメなのだからね。
「それじゃ、抜いちゃう」
「それは出来るのか?」
「出来るよ。但し抜いた後で急に変なコトになっても、責任はとれないけどね」
「それなら、今直ぐに抜く必要はないな。それに、これがナニをしているかが判らないコトには、対処もナニも出来ないな」
これは、いったいナニをしてるのだろう。
土がほしいから、ここから抜き取っていると言っても……山を崩すほどの土を必要とするコトってナニ?
それに、ナゼ魔方陣でなく四角柱にするのかだ。
その意味はナンだろう。
土を大量に使うのは湖や干潟などを埋める場合だけど、この近くにはそれはない。
魔法なので距離は関係ないが、遠方に運べばそれだけ魔力を使うしなぁ。
土がほしいのでないなら……いったいナンだ。
さっき確認した処では、この山では貴重な鉱物は採れそうにないしなぁ。
私が黙って考え込んだので、ヴェルゼーアもナニやら考えている。
「どう。ナニか思いついた」
「これって本当に土を吸っているのか? イヤ、土なのか……あぁ、上手く説明出来ん」
「落ち着いて、一つ一つ話してよ」
自分の理解出来る範囲を超えると、人のボキャブラリは激減する。
それは、脳が対応を拒否するのか、他の原因かを私は知らない。
「私は山が崩れる夢を見たから、土だと思っていた」
「うん。そうだよね」
「土じゃなくても、中が無い状態になれば山は崩れる。例えば水だ」
「地下水ってコト?」
「あくまでも一例だが、山には溶岩も有るし、ガスもある」
「そうか、それらも有るよね」
「でも、ガスでは山を崩すほどの空間は出来ない」
「確かにね。なら今は除外しようか」
「鉱物も考えたが、この山には鉱物はないから、除外して良いだろう。そうなると水と溶岩だ」
「可能性としては水だね」
近くに砂漠があるから、ここから持っていっていると言うこともある。
もちろんこの山だけでなく、この草原にも同じ様なモノが幾つも仕掛けられているコトも考えられる。