247 山が崩れる夢
ヴェルゼーアと久しぶりに、時間を気にせず落ち着いて話している。
「最近はハルメニアへは行ってないね」
「あの件があって以降は行ってない。呼ばれても私たちでなく、出来るだけ私たち以外のモノやゴーレムを派遣している」
「それで済んでいるの?」
「あっちは文句はあるだろうな。私もハルメニアだけにかまけていられない体になったから仕方ないな」
「行っても不具合は起こらないんでしょ」
「今は起こらんが、今後も起こらんとは限らない。その時になって行けませんでは、期待していたら双方に取って不幸だぞ」
「それもそうだね」
「ところで相談なんだが良いか?」
ヴェルゼーアが急に真顔で言って来たから、私は多少身構えてしまった。
話って、ついに結婚するって話かな。
元々ハルメニア国王のリルファンとヴェルゼーアは、互いに信頼していてナンでも言い合える気が置けない仲だ。
最近のヴェルゼーアはハルメニアへ行くことも多くなって来ているから、そう言う話になってもおかしくはない。
それならみんなでお祝いを盛大にやってあげたい。
「ナニ?」
「ゼファーブル、そんなにかしこまれると話辛い。軽い気持ちで聞いてくれ」
「判ったよ」
やっぱり、そうなんだね。
私も友人に話すのは照れると思うよ。
「ウィンデールのとこへ行ってからだが、イヤここ数日なんだが、砂漠が西に見える山が崩壊する夢を何度も見るんだ。そこで砂漠地帯の東側はどうなっているか教えてくれ」
「私はあの砂漠は中央付近しか知らないんだよ。東西は最後まで行ってないからね」
「そうか、ありがとう」
ヴェルゼーアはそう言って、空を見た。
「ヴェルゼーア。でもね。私たちが知っている砂漠はあすこだけだから、多分、あすこで良いと思うけど、崩壊って噴火をするの?」
いくらこの星のことが判る様になったからと言って、行ったことも無い場所の危機を知らせても行くことすら出来ないのだからしようが無い。
これが星からのお知らせならば、絶対に私たちが知って居る所でなければ意味が無い。
「噴火はしない。ナニモノかによって山が崩れるだけだ」
「崩れたその土はドコへいくの」
「判らん。傍に流出するわけでは無い。まるで、もともと山の中が空洞だった様にぺしゃんこに崩れる。多少は土が周りに飛ぶがな」
「それは魔法?」
「そうかもな。錬金術でもナンでも構わないが、山ひとつ分もの土を使うコトってなんだ」
魔法で山の中を空洞にするコトは可能だ。
しかし、ただ空洞を作るだけとは考えられない。ヴェルゼーアの言うように、それをする目的が必ずあるハズだ。
「私が思いつくのは、空洞にしてそこに住むとかナニかを飼育したり育てたりする場合だけど……崩れるなら土が目的だよね」
中の空間を使うのなら、絶対に崩れない様な対策をする。
「そうだと思う。で、なければ山を無くしたかったかだ」
「山の周りって街……じゃなくて魔法使いの住む塔はあるの?」
「細かいコトは判らない。なんせ夢だからな」
「そうだったね。今から行って調べて来ようよ」
私はアイテム袋からカヌーを取り出すと、ヴェルゼーアが驚いた様に聞いてきた。
「アークシュリラは連れて行かないのか?」
「彼女はウィンデールの所に居るから無理かなぁ」
「そうか」
ヴェルゼーアは自分の力でナンとかならないと判断したことには、それ以上の詮索をして来ない。
こう言う所がサバサバしているとか、冷たいと言われる原因だけど、興味本位で聞いてくるよりかは何倍も有り難い。
今のアークシュリラを連れて行くコトは、不可能だ。
私がこの星にない甘味をお願いして、アークシュリラはいくつか作ってきた。
それをウィンデールに試食してもらった所、ものすごく気にいってくれた。
特に豆を煮て作る餡子だよ。
それでレシピを渡したが、風の神殿の傍に甘味処を作るコトに成って、今は従業員の教育をしているからね。
一人しか教えられない先生を連れ出すなんて、無理なモノは無理だから仕方ない。
ヴェルゼーアもカヌーを取り出して、私たちは南西に出発した。
西に砂漠が見える処なら、わざわざ南へ行って砂漠を横断する必要はない。
「アークシュリラは無理でも、レファピテルやビブラエスは置いてきて良かったの?」
「二人は三日前からイファーセル国に行って、神学者相手に話し合いをしている。なので当分は戻っては来ないだろうな」
「話し合いね」
「最初は時と空間の神について教えて欲しいと手紙が届いたが、あの国のモノどもは議論が好きだからな。次々に議題が変わったとしても話し合いだ」
二人なら下手な小細工を労さなくても、並大抵の論戦なら戦える。
それに二人はこの件に関して論理武装が完璧に出来ていると思うので、研究者でも太刀打ち出来ないと感じる。
それに相手が負けそうで変な小細工をしてきても、物理的でも魔法的でも看破できる実力があるから平気だと思うよ。
「ゼファーブルと二人だけで出かけるのは初めてだな」
「そうだね。出逢った頃からは想像も出来ないよ」
「本当にそうだな」
それから何日かが過ぎた。
その間の食事は、私とヴェルゼーアの二人だから、至ってシンプルだよ。
もはや食事のタメに、わざわざ地上に降りる意味すらない。
干し肉なら、カヌーに乗ったままでもかじれるからね。
そう言っても、ずっと干し肉だけだとあきて来るから、肉を焼いたり、スープを作ったりはやっていたよ。
それに食事で地上に降りる必要がなくても、体のコリをほぐすタメなどで地上に降りてはいた。
私たちは、右手に砂漠を見ながら飛行してゆく。
今回の目的地は山なので、見逃すコトは有り得ない。
ヴェルゼーアが夢で見た山を見付けたら、そこから周辺を丁寧に飛行して怪しいモノがないかを探せば良い。
もし怪しいモノがあったら、そのまま二人で解決をしても良いし、みんなが揃ってから出直しても良い。
「そろそろ砂漠は半分くらいが過ぎたことになるけど、山はないね」
「そうだな。見渡す限り、荒れ地や草原ばかりだな」
砂漠が西に見えたと言うコトで、砂漠との境界でなく、かなりの距離をとって飛行している。
単独峰でも連山でも良いから、そろそろ山が現れてほしい。
「ヴェルゼーア。近くに来ている感覚はあるの?」
アークシュリラやレファピテルの感知は、目的物が傍に近付けば反応がある感じがする。
ヴェルゼーアのは夢だが、同じ様に感じても変ではない。
「判らんな」
“使えない”などと、言いそうになるのを私は抑える。
ここであきれたり怒ったりしてはいけない。
もし、これがヴェルゼーアに与えられた能力なのかも知れないから、摘み取る様なコトはしてはダメだ。
もともとヴェルゼーアは魔法は苦手だったのだから、実際には反応があるけどそのわずかな変化に気が付いていないだけかも知れない。
だから、今、私があきれたり怒ったりしたら、二度と私に相談をしなくなるよね。
それに、私も感知はあまり得意ではない。
「そっかぁ。私が砂漠をここしか知らないから、ここだと言ったのが間違いで、全然近づいてないかもね」
また私たちは、しばらく右手に注意をしながら進んでいく。