246 ナンで作らないんだろう
もう風の神殿にいた神官に手紙を預けてから、一ヶ月が過ぎようとしている。
既にウィンデールへ手紙が渡ったと考えても良いだろう。
質問が無ければ良いけれど、対応してくれているかは気になる。
火の神々などは街中で出会うことがあるけど、ウィンデールを筆頭に風の神々を街中で見かけることはあまりない。
特にウィンデールとは、一度もあったコトはない。
街に頻繁に来て飲み食いはしないでも良いが、視察にも来ていないのかなぁ。
会えれば、進捗状況を聞くことも出来るけれど……
しかし、約束の期間は過ぎたのだから、私はサリアの図書館へ行って錬金術に関する本を読むことにした。
ここは魔法は発達していたが、錬金術も高度に発展している。
しかし、知れば知るほど、これだけ発展しているのにと云う疑問が湧いてくる。
例えばこの砂に埋もれない石の作成とかだ。
確か同じ様なモノが魔法陣にもあったと記憶している。
そのどちらかでも使えば、ギルドで長い間達成されていない、砂に埋もれない街道なども時間がかかるけれど問題なく出来る。
更に東にあるコチャンティルを祀っていた神殿には、これが使われているのだろう。
だから長い年月を経ても、砂に埋もれていない。
これらが試作であったとしても、性能は確認済みになる。
砂漠の外まで街道を通すのを錬金術で行う場合は、膨大な石板を作らなければならない。
石板を作る量は多いが、やはり出来なくもない。
しかし、魔法陣は影響を及ぼす範囲にもよるが、それ程必要だとは思えないから作るとしたらやっぱり魔方陣かなぁ。
それに神殿が長い間魔物によって破壊されていないから、別の魔法か魔法陣によって地中から神殿目掛けて魔物が出て来ない様な対策もしていると思う。
それは地中からサーブルヴェールドゥテールが勢いよく出てくれば、建物は中央部であっても真っ二つになるし、端なら粉々に壊れるだろう。
錬金術でも石に加工を施すコトは出来るが、数が膨大になるからやっぱり現実的ではない。
この二つの術式を活用すれば、砂に埋もれないどころか、壊れない石板で敷き詰められた街道が出来る。
細かい街道の仕様を聞いていないが、ヴェルブリュートを走らすタメに土でないとダメと云うなら、石板に成形せずに土のままその加工を施せば良いだけだ。
それは石板より製作は簡単だし、施設も手間はかからないからね。
一番簡単なのは土に混ぜないで液体のまま散布することだけど、これは定期的に散布しなければならずに手間だよね。
私は本を複写しながら作っていない訳を探したが、やる気がない以外の理由が一向に思い浮かばない。
あらかた目に付いた書籍の複写が終わり、街から出てイルーツに転移した。
私がイルーツに戻ってくると、レファピテルが私を探していた。
「サリアに行ってたのですか?」
「うん。サリアに行って錬金術の資料を複写して来たんだよ」
「そうでしたか、それでウィンデールから返事が届いたと、連絡がありましたよ」
「えっ、こんなに早く?」
「ええ、本当です。行き先ボードのゼファーブルの欄にサリアと書いてありましたから、私が手紙を受け取って来ました。これです」
行き先ボードは、私たちが街から外に出掛ける度に記載はしていない。
ただ長期に居なくなるとか不在により問題が出ると判断した場合に、各自の判断で書くコトにしている。
私はその手紙を読み始める。
「レファピテルは見たの?」
「はい。一応抜けがないか、中を確認しました」
「じゃ、そこのベンチで話そうか」
「そうしましょう」
私たちはベンチに腰を下ろした。
そして、私が渡した手紙をレファピテルは見だす。
「どうかなぁ」
「予想通りですね。得意な魔法は属性ごとにキレイに違ってますね」
「そうだね。まぁこれを公表しても、回復や治癒は光や水でも対応可能だね」
「まさか、時の神々が得意とは誰も思いませんよ」
考えれば時間を扱うのだから回復や治癒は出来るだろう。
それは、生き物は怪我をしても自然と治るし、疲れ果てていてもいつかは元気になる。
そんなモノがいくつもあった。
「二つ以上の属性が得意と言うモノはあえて属性に分類しなくても良いよね」
「そうですか。基本的な灯りなどの魔法は属性は不要でしょうが、念操作や念動力は光と闇や空間にきちんと入れるべきですね」
私とレファピテルは、魔法の分類作業をして数日が経過した。
一応は体系的にまとまったが、それはあくまでも論理上でしかない。
実際には、一つの属性に属する魔法しか使えないと云うコトはないからね。
魔法が使えるモノなら、属性に関係なく使いたい魔法を扱える。
そうは言っても、同じ属性の方が覚え易いし、一つの属性に特化した方が若干だが威力も増すようだ。
これらのコトは、今後、研究をしないといけないかも知れないね。
分類作業をしている合間に、取りまとめてくれたウィンデールへのお礼として、ビブラエスが丹精込めて作ったスペシャルケーキをご馳走した。
ウィンデールと街中で遭わなかったのは、ウィンデールが人々の生活に興味が無かったのではなく、甘味処を中心に出歩いていたからだった。
そしてアークシュリラに、この星になさそうな甘味の成作もお願いしたよ。
なんせアークシュリラは、あんな唐辛子の酢漬けなどを作る時間があるんだからね。
絶対に時間が無いなどと、拒否をすることは認めない。