23 ダガーを買う
今日は朝食を食べてから宿屋を出て、ダルフさんの鍛冶屋に私たちは向かった。
「こんにちは。ダガーは出来ている?」
「あぁ、もちろん出来ているとも」
ダルフさんはカウンターの奥にある棚から一本のダガーを取り、アークシュリラに渡した。
「どうだ、握った感じは?」
ダガーを注文したときにダルフさんは、アークシュリラの手のサイズを細かく測った。
その上、様々なダガーを握らせて、アークシュリラのクセなどを丁寧に調べていたよ。
アークシュリラはそのダガーを受け取り、腰の左側に取り付ける。
そして幾度となく抜いたり戻したりをしてから、周りに誰もいないことを確認して数回ダガーを振ってみる。
「良い感じだよ」
アークシュリラは、いつも右側に剣を帯びていて左手で抜く。
今回購入したダガーは左側に有るから、右手で扱うことになるのかなぁ。
一度に使えば二刀流だね。
「じゃ、お金ね」
アークシュリラはダガーの代金が入った紙袋をアイテム袋から出して、ダルフさんに渡そうとする。
ダルフさんは袋を見て、カウンターから何本かの溝の入った板を取り出した。
「この溝にそれを並べてくれ」
アークシュリラが、その溝に銀貨を並べていく。
「一杯になったよ」
「そうか」
その板をダルフさんは受け取って、銀貨の状態を確認してから詰め込んだ銀貨を箱に入れた。
「もう一度だ」
一枚一枚数えるのと時間的には変わらないと思うけどなぁ。
これを客にやらすことにナニか意味がある様な気もする。
再度一杯になって、アークシュリラの用意した紙袋は空になった。
「ゼファーブル。これでやっと私のダガーになったよ」
アークシュリラが再度抜いて私に見せる。
とても素晴らしいダガーということは、私にも判る。
ん?
「ちょっと見せて」
「良いよ」
刃の根元には見たことのあるマークがある。
私は自分のダガーを取り出して、二本のダガーを見比べる。
少し違うが、ほぼ同じマークが付いている。
「私のと刻印が似ているね」
「本当だね」
「済まないが、ワシにも見せてくれ」
「良いよ」
私はダガーをダルフさんに渡した。
ダルフさんはマークを見てから、私の顔を見た。
「このダガーはお前さんのか?」
「そうだけど」
「いつ作った?」
「子供の時だよ」
このダガーは、まだ私が幼い頃に両親とドワーフの国に有った街を訪れたときに、作ってもらったモノだ。
それはドワーフの子供が焚き火だったか、違う火だったかは覚えていないが火傷をした。それで私が薬を作って、その子を治療したことに対してのお礼として貰ったモノだった。
その村にも長いこと居たから、私もドワーフの子供たちと自然に遊ぶ様になっていたからね。
そんな説明を私はした。
「そうか。やはりお前さんは、あの時の魔法使いか」
「私は魔法使いじゃないよ。錬金術師だよ」
「そうか、でもワシらからすると全員魔法使いだ。それは、お前さんらがワシらのことを鍛冶屋と言うのと同じだ。お前さんが錬金術師とか細かく言うなら、ワシらも刀工と呼んで貰いたいな」
「そうだね、ごめんなさい」
この世界に存在する仕事は、魔法を使う職業だけが細かく分かれている訳ではない。それぞれの職業で分かれているだろう。
そうしないと、仲間の中で誰がどの専門か分からない。
仲間以外で有っても、仕事の依頼をしにくい。
「前に着たとき以来だから、少しメンテナンスをしてやる」
「ダルフさんに、何年か前にやってもらったよ。覚えていないの」
「悪いがワシの店もお前さんだけが客ではないからな。でも、今回も最初に来たときにそうかなとは思ったけどな」
「そうだね。それに私のダガーをメンテナンスしてもらっていると言っても、数年に一度しか私が来ないからね」
「師匠の作りだから刃はしっかりしているが、研ぎとかは定期的にやる必要があるぞ、少し甘くなっている」
そして、私のダガーを研いでくれた。
見ただけで、よく切れそうなことは判る。
「ありがとう。で、このマークってナンなの?」
「ワシら作り手が、心を込めて作った証しだ。だからそのマークが有るモノは、研いで刃が無くなるまで作ったモノでなくとも、我々の一族なら何処にいても無料でメンテナンスもする。それは、そのモノにいつまでも大切に使って欲しいからだ」
「そうなの、判ったよ」
私のダガーは子供の怪我を治したお礼だから、マークが付いている意味は判る。しかし、アークシュリラはダルフさんに何かをした訳ではない。なのでダルフさんがダガーにそのマークを付けた意味が判らない。
さすがにダルフさんに『なんでこのダガーにもマークがあるの』とは聞き辛い。
たまにアークシュリラは初見にも関わらず、ずっと昔からの親友の様になることがある。
それは、アークシュリラの性格がなせる技だ。
今回もそうなのかも知れない。
私たちはダルフさんのお店を出た。
「アークシュリラは、ドワーフの国に行ったことあるの?」
「小さな時に両親と行ったけど、私はどこに有るのかとか、そこへの行き方も知らないから行けないよ」
「そうなの」
アークシュリラは悲しそうに言った。