234 国教会の見学
私たちは中央広場の芝が植えられている処に腰を下ろして、野菜の揚げたモノを摘まみながら国教の教会を眺めている。
「アークシュリラは、ギルドでの話をどう感じたの?」
「私は、あの鏡は失われた神殿に納められていたモノだと思うよ。でも、ここが肥沃な土地だったとは全く考えられないけどね」
「そこなんだよ。サリアの人々が晴天の神を祀るのを止めたから、神が怒って砂漠化したんではないよね。その前に火の神にナニかがあったと云うコトだよ」
「そうだけど、その時代は土の神や水の神たちは関係ないよね」
「水の神は関係ないけど、土の神は関係あるんじゃないかなぁ」
私の考えでは、土の神がこの地を見捨てたから、今の様になったのではないかと思う。
「でも、今更ここを肥沃な土地にしたら、砂漠地帯になったから住み着いたスコーピオンとかの魔物が可哀想だよ」
砂漠で無くなれば、生きていけなくなるモノが現れる。
人々にとって暮らしにくいからと言って、環境を激変させる様なコトは頼まれてもやるべきではない。
「そうだね。ここの砂漠を全て肥沃な土地にするのは違うよね」
だったらサリアの人々が、違う場所へ移れば良いだけだ。
移住することが出来るなら、そのモノが住む処を変えれば問題は解決する。
「ナゼ、この地が砂漠化してしまったのか? この国の歴史と云うか、光と闇の神々が戦った以前のコトを調べないといけないかなぁ」
「そうだね。アグステルバの神殿の場所はほぼ特定出来ているから、そっちを調べてからでないと鏡を納めて良いのかが判らないよね」
その戦いによる戦火のために鏡を紛失して、サリアの人々が神々とナニか契約を交わしたかも知れない。
その契約自体がもう無効であるとか、そもそもサリアの人々が思い違いをしていると云うコトもある。
鏡も紛失をしたのではなく、神々との契約によって砂漠の中に埋めたってコトもね。
ナニも解らないで、見つけたからと云って元の場所に納めるのは違う。
「野菜の揚げたモノも無くなったから、関係ないと思うけど教会を見学して帰ろうか」
「そうだね」
教会の正面から中に入って行く。
直ぐに少し広いエントランスホールがあった。
私たちはそこを抜けて先に進む。
「ここってサラステーヴァを祀っているんだよね」
「特定の宗教じゃないのかなぁ」
「違うみたいだね。さすがに国教会だけあって、建物の装飾も立派だね」
柱などに施されている彫刻は簡略化されているモノの、どれもが見応えがある。
私たちは、順路と表示が示している通りに進んで行く。
水の神だからか、所々に水が流れている箇所がある。
「この街って砂漠のど真ん中にあるのに、こんなに水を使っても平気なのかなぁ」
「アークシュリラは、これに魔力を感じる?」
アークシュリラは水に手を近づけた。
「魔力は僅かに感じるね」
「この水は地下水とかじゃなくて、空気から水を作っていると思うよ」
「イルーツと同じなの」
「そうだね。私と同じ考えをもつ錬金術師が作ったと思うよ」
「イツ建てられたかは知らないけど、それってスゴいコトだよね」
これを建てた時は昔のことなので、作ったモノはもう既に生きていないと思う。しかし、長寿命の生き物ならまだ生きている可能性があると感じる。
話が出来るモノなら、会って錬金術の話をしたい。
昔に今の私と同じことが出来る技術を持ち合わせているのだから、イヤ、色んなことを教わりたい。
それに、この地を肥沃な土地にと依頼した、錬金術師との関係も気になる。
関係ないと思うが、長寿命の生き物なら、同じモノである可能性はゼロではない。
「確かにね。今なら魔法陣や魔法自体の研究もかなり進んでいるから、書物などもたくさんあるのでそんなにスゴいコトではないけど……昔のコトなんだからね」
見学コースも礼拝堂にたどり着いた。
どこの教会でも礼拝堂には祈りの対象の像やシンボルがあるし、ステンドグラスやフレスコ画などで神々のスゴさをアピールしている。
それはその神を信心して無くても、どこでも非常に見応えがあるモノが多い。
そして元のエントランスホールに戻って来て、アークシュリラが言った。
「スゴかったね」
「さすが、国教だけはあったよね」
私たちは宿屋への帰り道に市場へも寄って、珍しい食べ物や香辛料などを買った。
「明日は図書館に行こうか」
「どうして」
「ギルドの人があれ程知っているから、歴史書などは充実していると思うからね。それにイルーツに蔵書を増やすことになって、もう一回来るのも手間だよね」
サリアはガシララ王朝に属していない処なので、歴史書は私たちにとって必要性はあまり高くはない。
しかし、イツ必要になるかは判らないから、手に入れられる本は手に入れたい。
「判ったよ」
最終日は図書館に行って魔法陣や魔法関係とか、歴史書などをアークシュリラと二人で複写した。
「ゼファーブル。魔法陣はレファピテルが喜ぶかもね」
「アークシュリラも魔法陣くらい描けるでしょ」
「描けるけど、一人で短時間にヤルのは難しいよ」
「魔法陣なんだから、別に短時間でなくて良いじゃん」
「そうなんだけど、短時間で描ける方が格好いいよ」
攻撃魔法なら短時間にたくさん射出した方が良いが、魔法陣ならミスなく描ける方が良いと思うけどなぁ。
私の思った通り、歴史書はどこよりも充実していた。
しかし、火の神が戦った記録は無かった。
これも、神々によって抹消されたのかも知れないね。
複写があらかた済んだので、早くレファピテルに本を見せたくて、私たちは街から出てイルーツに一度戻ることにした。
イルーツに戻った私は、レファピテルにあのマークのコトやサリアで手に入れた書籍を見せた。
「マークはそんな感じだね。それとこんな本が図書館にあったよ」
レファピテルは私から本を受け取ると、ページをめくって目次に見入る。
しばらくの間、面白そうなタイトルを見付けると、そのページを開いて読みふけっていた。