231 サリアに着く
私たちはサリアと云う国に行くために、砂漠の中をカヌーで飛行している。
「ギルドがあるなら、結構大きい街だよね」
「そこは、どうかなぁ。各種ギルドがあるなら大きいけど、冒険者ギルドのみかも知れないね」
「でも、冒険者ギルドなら討伐の依頼とかがあるから、宿屋とかもあると思うよ」
砂漠のど真ん中で、野宿が前提の討伐に冒険者を集めることは不可能だ。
高級で無くても宿屋はあるハズだし、何回か使う場合もあるが消耗品の武器である矢とか撒き菱、また保存食やランタンの油などを売る店も無くては成らない。
冒険者なら当然のこと出発時に消耗品は必要な量を補充しているが、砂漠の中を進むウチにこれらのモノは無くなっていくからね。
「それなら街自体が大きく無くても、ここなら見つけられると思うけどね」
私たちは更に進んで行く。
たまに魔物が倒れていて、それを順番に沢山の生き物たちが食べている風景にも幾度と無く遭遇した。
「ゼファーブル。やっと砂漠地帯を抜けるね」
遙か遠方に岩などがある荒れ地が見えてきた。
そこいらも砂漠からの砂が飛来していると感じるので、数十年先には砂漠となるかも知れない。
「ここまで二週間ぐらいかかったね。この半分の処に戻って西か東に行かないとダメなんだよね」
「じゃ、戻ろうか」
「下に誰か通ってたり、風景が変わったりすれば良いけど、ずっと同じだから面白くないよね」
「うん、そうだけど、サリアに行くためだから、アークシュリラ、そう言わないでよ」
「判ってるよ」
私たちは一週間の距離を引き返して、東西を見比べた。
オアシスがあるとか小さな泉があると言うことはなく、どちらも砂しかない同じ風景だった。
「どっちに行くの」
「アークシュリラは、どっちに行きたい」
「どっちも同じだね。理由は良いから行きたい方角を一緒に指を指そうか」
「じゃ、指を指してね」
私とアークシュリラは西を指し示した。
「同じだね。じゃ、こっちに行こう」
見た所、周囲は砂に覆われた大地と空しか見えないので、そちらを選んだ理由は無い。
強いて云えば、西の空の方が雲が少なく青かったくらいだ。
それで、取り敢えず西に進んで行くコトにした。
また同じ様にカヌーで飛行していく。
地上を歩いていたら、サリアを捜索し続けようとする気持ちを維持出来ない自信はある。
絶対に途中で他の方法を考える前に、違う場所へ目的地を変更している。
カヌーを使わない人々の精神力はスゴいと感じた。
でも、サリアへ行く、イヤ、行かないといけない理由が有れば、モチベーションは維持出来るのかもね。
一週間が過ぎようとしている。
砂漠地帯が、南北と東西のどちらが長いかを知らないが、もうそろそろ中心部付近のハズだよね。
更に二、三日が過ぎたころ、遠方に湖が見えた。
「アークシュリラ。湖が在るよ」
「そうだね。今まで砂しか無かったから新鮮だよ」
私たちが湖に近付いていくと、その周囲には多くの建物が建っていた。
「結構大きい街だね」
「そうだね。こんなに大きいと思わなかったよ」
湖を中心に建物が囲んでいて、周囲には頑丈そうな壁があった。
その上、街には所々に木々も植えられている。
「ゼファーブル。あの旗のマークって、あの鏡と同じだよね」
街への出入り口に掲げられた旗に描かれているマークは、確かに鏡にあったマークと同じだった。
「と、なると、鏡はこの国のモノだね」
「じゃ、国の宗教と云うコト?」
「だよね。でも、砂漠のど真ん中に在る街が、火の神を崇拝しているのって可笑しいと思うよ。水の神なら判るけどね」
アシュミコルは火の神だし、アシュミコルの派遣した真っ赤なローブを来たモノは火山の調査に来ていた。
ここには火山と云うか、小高い丘すらない。
そんな場所で、そう言う神様を崇拝しているのだろうか。
「そうだけど、ここで浮いていても仕方ないから、街に入ろうか」
私たちはサリアの街に入った。
街の中は城壁で囲まれているので、町並みからは砂漠のど真ん中に在るとは思えなかった。
先ず目に付いたのはヴェルブリュートだ。
書物では何度も見て知っているが、実物を見るのは初めてだった。
こんなに大きかったんだね。
これはラクダに似ている魔物であるが、その速さはラクダの比ではない。
草原を駆ける馬と対して変わらない速度で、砂漠の中を移動することが可能らしい。
ただし毒針があるとか、鋭いキバがある訳ではなくて攻撃力は全くない。
だけど馬と同様に、砂漠での戦いにはとても重宝する。
それが門の周辺に沢山いて、その多さに驚いた。
今は傍に敵対する国はないと思うので、戦争よりか警備のモノが使っているのだろう。
また旅人たちに貸しているのか、売っているのもある様だ。
そして、至る所から香辛料の香りがしていた。
私たちはそんな中、ギルドへ向かっている。
それは、国主の処へこのまま行っても門前払いを喰らうのがオチだし、この場所でどんな依頼があるかというアークシュリラの興味本位でしかないよ。
「ここがギルドだね」
「案外、立派な建物だよね」
ギルドは歴史を感じる三階建ての石造りで、ちょっとした街にあるモノより立派な建物だった。
「ゼファーブル。どんな依頼が有るかなぁ」
「内容によっては受けるの?」
「どうせ一番大きな教会に行っても、私たちにはどうするコトも出来ないしね。上手く貴族などにつながる依頼があれば、受けても良いかなぁと思うけどね」
それも方法の一つとしては良いかも知れない。
隅から順番に依頼を見ていく。
スコーピオン退治とかもあるが、サーブルヴェールドゥテール退治が多い。
「サーブルヴェールドゥテールって人を襲うコトはしないよね」
「進んでは襲わないけど、砂の中から急に出て来るから危ないよ」
「そうか、真下から出て来たらケガをするね」
「で、受けたいモノはあった?」
「ないよ。どれもが、どんだけ日数を要するか想像出来ないしね」
確かに、砂漠のどこかにいるスコーピオンを退治するのは簡単ではない。
街から出て直ぐに遭遇するコトもあるが、ナン日も探索しないと見つからない場合もある。
それは一種の賭けである。
そんな訳で、今の私たちのアンテナに引っ掛かる依頼はなかった。