228 太陽のマーク
砂漠で見付けた鏡の裏面に描かれている文様は、確かに見覚えがあった。
しかし、私はそれをどこで見たのかを思い出せないでいた。
そこでアークシュリラに尋ねて、その返事を待っている。
アークシュリラは少し考えてから言った。
「私もこのマークは見た記憶が有るけど……どこでだっけかなぁ」
アークシュリラが見たコトがあるなら、行った処はそれ程多くはない。
しかし、半島にある国々の旗に使用しているマークはどれもが直線的であり、円はおろか丸味を帯びたデザインを使って居る所はなかった。
それに紋章も、こんなに単純なモノでは無かったと思う。
どこで見たのかなぁ。
まぁ、話しているウチに思い出すだろう。
「アークシュリラ、ナンでここに鏡なんてあるのかなぁ」
「そうだね。裏の文様から言って、冒険に使うモノでは無いよね」
メデューサなど一部の魔物は、直視すると石化するタメに鏡に映して退治することはある。またバンパイアなど鏡に映らない魔物も居るから、冒険者の中にはそれが化けているのかを判別するために、鏡を所持しているモノもいる。
でも、それはこんなに高価な鏡ではない。
なので魔物たちが違う場所から運んで来たか、貴族や大商人たちが旅の途中で落としたかだけど……貴族がこんなに広い砂漠を突っ切るコトは、あまり無いような気がする。それにそのモノたちは家来や部下に探させるから、落としたままと云うことはしないハズだ。
「魔法で、他に関係するモノが埋まって無いかやってみるよ」
「お願い」
私は半径100メートル程度の範囲内に、埋もれている無機物を掘り出すコトにした。
「発掘!」
砂の中から箱らしきモノが出てきた。
「ゼファーブル。石で出来た箱が出て来たよ」
アークシュリラは、その箱に近づいた。
「鍵は掛かっている?」
「掛かってないよ」
アークシュリラはそう言ってから箱の蓋を外して、話を続けた。
「外のマークと中の感じからして、鏡が入っていた様だね」
箱の蓋などには鏡の裏側にあった文様がある。
私もそばに行って、アークシュリラに尋ねた。
「中はカラだったの」
「鏡がずれない様にガードはあるけど、それ以外は入っていないよ。でも、蓋の内側にナニか書いてあるよ」
「読める?」
「私には無理かなぁ。ゼファーブルは読めそう?」
アークシュリラが蓋を私に渡して来たので、それを受け取って蓋の内側に書かれている文字を見る。
「神殿に納めよって書いてあるよ。多分この鏡を神殿に納めるコトだと思うけど……」
「どこの神殿だろうね」
「このマークのある神殿だとお……」
「あっ!」
アークシュリラが突然思い出した様に言った。
私もこの太陽のマークをどこで見たかを思い出した。
「アークシュリラも思い出したんだね」
「うん。このマークはアシュミコルが送ってきた魔法使いが着ていた、真っ赤なローブの腕にあったマークだよね。と言うことは、アシュミコルの神殿かなぁ」
この近くには、私たちが建てた神殿以外は無い。
そもそもこの世界にある私たちが知っている宗教は、よく解らない神を崇拝の対象としている。そのため建っているのは、神殿と云うよりかは礼拝施設に近い。
四大元素……イヤ八大元素と云うのか、魔法で云う各種属性の神々を祀っている宗教は非常に少ない。
もしかしたらそれらの神を信仰するのは、一般の宗教家が云う宗教と違うからかも知れない。
「アシュミコルの神殿がある場所は、聞いたコトはないね。それに私たちが行っても、鏡を所定の位置に納めるコトは無理だと思うよ」
「そっかぁ。無人の神殿で無くて神官が居たら、私たちが直接納めるコトは不可能だよね。そもそもこんな鏡を作るのなら、神官が居ないと言うことはないかぁ」
「で、さぁ、このマークって太陽だよね。アシュミコルは火の神だから、ナンか違うと思うけど……私はアシュミコルの神殿じゃないと思うんだよ」
「だったら、ビブラエスがもらった神々について記した本で調べる? それともアシュミコルを呼んで聞く?」
「確か本には神々のマークもあったから、このマークの神が居るかもね。調べようか」
確かに私たちが世界中を旅して神殿を見つけるよりかは、アシュミコルを呼んで聞いた方が早いのかも知れない。
しかし、この鏡に付いているマークが表している神の名前が判らないので、どんな力を持っている神なのかも判らない。
なので、これをアシュミコルに見せても良いのか、見せてはいけないのかが判断出来ない。
それはこのマークが火の神アシュミコルにつながる神と思うので、下手に見せて要らない力を与えたら大変だと私は感じたからね。
「ゼファーブルがそう言うのなら、本で調べようか」
「アークシュリラはどこまで、ビブラエスから本をもらったの?」
「私は余り興味がなかったから、最初だけだよ。ゼファーブルは?」
「私は全部もらってるけど、火の神々のはまだもらって無いね」
私がもらった最新刊は光の神々だった。
私たちはいつもの様に内容をチェックして、それをビブラエスがハルメニア王国に持っていった。
ハルメニア王国の国王から呼び出されて、教会などへの説明のためにヴェルゼーアはずっと張り付くことになってしまった。
まぁ、私たちが読んで内容をチェックしたけど、問題になりそうな箇所は多々有ったけどね。
勿論、それは光の神が、自分たちの都合の良い様に記した内容ではないから仕方ない。
カンニラムは各神々がまとめた内容のチェックをしていないが、最初のページには各神々の署名が有るので各神々にも同じ内容のモノが配られていると思う。
それを見て、書かれている内容に間違いや思い違いが無いかをチェックしている様だった。
なので、各神からビブラエスの処へ一斉に届かずに、属して居る神々の多い少ないに関係なく順次届いていた。
「じゃ、まだ出来てないのかもね」
「そうだね。届いていて、判ったら旅に行こうか」
「目的地が、この大陸だったら良いよね」
「違うと、大変だよね」
そもそもその神を祀る神殿が、この世界に存在するのかが判らない。
全ての神々が、神殿を持っている訳ではない。
ご利益が無ければ人々も崇拝の対象と判断しないので、神殿をわざわざ建設しようとはしないからだよ。