226 散歩をする
どうしてゴーレムやホムンクルスたちが命令を聞くか、私の研究で判ったコトの説明をした何日か後に、レファピテルは私に次の様に言って来た。
それは「製作している時にゴーレムに襲われるのは、出来上がって云うことを素直に聞いているゴーレムの姿を、祈る時に想像していないのか、想像していてもその力が足りていないからですね」とね。
確かに、それは事実かも知れない。
また、祈りの時間を短くする方法として、ワザと魔力を漏らす……いや、魔力を込めて祈れば良いとも言っていたよ。
それから大きな問題もなく、月日は過ぎている。
私たちもずっと街の様子を見守っている訳ではなくって、気の向くまま周辺へ出向いているよ。
それが出来るのもホムンクルスやゴーレムたちへの教育が一通り終了して、それらが一般的な常識などを持つコトが出来たのがデッカい。
その教育をするのは、私も教える分担があったので、教える合間に実験は行っていたよ。
それに、もともと居たハルメニア王国のモノたちも一部は本国に戻ったモノも居るが、残ったモノたちがしっかり街の舵取り、例えばどこに建物や道を作るとか街の出入り方法などを上手にやってくれているからね。
それにやって来た人々も、街を警備するゴーレムやホムンクルスたちに逆らう様なコトはあまりない。
よく知らない冒険者や旅人とかの中には、逆らうモノもたまに居るけどね。
最近は教育の賜物で、ゴーレムやホムンクルスたちが相手を瀕死の状態にするコトはなくなった。
たまに怪我をさせても、骨を2、3本折るくらいで済んでいるよ。
なんせ、ヴェルゼーアやアークシュリラと少しは戦える実力があるモノたちなので、普通の冒険者では到底太刀打ちできないよ。
さすがに二人の遊び相手として強化しているヤツは、二人のアシスタントとしてゴーレムやホムンクルスたちを指導するコトは有っても、街のコトには携わらしてはいないからね。
今日はアークシュリラと二人で、南の方へカヌーで飛行している。
日帰りでないので、散歩でなく小旅行かなぁ。
「ここら辺はのどかだね」
アークシュリラが周囲を見回して言った。
「街道が通ってないから、ナニもないのかなぁ」
眼下に広がるのは、一面の草原だけだ。
その草原に生えている背の低い草は、風にそよいでいる。
そして、それは見渡す限りどこまでも続いていて、たまに草を食む動物やそれを狙う肉食の動物は居るが、人為的のモノは全くない。
それに、ここから見える魔物もいない。
「そうかもね。変な国が近くにあるとイルーツも大変だよ」
「そうだね」
「そろそろ本格的な旅をする?」
「旅をするにも草原ばかりだと、面白くはないよね。事件はなくても良いけど、絶景や珍しい生き物とか歴史的な建造物がないとね」
どこにそう言うモノがあるのかを、私たちは知らない。
このまま進めば、いつかは海にぶつかる以外は判らない。
「もう少し速度をあげようか」
「そうだね。風景が変わるまで、速度をあげよう」
私たちはカヌーの速度を上げた。
草原には何本かの河も有ったが、エバマ大河ほどの川幅のモノはない。
その中には、魔法で作ったモノか、はたまた太古の時代に作ったのか、橋が架かっているモノもあった。
二日が経った頃、草原は岩場に変わって来た。
「ここは結構ゴツゴツしているね」
アークシュリラがそう言う。
「大きな岩が多いからね」
前方を見ると、その岩場は馬で一日ぐらいの距離を進めば終わって、その先には赤茶色の大地が見える。
「赤茶色のはナンだろう」
「土がむき出しで草が生えてない所か、砂漠と思うよ」
「それだと、変な魔物もいるよね」
「居るね」
砂漠に居る魔物で有名なのは、サソリの魔物であるスコーピオンだ。
左右の前腕にはそれぞれ巨大なハサミがあり、挟まれれば甲冑を着ていなければひとたまりもないし、長い尾には強い麻痺を発症する毒をだす針もある。
更に全身を覆うやたらと固い外骨格を持っていて、低レベルの冒険者では物理攻撃や魔法も効かないので、倒すことはおろか怪我をさせるコトもムリだ。
他にもサーブルヴェールドゥテールやサーブルミルパーツも居る。
水分の少ない環境に適応した結果なのだろうが、ほとんどの魔物たちは体内の水分が蒸発するのを防ぐタメに、丈夫な外骨格を持っている。
その上、狩りの効率を上げるタメか、麻痺系の毒を持つモノも多いよ。
「ゼファーブル。だったら、村か街が有ったら下りようか」
「そうだね。ナニもないのにムリに下りて、魔物と戦う必要もないからね」
アークシュリラならそれらの魔物も倒せると思うし、私の魔物でも対応はできる。
しかし、砂漠での戦闘は体力を消耗するので、戦わないで済むならそうしたい。
「思ってたよりかは、随分と広いね」
「そうだね。馬じゃ進めないから、普通は歩くのかなぁ」
「ゼファーブル、歩くって……スゴい量の水や食料を準備していないと、魔物に出会わなくても砂漠を抜ける前に死んじゃうよ」
「人がいないから、別のルートがあるのかもね」
「そうだね。西の方には南へ行く街道が有ったから、そこを通れば良いのかもね」
「それじゃ、戻る?」
もともと街道がないところを飛んでいるので、街はおろか村すら有るとは思えない。
生き物が通っていれば、街道と言わないまでも道は自然とできる。
通るモノがいれば、草が生えないからね。
「そうだね。これ以上進んでもナニもないかもね」
「じゃ、Uターンしてイルーツに戻ろうか」
私たちはUターンさせ様とカヌーを進めたときに、地上から大量の砂が私たち目掛けて舞い上がって来た。
「うへっ、ナンなの!」
私はそう言って地上を睨みつける。
「ナニ?」
アークシュリラもそう言って、地上を見た。
地上では、巨大な魔物が戦っているのが見えた。
「一匹はサーブルヴェールドゥテールだね。もう一匹はムカデだからサーブルミルパーツかなぁ。それとスコーピオンもいるね」
サーブルヴェールドゥテールが、移動中にサーブルミルパーツとスコーピオンの居るところに来たのか、サーブルミルパーツかスコーピオンが食事のためにサーブルヴェールドゥテールを襲ったが、運悪く別の魔物もいたのかなぁ。
どちらにせよ私たちの浴びた砂は、サーブルヴェールドゥテールが吐き出したモノと云う訳だね。