225 なんだ、こんなことか
街の設備も整って来たこともあり、しばらくして様々なモノが集まり出した。
そのモノたちとゴーレムやホムンクルスたちは、争いや問題も起こさずに過ごしている。
また、もともとそれらが行っていた作業にも、集まって来たモノたちも従事しだした。
共通語を喋れるのなら区別をする必要はない。
やりたい作業や知識がある作業を、やって貰うのが一番良い結果を招く。
但し、腐敗しそうな所……裁判官など一部の公共の仕事は、忖度を一切しないゴーレムやホムンクルスだけにしか任せていないけどね。
忖度がないので何処かの貴族で有ろうと、街で罪を犯せば牢屋に入るコトになる。
私たちの処へ家来たちが直談判をしに来ても、手心を加えるコトは出来ないし、そもそもそんな相談の相手はしないよ。
そう言っても、行政府で道の整備や街の美化などの仕事をしているモノには、ゴーレムやホムンクルス以外もいるよ。
ついでに言うと立法府もあるが、そこで議論をして法律を制定する権限は与えていない。
立法府では制定したい法律の条文を作ることはするが、全住民の投票で制定をするかを決めるコトに成っているからね。
最初にゴーレムやホムンクルスと相談してルールを決めた以外は、私たちは街の運営にほとんど携わっていない。
「アークシュリラ。ここも大きく成ったね」
「ホムンクルスたちが、いろいろとやってくれているからね。カヌーでの運搬もやり出したし、懸案事項はなくなったよね」
「ホムンクルスだと休みなく飛んでいられるから、私たちが運ぶよりか効率が良いからね」
確かに問題は発生していない。
逆に上手くいき過ぎている。
これも神殿を作った、ご利益なのだろうかなぁ。
でも、魔力を入れないホムンクルスが、刃向かわないコトについては全く判っていない。
それを作るのに必要な材料を一つ一つ調べても、そんな効能がでるモノはなかった。
一つ一つの材料でなく、いくつかの材料が合わさると効果がでるかと思い、配合も何十、何百と試したよ。
でも、結果は同じだったので、考えが固まるのを防ぐタメに、今は一時中断をしてるよ。
「ところで、ここってハルメニア王国ではないんだよね。それにゴーレムやホムンクルスがいるから攻めて来る所もないし、国を名乗るコトをするのかなぁ」
「名乗ったら、アークシュリラはどうするの?」
「どうもしないけど、ナンか面白いって思っただけだよ」
そのコトがどの様に面白いのか、私には判らない。
まぁ、生き物がもう少し増えれば、イルーツは国を名乗ってもおかしくない。
イヤ、名乗るべきなのかもね。
「そう。でも、国主を決めたり、外交使節を派遣したりとかやることもたくさん出て来るよね」
「ゴーレムやホムンクルスは、きちんと対応出来ると思うよ。それと知識を習得するために、図書館の蔵書も増やさないとダメだね」
イルーツの図書館にはカンニラムなどからもらった本の複写やそれを書き直してハルメニア王国などに配った本とか、周辺の図書館で複写した本などが収蔵してある。
但しカンニラムなどからもらった原本の複写を閲覧出来るのは、限られたモノだけだよ。
「レファピテルと頑張って、少しずつだけど増やしているよ」
「ゼファーブルたちだけが複写しないで、ホムンクルスにもやらせても良いかもね」
「問題なく複写が使える様になったら、やらしても良いけど今は無理かなぁ」
「まだ完璧に複写出来ないの」
「用紙なら出来るけど、本はダメだね」
ホムンクルスとゴーレムに、私たちは剣術や魔法の指導をしている。
高度な魔法も知っているが、まだ、実戦になると有効な魔法の判断が怪しくなる。
それは軽い魔法で済むのに、大火力の魔法を使いたがるからだよ。
「そっか、ダメなのか」
「剣術はどうなの」
「戦いは、もう大丈夫だよ」
「怪我をさせないで、捕まえるコトも出来る様になったの」
「そこは、まだだね」
やっぱり手加減を知らない様だ。
多分ビブラエスが教えている諜報も、似たり寄ったりなのだろう。
「それと、今はホムンクルスの喋る言語は共通語だけど、ガシララ文字も覚えさせたら良くないかなぁ」
「良いと思うよ。今後は内々で話すコトもあるだろうから、ゴーレムもその言葉で良いね」
そして私はゴーレムとホムンクルスにガシララ文字を覚えさせた。
それは、カンニラムにもらった書物を学ばせただけだけどね。
ガシララ文字についての書物は図書館にあるので、学びたければ読むことは可能だよ。
なので、ゴーレムとホムンクルスだけの暗号や隠語と言うコトでは、決してないよ。
今日も自分の部屋で、ホムンクルスを作る素材の分析をしていると、レファピテルがやって来た。
レファピテルは、机の上に散らかっている機材を見てから尋ねてきた。
「ゼファーブル、研究の方はどうですか」
「相変わらずだね。判ったのはホムンクルスは食事でも、エネルギーを補充出来るくらいだよ」
「それはスゴいことではないですか」
「確かにホムンクルスのエネルギーがどのくらい残っているかを、あまり気にする必要は無くなるよ。だって食事を与えれば良いのだから、どこでも出来るからね。新発見と云えばそうだね。で、それを聞きに来た訳じゃないよね」
「そうでした。この本の紙が挟まっている所を読んで下さい」
レファピテルは一冊の魔道書を渡してきた。
そのページには屈服をさせる魔法が買いてあった。
「この魔法がどうしたの? レファピテルなら、簡単に使えるレベルだよね」
「そうですね、屈服使えますね。で、なくて、ゼファーブルが悩んでいるのは、この魔法で起こる効果の様なモノですよね」
「あっ」
屈服は相手を術者に屈服させる魔法で、魔法が効いている間は一切の反抗的な行動が出来なくなる。
「理解したのですね」
「言いたいコトは判ったよ。でも、刃向かえなくさせる薬のゲホーザムとは、材料が違い過ぎるんだよ」
私はゲホーザムの材料とホムンクルスの材料を並べて、レファピテルに説明をした。
「私は材料のコトは良く知りませんが、同じ様になっているのは事実ですよ」
「それは私も気付いて、両方を分析もしたよ。でも、一致をしないまでも、似た結果にすら成らなかったんだよ」
「やはり。ゼファーブルも気付いていたのですね」
「ごめんね。私が伝えなかったから、レファピテルに無駄なコトをさせたんだね」
「そこは、気にしないで良いですよ」
そもそも刃向かわないだけで、屈服をしている訳ではない。
どちらかと云えば、服従に近いかなぁ。
「レファピテル。屈服に似た魔法は他にないの」
「私は闇属性は……えっーと」
レファピテルは考えている。
「有りますよ、服従が」
「それは屈服と、どう違うの?」
「屈服は、術者の強さに恐れを抱いて仕方なく命令に従う様になりますが、服従の方は、術者の強さに関係なく、素直に命令を実行する様になります」
「じゃ、そっちに近いね」
「そうですね。作った者や所有者のレベルに関係なく従いますよね」
「レファピテルは、このホムンクルスからその魔法を感じる? 持っている杖を使っても良いから、やってみてよ」
「やってみます」
レファピテルは、ホムンクルスに先ず手を添えて、魔法をしらべ始めた。
そして杖を持ち直して、ホムンクルスに当てた。
「かすかに服従に似た感じがしますね。ゼファーブルもやって下さい」
私もレファピテルと同じ様に、杖で頭だけのホムンクルスに軽く触れて、その魔法を感じた。
「うん。確かにナニかを感じるね。ゴーレムはどうだろう」
部屋に置いてあるゴーレムにも、私たちは杖で触れて魔法を調べるコトにした。
「ゴーレムも同じですね」
「じゃ、このホムンクルスの材料で、刃向かわない薬が作れるんだね」
「そうですね。ただ刃向かわないだけでなくて、素直に従う薬をですね」
しばらくホムンクルスやゴーレムについて判ったコトなどを話して、レファピテルは帰って行った。
原因が解れば、そこから解析をすることは簡単に出来る。
私は先ず魔法の感じを思い浮かべて、杖で素材に触れた。
ふむふむ、やっぱり素材自体にはないんだね。
まぁ、ゴーレムも同じ様に魔法を感じたから、素材が原因だと面倒くさい。
そうなると、ホムンクルスになる間に出来ると云うことだ。
ゴーレムと同じ作業は、そんなに多くはない。
外観を整えることは違うだろう。
ならば、残るのは完成したモノを、動くようにするコトだけだ。
レファピテルも私と同じで、完成させてから祈っていた。
祈る対象は特定の神ではなく、完成品に動いてとだ。
これはモノを動かす魔法と違い、魔力を込めずにただ一心に動くように祈るだけだ。
試しに土塊に喋ってと祈ってみる。
三十分くらい祈り続けて、良く判らない言葉でようやく語りだした。
それを杖で触れると同じ様に魔法を感じる。
なんだ! 解れば簡単なコトじゃないか、魔法使いも錬金術師も魔力が多い。イヤ、魔力が多いモノだからホムンクルスやゴーレムを作れる。
魔力を込めていないと思っても、わずかに漏れていただけだ。
ならば薬は作れない。
「ありがとうね」
そう言って、私は土塊を元の状態に戻した。
そして、結果をレファピテルとアークシュリラに伝えたよ。