224 ナゼ命令を聞いてくれるのだろう
私は今まで実験をして、ホムンクルスやゴーレムで判ったコトをレファピテルにも教えた。
「そうなのですか。では、発声の仕方や共通語を教えましょう」
「イヤ、その必要はないよ。共通語は魔法で喋れる様になるよね」
「会話ですね。でもそれは、言語を一つ以上知っている場合に使えます。ですから、言葉を全く知らなければ喋れませんよ」
「違うよ。今回は、学習の方だよ」
「あぁ、なるほど。辞書にある単語を強制的に覚えさせるのですね」
「そう。でも、ゴーレムは良いとして、ホムンクルスが命令に忠実なのが判らないんだよ」
「そうですね。魔力で動いているゴーレムは、基本的に魔力を入れたモノに刃向かえません。しかし、ホムンクルスは魔力で動かす訳ではないですよね」
「そうなんだよ。私の作るホムンクルスは魔力を入れているけど、普通は入れないよね」
「魔方陣はどうですか」
「それも、入れなくても作れるよ。でも、入れないと、完成するまでの時間がかかるけどね」
「作ってくれたモノに、忠義立てをしているとか……ないですよね」
どんな生き物だって産んでくれた親がいるけど、そのモノを殺して食べる生き物や魔物もいる。
殺さなくても、邪険に扱うコトもある。
私はホムンクルスを何体も作ったが、ホムンクルスがそんなに義理堅いとは思えない。
「そうなんだよ。思い浮かぶ理由がないんだよ」
私とレファピテルはしばらくの間、黙って一人で考えてみた。
ホムンクルスは試験管や器などで、薬品を混ぜて作るコトもある。その場合は一切触れるコトもない。
更に、今回アークシュリラに渡した様に、他人が作る場合もある。
この場合でも命令はきちんと実行されるし、途中で製作者が止め様としても、所有者の命じた指示は止めることは出来ない。
例えば魔法なら、攻撃魔法を相手に放たせて、その魔法を奪って威力を増やす上書きなどがあるけど……
ナニか、私の知らない力がかかっているようだ。
それならば、いつもの様にヴェルデムベゼラに聞いた方が良いかも知れないなぁ。
私がそう言う結論に達したとき、レファピテルが言った。
「ゼファーブル。あなたが作っているホムンクルスは、魔力が全て入っているのですよね」
「そうだけど」
「でしたら、そのホムンクルスたちはゼファーブルに対して、絶対に刃向かわないと言うことです。喋らしても問題はありませんね」
そうだ、他のモノが作ったホムンクルスはどうか判らないけど、私が作ったホムンクルスたちが魔力を封入した私に対して刃向かうコトは絶対にない。
アークシュリラに渡したホムンクルスたちも、私ではなくてアークシュリラに刃向かうコトはない。
今はそれで良いのではないか。
「じゃ、ハルメニアの図書館へ行こう」
「いいえ、デアニア王国の図書館にしましょう。辞典類はあすこの方が良いモノがありましたよ」
私たちはデアニア王国の図書館に行き、数冊の共通語辞典を複写したり、杖に覚え込ましたりした。
どこの国の図書館でも、本を複写することを禁止はしていない。
それは、火事や地震などで万が一図書館がなくなった場合も、複数の処に複写したモノがあれば復旧も出来るからだよ。
それに、図書館の利用者の中には、本を無断で持ち去る不届きモノもいるからね。
破損なら魔法などで修復も可能だが、無くなると高レベルの魔法でも復活させられないしね。
そしてイルーツに戻って来て、レファピテルは全てのゴーレムたちを集め始めた。
「ゼファーブル。これで全てです」
レファピテルがゴーレムの数を数えて、言った。
「じゃ、ゴーレムに言葉を入れるよ」
「お願いします」
「学習!」
青白い光が、全てのゴーレムを包んだ。
直ぐに光がやんだので、私はゴーレムに語りかけた。
「仕事はどうですか」
ゴーレムたちは、一向に話し出さない。
「あれっ、ダメだね」
「発声の仕方が判らないのかも知れませんね。今度は私がやります。発声!」
レファピテルがそう唱えると、緑色の靄がゴーレムたちを覆った。
その靄が晴れると、レファピテルがゴーレムに語りかける。
「あなたたちの作業はどうですか」
「順調です」
一体のゴーレムが、くぐもった声でゆっくりと答えた。
「では、作業に戻って下さい」
ゴーレムたちは、今までやっていた場所に戻っていった。
「レファピテル、ゴーレムが喋ったよ」
「本当ですね。これで作業中に発生した、問題の把握もし易くなりますよ」
「そうだね。報告のルールも決めないといけないね」
「後でゴーレムたちと決めます」
その後、アークシュリラにも断って、食堂などにいるホムンクルスたちにも、同じ様に魔法を掛けて喋れる様にした。
ナン日かが過ぎて、私はアークシュリラと話している。
「ゼファーブル。ホムンクルスだけど計算も出来る様になったよ。これで食堂はホムンクルスだけに任せられるよ」
「料理はどうなるの? たくさんの料理を提供するの?」
「今は変える予定はないけど、ホムンクルスたちに聞いてからだね。普通のお店の様にしても良いかなぁ」
喋れる様になったので、ホムンクルスやゴーレムが異常を見付けたら報告も出来る。
そこで、治安を維持する組織などを編成するタメに、私はホムンクルスを更に作った。
レファピテルもゴーレムを作っている。
どれがどの職業をするとは、決めてはいない。
体格はゴーレムの方ががっしりしているが、作ろうと思えばホムンクルスも筋骨隆々に出来るし、ゴーレムも細身に出来る。
私たちが作ったモノは、性能的にそれほど変わらないからね。
でも、治安維持部隊にしたモノは魔法を使えるし、土木関係の作業をするモノはパワーを高めにしてあるよ。
最初にこう言う作業をするなら、この機能が必要かなぁと考えて、私とレファピテルが作っているからね。
ゴーレムやホムンクルスは休息を必要とはしないが、一応、他の生き物と同様に家を建ててそこを拠点に暮らして貰っている。
それは、その様にするコトで、新たな発見があるかも知れないからだよ。
だって、ハルメニアから来ている人々は、ヴェルゼーアたちに遠慮して不具合があっても言ってくれないからね。
その点、ゴーレムやホムンクルスは、遠慮をしないで言ってくれる。
宿屋とか日用品を売る店などの建物が建ち並び、イルーツも発展して来た。
建物を建てるだけならどこでも直ぐにでも出来るが、私たちにはゴーレムやホムンクルスと言う労働力がある。
そう、ここの店舗や施設は人を雇う必要もないから、活用されるかを気にしなければ、どんどん建てればよい。
それに建てれば、直ぐに機能をしだすからね。
そして、いつも呼び付けるだけでは悪いので、ヴェルデムベゼラやエンギルとかカンニラムに確認をして、闇と水のモノたちの神殿をそれぞれ作ったよ。
来てくれているかは判らないが、たまに寄ってもらえればよい。
それらの神官も、ゴーレムやホムンクルスがやっているよ。
作法や決まりごとは私たちは知らないので、闇や水のモノたちに指導をしてもらっている。
神殿にある重要な箇所の管理や本当に秘儀の部類については、自分たちの眷族を連れて来てやらせるかもね。