221 レファピテルと相談をする
何ごともなく月日は過ぎていった。
ヴェルゼーアが心配していたハルメニア王国とエントラント王国間の交易は、両国ともオーラガニアを経由することで問題なく行われている。
オーラガニアも中継地になるコトで、両国の商品が一部でも国内に流通する。
そのために、手数料もほとんど取らずにやっているらしい。
もちろん運賃や倉庫代は貰っているよ。
今日はレファピテルとゴーレムやホムンクルスについての相談をしている。
決して、レファピテルからアドバイスを求められた訳ではない。
「ゴーレムって都度、命令をすることは出来るの」
「遠隔操作は出来ますね」
「それって、ずっと操作しないとダメなヤツだよね」
「ゼファーブルの言う話し相手の様なモノだと、ホムンクルスの方が良いと思いますが」
「そうだけど、ここでも転送装置で送られて来たモノを、倉庫に運ぶとかはゴーレムの方が良いよね」
「そうですね。ある程度は自動でやれますが、珍しいモノやいつもと違うときは指示をそれぞれしないとダメですね」
「そうだよね。それに、本当に指示を理解しているかも判らないしね」
「難しくない指示なら理解出来ますが、複雑な指示だとほとんど不可能ですね」
もともと脳みそがないのだから、自分で考えろとは云えない。
内臓や神経がないから痛みを感じないのが、ゴーレムたちの利点なのだけど……今はそれが欠点になっている。
「どうしたら人間ほどではなくても、理解出来る様になるかなぁ」
「霊魂などを入れるか、神々に受肉して貰うしかないですね。それともデミヒューマンに教え込むかですね」
「やはりそうなるよね。それだと自分の意志があるから、刃向かう場合も出て来るかなぁ」
知能がなければ、複数の指示を判断するコトが出来ない。でも、自我とまではいかなくても、指示を忠実に実行しない場合が出て来る。
一長一短だ。
「それだと服従の魔法を使うしかないですね」
「やっぱり、それしかないのかなぁ」
服従は反抗をさせない魔法だ。精神に異常を起こすこともなく、解除をすれば元通りになる。
ただし、魔法が掛かっていた時の記憶もあるので、やったことによる良心の呵責が解除後に襲う場合がある。
「私たちが行わせるのは、犯罪ではありません。ですから大丈夫と思います」
「だったら、料理人や運転手で募集をして、私たちが教育しても良いよね。教育期間中にそのモノの適性とかも調べれば良いじゃん。それにルルグスにもカヌーの操縦とかを教えても良いよね」
「そうですね。今もルルグスや何人かには私も魔法を、そしてヴェルゼーアが剣術、ビブラエスが毒の見分け方とかを教えていますよ」
「孤児院にも連絡をすれば、参加者が増えるかもよ」
「そうですね。孤児院ならそのモノの性格も判っていますよね」
そうなれば、先ずはルルグスだよね。
「ルルグスって魔法を使えたの?」
「ゼファーブル。あなたが昔にルルグスに見せたのでしょ。それ以来、少しずつですが教えていますよ」
「カヌーは扱えそうなの?」
「自分で飛ぶことが出来ますから、平気だと思います」
私たちがカヌーを様々な処に配ったので、一時的だが多くのモノに利用された。
だが今では、馬や馬車などの元々あった乗り物を、人々はメインに使っている。
やはり一人乗りなので、万が一の場合に対処出来ないコトが使われない一番の理由らしい。
それに馬と違い、ゆっくりと周囲を見ていられないコトも、使われない理由でもある。
これは、慣れナンだけどね。
そうなので私たちのアイテム袋には、返却されたカヌーが幾つもある。
「だったらアイテム袋にあるカヌーを、調整して渡してあげたら」
「性能はどうしますか?」
「レファピテルにそこは任せるよ。もし、ヴェルゼーアとハルメニア王国とかへ行くなら、それ程性能を落とすと可哀想だよ。それと、仕舞うアイテム袋も渡すのを忘れないでね」
「そうでした」
先生役を、レファピテル一人に押し付けるつもりはない。
私たちも当然のこと先生をやる。
と、言うよりかは、三人が交代で教えた方が細かな点にも気付ける。
それで、二人以上がOKをだしたら、合格と云う感じかなぁ。
孤児院の方は、先ずはカヌーを知って貰うタメに、イルナルとロステムルに教えるコトにした。
私とレファピテルはイルナルとロステムルにカヌーの指導に来ている。
ルルグスは既に動かすコトが問題なくできたので、アークシュリラが細かい注意点を教えているよ。
ヴェルゼーアやビブラエスは、私たちが教えている間に生徒がいつも行っている作業などをしている。
彼女たちは移動に転移を使うので、それを伴う作業はとても早く終わるコトもあるけどね。
「もう少し高度を上げられる」
「難しいですね」
私たちは飛翔の魔法で空中に漂っている。
「怖いの? 魔法を掛けているウチは、絶対に落ちないから平気だよ。逆にこの高度だと、下から狙われて危険だよ」
20メートルくらいだと、魔法を下から放たれると対応が難しい。矢もこの距離だと射手によっては致命傷になる。
やはり、飛ぶなら最低でも100メートル以上は欲しい。
二人は更に高度を上げて行く。
イルナルとロステムルには、このくらいのコトが出来る魔力はもともとあるのだから、気持ち的なリミッターが吹っ切れれば問題はない。
「わっ、高い。ロステムル、あれが街だね」
「結構、遠い。イヤ、近いのかなぁ」
「この距離感は大事です。しっかり身につけて下さい」
「「はい」」
イルナルとロステムルの二人は、同時に返事をした。
「そう。良い感じだよ。これは敵に襲われた場合に、体勢を立て直すときや敵わなくて逃げるときにも使えるからね。だから一気にこのくらいの高さまでいけるようにね」
「この様に周囲の状況を知ることも出来ますよ」
数回教えて、ルルグスやイルナルとロステムルはカヌーの操縦をマスターしたので、それぞれにカヌーを渡した。
孤児院用のカヌーは副座式にして、二人乗りが出来る様にした。
子供が乗る場合もあることから、落ちない様にベルトで座席に固定も出来るよ。
それとモノを落下させないカバーも付けてある。
「イルナルとロステムル、一人乗りの個人用もいる?」
「……」
イルナルとロステムルは顔を互いに見合わせたが、返事をしなかった。
「今後、他の先生や生徒も使うかも知れませんから、置いて行きましょう。他の先生で操縦をしたい人や、子供たちの中で操縦をさせたい人が出て来たら手紙を送って下さい」
「そうだよね。それと操縦は慣れだけど、慣れると確認とかが疎かになるから気を付けてね」
「判りました」「気を付けます」
それからイルナルとロステムルから連絡をもらって、孤児院の何人かの先生にもカヌーの操縦を教えたよ。
今は自分の操縦技術を高めるコトを優先しているが、もう少ししたらイルナルとロステムルも先生役が出来るかも知れないね。
ルルグスは、近くの村へ早く安心していけるので喜んでもいた。
慣れてくれば、少し遠くの街にも行けるかなぁ。
やっぱり、こう言ったモノはただ村長に使って欲しいと渡しただけでは、ダメだったんだね。
他の所もきっとそうなのだろうね。
孤児院やエルドマからここまでは遠いから、初心者の三人がカヌーでここにやって来ることはない。
でも、便利に使っているとお礼の手紙が届いたので、慣れたらここまで来て欲しい。
私たち以外の人が、使った感想や意見も聞きたい。
イヤそれを聞くコトは、良いモノにするタメに必要なコトだよね。
三人が新たにカヌーの操縦を始めたが、当初の目的である交易品を運搬するコトは全く出来ていない。
しかし、ルルグスはエルドマの周辺へ、荷物を運搬する場合などに使っている。
そのために、これから徐々に広がっていくと思う。
レファピテルはビブラエスやヴェルゼーアたちと、西の拠点やこの地に居るモノにもカヌーの運転方法を教えている。
カヌーでの移動は馬よりかは早いコトもあり、周辺の警備などに活用もしている。
それに、大型船でなくても少量のお試し品などは、アイテム袋に入れられるだけで今の大きさのカヌーでコトが足りている。
正規に交易品と決まれば、時間はかかるが船で大量に運べば良い。
それか、利用する日が決まっていて時間をかけられない場合は、大船団のカヌーで行っても良い。
利用状況を見て、もし、大型船が必要ならば制作をすればいいよね。
交易だけでなく大型船は、孤児院の子供たちが全員乗れるモノも造りたい。
それが出来れば、孤児院の敷地外へ全員で出掛けるコトも出来るかも知れないよね。