216 その後
数日後にオブゼントから、私たちに宰相府へ来るようにと手紙が届いた。
「ナンだろうね」
アークシュリラが手紙を見て言った。
「面倒ごとじゃなければ良いですね」
帝都へ着き、宰相府の門番に手紙を見せて中に入った。
さすがに招待状があるから、今回は室内に転移をすることはしなかったよ。
「皆さんに来て頂いたのは、我が国とオーラガニアやハルメニア王国と交易をしたく、力を貸して頂きたいのです」
「国同士のコトなので、私たちがとやかく言う筋合いではないぞ」
「判っていますが、オーラガニアはあなた方に相談をすると言うではないですか。我が国は人口も多いので酒などの消費も多いです。何卒、お願いします」
「確かエンラント帝国は、上質なワインなどを造っていたと思うが……」
「今も造っていますよ。飲みますか? それと陛下も少々回復をして皇帝の名称は使っていません。ですので我が国は帝国でなく王国ですよ」
「そうか、以後気を付けるよ。それとワインは結構だが、交易の目的は他の酒か?」
「そうです。ウィスキーと云うのですか、あの酒が欲しいのです。他にもいくつか……」
「そうか。二つの国に確認をするので、そのことは追って連絡をする。それで良いか」
「はい。お願いします。前置きはこのくらいで、それでは本題に入ります。あなた方を我が国の特別貴族に任命したいのですが、如何でしょうか」
「それは、国王の気持ちなのか、それともあなた方が決めたことか」
「我々に貴族を任命する権限はありませんよ。出来て一等勲章を渡すくらいです」
「そうか、それで特別貴族はナニをするのか」
「特段、ナニもしません。名誉職の様なモノで、爵位で言うと大公爵に当たります。強いて言えば、今回の様に事件が起こったら、手助けをして頂ければ良いです」
「対応すると言っても、毎回は無理だぞ。それにお主らが家系や貴族の対面ばかりに気を取られずに、国王をしっかり補佐をすれば良いではないか」
「そうですが……出来る範囲で構いません。報酬は年間でプラチナ貨1枚ですが、どうですか」
「ナニもしないのなら、金はいらんぞ。だから、その金は国民のタメに使え。そんだけあれば、街道の4、5本くらいの整備は出来るだろう」
「そう言って頂けるのでしたら、その様に使います」
ヴェルゼーアは私たちの方を見て、聞いてきた。
「どうする」
「どうせ断っても、幾度となく誘われるなら面倒だな」
「既に二つの国で同じ様なモノに成っていますから、今更一つ増えても変わらないですね」
私とアークシュリラは頷いた。
「判った。それに成るコトにする」
「では、全員のカードを出して下さい。それと特別貴族になられたので、先日お渡しした入国許可証より、立ち入ることが出来る箇所は多くなりますが、まだ所持し続けますか」
「どうする」
再度、ヴェルゼーアが私たちに聞いてきた。
「ギルドカードの方が活用出来る範囲が広いのでしたら、このカードは持っていても使い道がないですね。返却しても良いかと思います」
レファピテルがそう言った。
私もいくつものカードを所持するより、この様な特権のあるカードは返却した方が良いと思った。
「私は絶対に無くすから、返すよ」
「ゼファーブルも返すのか、なら私も必要は無いから返却するか」
「みんなが返すなら、私も返すよ」
全員がヴェルゼーアに二枚のカードを渡した。
「オブゼント、これだな」
ヴェルゼーアがオブゼントに10枚のカードを渡して、オブゼントが機械で私たちのカードの処理をしだした。
「出来ました。確認しますか」
私たちがそれぞれ自分のカードの記載事項を確認した。
「3つの国で貴族待遇って凄くない」
「アークシュリラ、この半島では無敵かもね」
「ゼファーブル、そんなコトはないぞ。ハルメニア王国やオーラガニアも、最近は交易で様々な国々と取り引きをしている。それに伴って両国を知っている処も増えて来ているから、この大陸で最強に近いぞ」
「でも、それらの国での発言権は、私たちに無いよね」
「そんなコトはない。するつもりがあればだが、2つの国ではきちんと国政にも携われるぞ。なので、軽い気持ちで変な約束をしないことだな」
「名誉職と言いましたが、我が国でも国政に参加することは可能ですよ」
「そうか。ならば、もっとここを豊かで暮らし易い地域にしないといけないな」
数週間が過ぎて、ハルメニア王国からヴェルゼーアが交易について尋ねた回答が届いた。
ハルメニア王国としては船で直接エンラント王国へ行くことは無いが、オーラガニア経由なら酒などの交易をしても良いと言って来た。
オーラガニアも中継基地としての機能を強化してくれる様だ。
逆に大陸方面にはオーラガニアからハルメニア王国へ物品を運ぶコトに成るけどね。
話は前後するけど、エンラント王国から特別貴族うんぬんと云うころに、オーラガニアのカペランドにはみんなでクーリツァを渡しに行ったよ。
今はカペランドやその仲間が食べる数しか卵は採れないけど、これから先にクーリツァが増えたらエンラント王国に送っても良いかなぁ。
池が必要なコトなど、飼育する上で大切なコトは説明もしたよ。
卵は食べなければヒナから親鶏になるから、カペランドたちがクーリツァを交易に使うかも知れないからね。
そして、特別貴族となったあとに、ハルメニア王国へは、ヴェルゼーアとレファピテルの二人が視察を兼ねて行ったんだけどね。
ガシララ王朝の研究成果を確認することや、奥の院の面倒などやることは沢山あるからね。
それにファリチスからほとんど分離独立している西方の拠点やエンギルたちが閉じ込められていた処のこともある。
常時私たちが監督をする必要は無いが、たまに問題点などを聞いて改善をしないといけない。
なので、ビブラエスはそっちに行っているようだった。
私たちはその間、決して時間をつぶしていた訳ではない。
エンラント帝国は王国に戻ったから、兵士が来ることはなくなったことなどをセグールに行って村長やベガトル、ダルフさんの所にも行って説明していたよ。
「三人はやることが多くなったね」
「アークシュリラも部外者で無いんだから、混ぜてもらえば」
「それは遠慮しておくよ。今はハルメニア王国が中心になってくれているからね。それにリルファンは、ヴェルゼーアが持ってくる問題を解決するのを楽しんでいる感じだしね」
「そうだね。今後はエンラント王国も入ってくるから、もっと忙しくなるかもね」
「オブゼントらも問題を丸投げするような人じゃ無いから、リルファンやカペランドたちと悩んでくれると思うけどね」
それにアルニムラやもいるし、ダルフさんやベガトルもいる。
ここには相談に乗ってくれるモノはたくさん居る。
貴族など一部の人間だけが、政治を行っている訳ではない。
様々なモノの意見を聞いて、今日より少しでも良くなれば良い。
子供だがルルグスも聞けば、きちんと意見を言ってくれる。
「そうだね。ヴェルゼーアたちも良くしようと頑張っているもんね」
ハルメニア王国やオーラガニア、エンラント王国を含めてヴェルゼーアの支配下になっている感じすらするときがある。
ガシララ王朝でないが、もし三つの国がまとまってガシララ連邦を作ったらヴェルゼーアがリーダーになるんだろうな。