215 発見した皇帝をガーゼルの居城へ連れて行く
私たちは、ヌーバムの別荘にある地下牢で皇帝を発見した。
だが皇帝は、床に伏せっていて動いていない。
「生きているか」
ヴェルゼーアがそう言って私を見たので、私は皇帝の傍に行って脈などを取った。
「生きているよ。衰弱が激しいけど、直ぐに死ぬことはないから安心して」
皇帝の状態は治療をする必要が無いけど……私は振り向いて聞いた。
「治療をする?」
「意識を失っているだけなら、このままの方が運搬し易いな」
「ならばこのままにするよ」
「ゼファーブル。オキトラムの方はどうですか」
「オキトラムかぁ。ちょっと待ってね」
私は杖で皇帝の体を2、3回撫でた。
あれっ、オキトラムの反応が無い。
飲んでいれば、まだ体内にあるハズだけど……
「どうですか」
「レファピテル。皇帝の体内にはオキトラムが一切残っていないんだよ。少量を飲んでも一年くらいは残るハズだけどね」
「そんなコトがあるのですか」
私は再び杖で皇帝の体を撫でるが、全く反応がない。
「反応しないコトはあり得ないけど、皇帝からは検出出来ないね」
「もう皇帝自身に聞くしかあるまい」
「ヴェルゼーア。皇帝に思考読解を使うのか」
「ビブラエス、それしか無いだろう。それに皇帝に成って周辺国を併合したコトなども聞く必要がある」
「そうだったな。すまん」
私は思考読解を皇帝に掛けて、魔法使いたちから怪しい薬を飲まされたのかとか周辺国へ攻め込んだ理由を尋ねた。
「オキトラムは飲んで居ないみたいだよ」
「食事に混ぜていなかったのですか」
「そこは偽ゲランだったエドモンズに聞いた方が良いかなぁ。皇帝自身が作っていた訳じゃ無いからね」
「そうします」
皇帝はこのままの状態で、先ほど捕まえた二人と一緒にガーゼルの居城へ連れて行った。
この二人には、その前にもう一度思考読解を掛けて、疑問点に答えてもらったよ。
「オブゼント、これが皇帝とその二人から魔法で聞きだした内容だ。本人の口から言っては無いが、これが本心だ」
ヴェルゼーアは、オブゼントに思考読解で聞きだした内容をまとめた用紙を渡した。
オブゼントはヴェルゼーアからその用紙を受け取ると、その中をざっと目を通して云った。
「これは凄いですね。ヌーバムの一族はもう終わりでしょう。それに、やはりイッドデラも関与していたのですね。それにエドモンズだったとは……」
「イッドデラは裏で暗躍していたようだが、皇帝を幽閉する実務はやっていないので、私たちは捕まえていない。私たちはこの国の法がどうなっているかは知らないが、逃亡する前に急ぎ捕まえた方が良いかもな」
「そうします。ヴェルゼーア、私を宰相府へ送って下さい」
ヴェルゼーアは、オブゼントを帝都の宰相府へ転移させた。
久しぶりにヴェルゼーアの魔法を見たけど、きちんと練習をしている様だね。
「ガーゼルよ、皇帝はどうする。このままここに置いておく訳にはいくまい」
「そうですね」
ガーゼルは、皇帝の状態を気にしているようだった。
「皇帝の状態だが、ウチの錬金術師が命に別状は無いと太鼓判を押しているから、万に一つも死ぬことはない。数日もしないうちに目を覚ますだろう。最初は粥などの胃腸に優しい食べ物を与えてやれ」
「判りました。ですが、陛下はこの状態で他国を攻めないと約束をしたのですか」
皇帝は意識を失っている状態だから、ガーゼルがそう思うのも致し方ない。
「その点は大丈夫だ。国王はもともと皇帝になる気はないのだからな」
「そうなのですか」
「色々なモノから幽閉された後の話を聞いたらしく、牢屋でずっと悩んでいた様だぞ。お前さんも領土経営で大変だろうが、たまには皇帝の話し相手になってやれ」
「そうします」
確かに思考読解を掛けて、皇帝はそう思っていた。それに国王は自ら皇帝になった訳ではなく、自身が幽閉された後に皇帝にされた。
ガーゼルは家来を呼んで、皇帝を寝所に連れて行かせた。
「それにお主らに私が言うのも変だが、オブゼントに渡した書類に皇帝を救ったモノの名前も書いておいたから、褒美でも与えてやれ。数名のモノは殺害されているが、忠臣なので名誉回復と残された家族の面倒も頼む」
「そうですか。ワシの一存では決められないので、その事はオブゼントと相談します」
皇帝は幽閉されてからの食事は、腹心のモノが差し入れてくれるモノ以外は一切口にしなかった様だ。
食べないコトにより死ぬ事態になったとしても、皇帝はそれを恐れてはいなかった様だね。
「頼んだぞ。それと皇帝を直ぐに宮殿へ私たちが運ぶのではなく、まずは動ける様になったら、お前さんの領土を見せてやれ」
「そうですね。喜んでくれればいいですが……」
「お前さんが良いと考えて、領土を経営したのだろう。国王の顔色をうかがってどうする」
「確かにそうですね。ヴェルゼーア殿は貴族か何かですか」
「どうしてそう思う」
「貴族のことや国家運営をよくご存じだからです」
「私たちはハルメニア王国は貴族待遇で、オーラガニアでは上級騎士の地位を頂いているが、一般に云う貴族ではないぞ」
オーラガニアで上級騎士になるコトは一度は断ったが、幾度となくカペランドやオーラガニアのモノから依頼を受けて、渋々了承したんだよ。
まぁ上級騎士は、正式には貴族ではないけどね。
それにハルメニア王国では、すでに貴族制は廃止されている。
リルファン国王によって、長い間に亘り各貴族に所持されている既得権益も、徐々にだが無くなってきている。
そこは、一度に改革をやるとそのモノたちに反乱をする口実を与えるから、ゆっくりとだけどね。
「そうですか。我が国からも、近いうちに貴族待遇のご連絡があるかも知れませんね」
「その時は考えさせてくれ」