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211 魔法使いたちが居ない

 私たちは宮殿に忍び混んで、魔法使いたちが作業をしている部屋の前に来た。


 ビブラエスが聞き耳をし、中の様子を確認してから小さな声で言った。

「中に人が居る気配がない。勘づかれたのかも知れないな」

「判ったよ。扉を開けて」

 アークシュリラはそう言って、ヴェルゼーアを見てから剣を抜いた。

 ヴェルゼーアも抜刀して頷いたのをビブラエスは確認して、扉を開けた。


 ヴェルゼーアとアークシュリラは、その扉から室内に突入した。

 その部屋はビブラエスが言ったとおりで、誰一人として居なかった。

「誰も居ないな」

 中に入ったヴェルゼーアが言った。

「そうだね。実験機器が使われているから今まで居たと思うけどね。どこへ行ったんだろうね」

 アークシュリラは、机の上に放置されたアルコールランプの火を消しながら言った。


「ゼファーブル。薬品が何だか判るか? レファピテルとビブラエスは、私たちと抜け道を探してくれ」

「ヴェルゼーア。調べて見るよ」

 私は試薬などを取り出して、成分の調査をしだす。

 レファピテルは魔法的な、ビブラエスは物理的な抜け道を探し始めた。

 ヴェルゼーアとアークシュリラも床や壁などを調べている。


 作っていたモノは試薬に反応したし杖でも確認したので、ほぼ100パーセント抽出しているモノはオキトラムだ。しかし、オキトラムで死ぬことは有り得ない。

 別の方法で殺していなければ、皇帝は必ず何処かで生きているコトになる。


「みんな、作っていたのはオキトラムの抽出液だったよ」

「オキトラムですか」

「レファピテル。なんか、まずかった?」

「オキトラムでは精神を混沌にしても、依存性はないはずです。常時服用させるコトは無理かと思いますが、ゼファーブルはその点をどう考えますか」

「そうだね。抽出液だけを毎日服用させるのは、さすがに無理かなぁ。効果がなければ、どんな人でも服用しなくなるよね。でも、抽出液は味がないからスープに入れるとかなら、毎日でも摂取させられるけどね」

「そうでした。食事も魔法使いたちが準備しているのでしたら、混入させることも可能ですね」

「それで、抜け道の方は見つかったの?」

「ゼファーブル、ここに抜け穴が有ったぞ。距離などは判らないが、風の流れからいって宮殿の外に通じているのだろうな」

「ビブラエスは、これを知らなかったの?」

「知らなかったよ。まさか魔法使いたちがここと宮殿の外に地下通路を作っていたなどとは考えても無かったよ」


 王や重臣たちが逃げる秘密の通路はよくあるが、雇われたモノがそんな通路を作るとは思ってもみなかった様だ。

 いくら宮殿とは別棟と言え、宮殿が建っている敷地内に、そんなモノを作って平気だったのかと私も強く感じた。


「ビブラエス。これは魔法使いが作ったモノでは無いかもな。魔法使いたちが作ったのなら、通路内を石で囲うことはしないだろう」

 通路の中を見ていたヴェルゼーアが言った。

「そうだね。ただ穴を掘った訳で無くて、しっかり造って居るからね。これはガーゼルやオブゼントも絡んでいるのか、2人が知らなければ他の重臣が絡んでいるのかもね」

 アークシュリラがそう言った。

「ここは最近建てられた感じではありませんから、非常用の抜け道かも知れません。ですから、これがあることを魔法使いたちは知らなかったかも知れませんね」

 この建物がナニで使われていたかは、今の状態では判らない。

 レファピテルの意見が正しいのだろう。


 そしてこれは、皇帝や魔法使いうんぬんでなく、実際はガーゼルやオブゼントの2人と他の重臣との権力争いなのかも知れない。

 もしそうなら、私たちは面倒なコトに首を突っ込んだことになる。


「レファピテル。魔法の方はどうだ」

「この建物にも対魔法(アンチマジック)の魔方陣か結界が敷いてありますね。なので私とゼファーブルの魔法は、効いていなかった可能性が高いですね」

「そうか。それでこの通路を通って逃げたのだな」

「ヴェルゼーア、それは違うと思うぞ。この通路は蓋をされていて開いて無かった。ここから逃げたのなら、私たちが来たときにも今の様に通路の入り口は開いているハズだ。レファピテルの言ったように魔法使いたちはこれを知らなかったのかもな。そうなると他に逃げる方法が無いので、魔法使いたちは転移したのかもな」

「そうか。転移か」

「ビブラエス。対魔法(アンチマジック)が掛かっている所で、転移することは出来ませんよ」

「それじゃ、魔法使いたちはドコに行ったの?」

 アークシュリラの疑問はもっともだ。

 抜け道や魔法を使わないなら、この部屋で作業していた魔法使いたちが居ないのはおかしい。

 それとも他の方法で外へ行ったのか……


 私たちが部屋に入った時にアルコールランプの火は点いていたから、一人以上の魔法使いがここでオキトラムの抽出作業をしていたと考えられる。


「レファピテル。結界内でも護符だったら使えるよね」

 私がレファピテルに尋ねた。

「それなら、確かに使えますね」

「魔法使いに護符を渡すのは失礼だけど、もしかしたら作業をしていたモノたちは、魔法が使えないのかもね」

「ゼファーブル。魔法使いが魔法を使えないってコトがあるの?」

「リーダーなど数名が魔法を使えるだけで、残りは薬師(ファーマシスト)薬草師(ハーバリスト)なのかもよ」


 確かにガーゼルやオブゼントの2人は魔法使いが集められたと言っていたが、集められた全員が魔法を使えるモノだとは言っていない。

 そもそも魔法を使おうが使えなくても、奇跡を起こすモノ全てを魔法使いと云う場合も有る。

 それに今回は薬が作れれば良いのだから、魔法の実技試験もしていないのかも知れない。

 もしかしたら、一人も魔法が使えない場合も考えられる。


 魔法使いでないから護符を渡していて、今回はそれを使ったのかも知れない。

 しかし、私たちがここに来ることが、なぜそのモノたちに判ったのかと云う疑問が出て来る。

 私とレファピテルは、宮殿全域を対象に魔法を掛けた。

 宮殿へ不意に魔法が掛けられたら、普通なら目的は皇帝にナニかをすると考えるハズだ。皇帝がいないと知っていても、宮殿には重要文章や宝物など他に目当てとなるモノはたくさんある。

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