207 ガーゼルとの話し合う
私とアークシュリラは、ガーゼルの居城にある応接室に案内をされた。
応接室と言っても、さすがに城内にあるのでこの部屋はかなり広い。
しかし、内装とかはお世辞にも豪華とは言えない。
これはガーゼルの趣味なのか、それとも国の方針でこう言うモノを立派にしないのか判らないが、どちらかと言えば質素である。
そして大きなテーブルを挟んで、私たちの前にはガーゼルが居る。
「ワレがガーゼルだ。今日は公式ではないので敬称などは不要として良いか」
「構わないよ。私はゼファーブルで、このモノがアークシュリラだよ」
ガーゼルはエンラント帝国内……イヤ一般的に言うと王だが、私たちの捕まえた捕虜たちの返還交渉であるので今の立場は私たちの方が上だ。
正式な話し合いでも対等だろう。
相手の役職などが自分より上か、下かを考えて話すより都合が良い。
それに、そもそも私たちには役職などはない。
今回の面談でヴェルゼーアたちとの連絡係を、アークシュリラにメインにやってもらう。
念話をしながら誰かと対話をするのは、私でも非常に疲れるからね。
「今回、貴殿たちを呼んだのは、捕まえたモノたちのコトだ」
ガーゼルは、ゆっくりだが威厳のある声で私たちに言った。
そう言ったものの、ガーゼルは私たちを値踏みしている感じもした。
「返すのは構わないけど、条件は手紙に書いたとおりだよ」
私はガーゼルがどう判断をするかは判らないが、至って冷静に返事をする。
「そうか、我が領土外の地域からの撤収だったな。賠償金などの要求はしないのだな」
攻めてきたエントラント帝国軍の全兵士が捕虜になったのだから、ガーゼルとしてはこの戦いは負けである。
それにガーゼル側は同数に近いか、どうしても私たちが返還して欲しい人物を捕まえて居る訳ではない。
一万人とゼロの交換である。
もっと多くを、私たちがエントラント帝国に要求しても良い状況にある。
「お金はいらないけど、また同じ様に攻めて来たら同じ様に捕まえるか、皇帝の一族全員がこの世に存在しなくなるよ」
「そうか」
それだけ言うとガーゼルは黙ってしまい、ナニやら考えている様だった。
もしかしたら、ガーゼルも念話を使えるのかなぁ。
ヴェルゼーアたちの方も、ようやく会談が始まった様だ。
向こうの連絡係は、レファピテルだね。
ガーゼルの次の言葉を待っていたが、考えがまとまる気配がなかったので私は言った。
「あなたは元々は辺境伯なのだから、皇帝が間違ったコトをしだしたら諌言はできるよね。もし出来ないのなら、あなたほど慕われていれば、独立したって民は付いてくるよね」
「そうかも知れないな。でも、皇帝陛下は変わられた――」
そのあとに、思いで話? と言う内容をガーゼルは語った。
昔の皇帝は民のコトを一番に考えて国の統治をしていたが、ある時から不死の体を求めだした。
ナゼ急に不死の体を求めたかは、判らないが……それで様々な国からたくさんの魔法使いが集められて、不死の体になる妙薬を作りだした。
それを皇帝が服用してから次第にワレや宰相などを遠ざける様になり、今では魔法使いの数名だけが皇帝に会うことを許されている。
我が国が各地に軍隊を派遣しているコトも当然のことで知っていたが、魔法使いどもに対抗するには仲間が必要なので信用が出来るモノを魔法使いたちに判らない様に集めていた。
そうしたら手紙がナゼか今回は宰相の執務室に届いたので、ガーゼルも兵士が捕まったことを早期に知るコトが出来た。
掻い摘まむとこんな感じだった。
ガーゼルの話を聞いていて、オブゼントと連絡を密にしている感じがしたので、私はガーゼルに尋ねた。
「だったら私たちと会うことは、オブゼントと連絡を取っているの?」
「取っている。エマルダにいる知り合いから連絡をする機械をもらったから、今直ぐにでもこのことを伝えるコトが出来る」
もしかすると、それって私たちの作った手紙を送る箱かなぁ。
私はアイテム袋から、私の所持している箱を取り出した。
「それって、これ?」
「似ているな。見せてくれ」
ガーゼルは私から箱を受け取ると、よく調べている。
私たちの持っている箱は、最初に作ったモノなので箱に入る大きさなら物体も送れる。
ダルフさんらに配ったモノも私たちのと全く同じだけど、その後に不足したからいろいろな処でも作れる様に簡易版を作ったんだよ。
多分だけどガーゼルが持っているのは、手紙だけしか送れない簡易化したモノかなぁ。
それだとこれと、大きさや型も随分と違いがあるけどね。
「それは私たちが発明したモノだよ」
「そうか。素晴らしいモノを作ってくれたな」
「で、今なんだけど、私たちの仲間もオブゼントと話しているけど、私たちに会う目的は同じなの」
レファピテルから届く念話の内容は同じ様な感じだったが、確認のタメに聞いた。
「そうだ。我々の願いは、皇帝陛下を元の様にしたいだけだ」
だったら別々に話し合う必要はない。
私はヴェルゼーアに念話を送った。
《ヴェルゼーア。私たちがそっちに合流することは出来る》
《ここは狭いから無理だな》
この念話はガーゼルには聞こえていない。
私たちで決める前に、ガーゼルに確認をしないとマズいよね。
「だったらオブゼントたちを、ここに連れて来ても平気?」
「やつは帝都にいるから無理だな」
「出来たら良いの?」
「そんなコトが出来るのなら構わんぞ。いや別々に話すより都合が良い」
ガーゼルの了承は得たから、私は再度ヴェルゼーアに念話をした。
《ヴェルゼーア、こっちに来て一緒に話した方が早いよ。一旦、砦に行ってよ》
《判った》
「オブゼントを連れて来るので、少し待っててね。それと、私たちの仲間も三人増えるよ」
「ならば準備をしている」
「アークシュリラ。行こうか」
私とアークシュリラは砦に転移をする。