202 クーリツァをあげにいく
私は村長やベガトルからエントラント帝国の話を聞き、私たちに出来るコト……そう、この村を救いたいと感じた。
「この件は、出来るだけ早めに解決するようにするよ。もちろん村人が兵士に行くことも併合の話も無しにしても良いんだよね」
「そうして頂けると助かります」
「任せてよ」
「でしたら、この鳥を飼うのは構いませんよ」
「池か湖が無いと飼えないんだけど……」
「それでしたら、今から村の外れに作って下さい」
「アークシュリラ、私とベガトルで池を作ってくるから、村長に飼い方とかを説明して置いてね」
「判ったよ」
私はベガトルと村の外れに行ったら、かなり離れた処に大軍が居るのが見えた。
「あれがエンラント王国の軍なの」
「そうです。一万人は居るらしいです」
「ここに池を作って平気なの」
「あなたたちを信じていますから、平気でしょう」
「そう、ありがとうね」
兵士が駐屯している側に、掘りのような池……湖を作った。
しかし、こんな大きい湖なので、全体を網で覆うことは出来ない。
そこから水を引いて小さな池を作り、鳥小屋なども設置した。
孤児院と同様に池の周囲と上部には網を張って、鳥を襲うモノが侵入しない様にもした。
そしてクーリツァを放った。
「この小屋にタマゴを産み落とすから、毎日誰かが拾ってね」
「毎日ですか」
「産んで一週間が経ったら中身が、鳥の形になってくるから食べられないと思うからね」
「そこはベンネやヘンブンと同じですね」
「そうだよ。でも、ベンネやヘンブンと違いタマゴは産みっ放しだし、大人しいから子供でも拾えるよ」
「それは助かりますね」
私とべガトルは、アークシュリラと村長の居るところへ戻って来る。
「ありがとうね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
アークシュリラとエンラント王国の軍を見てから、ファリチスに戻って来た。
ヴェルゼーアたちはきっとルルグスと遊んでから戻って来るので、まだ帰っていないと思っていたが既に戻って来ていた。
「戻って来たところ悪いが、エンラント帝国がこの付近に軍隊を送っているそうだ」
「そうだって、どう言うこと」
「私たちはエルドマに居た旅のモノに聞いた。直ぐにはファリチスに来ないだろうが、情報までと思って急いで戻って来た」
「それって、エンラント王国……イヤ帝国は、既にセグールの西に軍を進出させていたよ。それで村長にこの書類の複写を貰って来たよ」
私がアイテム袋から貰った書類を出して、ヴェルゼーアたちがそれを見る。
「そうか、もうセグールまで来ているのだな」
「それにダルフさんたちは、防具作りで大変そうだったよ」
「ここいらで、信用出来るモノを作れるのはあの村だけだから、そうだろうな」
「ビブラエス。帝国へ行って、侵攻をやめさせられないの」
「ゼファーブル、無茶をいうな」
「ビブラエス、お前の言うことは判る。しかし、セグールまでエンラント帝国の軍が来ているのは、この書類から言っても確かだ。今直ぐにエンラント帝国へ行って交渉材料を見付けてきてくれ、どんな些細なモノでも構わない。その間は、私たちでセグール……イヤここいらを守っているから頼む」
「判った。時間が無いので、一旦は兵を引かせるだけだぞ」
「今はそれで良い。本格的な交渉などは、追い追い考えるしかないからな」
ヴェルゼーアの言葉を聞くと、ビブラエスは転移した。
「さてと私たちも行くか」
私がセグールに作った湖のほとりに、三人を転移させた。
「ゼファーブル。こんなモノを作ったのですか」
「そうだよ」
「これはクーリツァのタメとは違いますね」
「こんなにも早く私たちが動くとは思わなかったからね。それで、あれがそうだよ」
私が指を指す先に、エンラント帝国の軍隊が居る。
「結構な数だな」
「一万人は居るらしいよ」
「全員が戦闘する兵士では無いと思いたいな」
「この数ですから、炊事兵や衛生兵もいるでしょうが、二割も居ないかも知れないですね」
「それでも8,000人も居るのか。まともに戦って勝てる国は、この半島には無いかもな」
「しかし、兵のほとんどが併合したところの住民たちなら、戦意も練度も高くは無いでしょうから、戦い様はあります」
「無理矢理に連れられて来られた人々たちだから、私は出来れば戦いたくないよ」
「そうだよ。戦いたくて志願したならしょうがないけど、私もそうだよ」
「それはアークシュリラやゼファーブルだけではない。それでどこに私たちの陣を敷く」
「湖の北側かなぁ。あすこなら相手が私たちを無視して南へ進んでも、打って出れるよ」
「そうだな。あの辺りにするか」
私たちは早速、砦を築いた。
「見えているよね」
「見える様に旗を掲げているのですから、気付いてもらわないと困ります」
「これってエンラント帝国の人たちに、私たちだと判るの?」
「判らないと思います。ハルメニア王国を攻めた時に、ただ目立つモノってことで意味も無く作ったのですからね。アークシュリラも作りますか」
「みんなが作ったら作るよ。もし作るとして、今のレファピテルだと旗は二匹のヘビ? それともやっぱりカヌーのマーク?」
「それは――」
レファピテルは自分の杖を見つめてから、言った。
「――私はこの杖ですかね」
そして、アイテム袋からカヌーを取り出して、カヌーに入れていた個人のマークを、左右に居る二匹のヘビが中央で二度交差するモノに変えた。
私のカヌーもお店に掲げていたマークをずっと使っていたけど、今持って居る杖の様に翼やヘビを力強いモノに変えたよ。
それで、それぞれの旗も掲げたので、遠くから見れば、この砦に多くのモノが居る様な感じになった。
「これで、無駄な戦いが起きなければ良いけどね」
「そうだね、ゼファーブル。こんなコトに成るなら、ゴーレムを全部売らなければ良かったね」
「アークシュリラ。レファピテルなら、ゴーレムを作れると思うけどね」
「アシエゴーレムは素材が無いので無理ですよ」
「レファピテルは、アシエゴーレムじゃ無ければ作れるの」
「あの塔で見付けた本に、ゴーレムの作成方法がありましたから、作れますよ」
「そうなんだね」
そう言う私もあの塔で見つけたメモなどにより、完全体のホムンクルスを作れる様に成ったけどね。