1 はじめまして その1
私は森の入り口付近で、倒木や木の周囲とか木の幹に生えている様々なキノコを採っている。
あっ、ここにもあった。
でも、この笠が薄い緑色で赤い斑点があるキノコは、そのまま食べたり焼いたりしたらお腹が痛くなるヤツだね。
しかし、毒抜きと言うのか、きちんと処理すれば整腸薬になるから少し採っておこうかなぁ。
私としてはこういった普通に食べることの出来ないモノを、毒抜きしてまで薬の原料などに利用しようと考えた人はスゴいと思う。
特に最初にその方法を見つけ出して、みんなに教えた人には感謝しかない。
だって整腸薬を作るのだったら、そんな手間をかけなくても他に材料になるモノは沢山あるんだからね。
もしかしたらその人はお腹の調子を悪くする薬を作ろうとして、誤って毒の成分を抜いてしまったのかも知れないけどね。
あまりキノコ採りに夢中になって森の奥深くに行くと、いくら通ってきた木の枝に目印を付けているとは言え、森の中で一夜を過ごすことになる。
それに、動物たちの中にもキノコを食べるモノがいるから、私一人が見付けしだい採ることはできない。
太陽が沈むまでにはまだ時間があるけど、今日はこのぐらいでキノコ採りを終えることにした。
それにしても、今日もたくさんとれたなぁ。
今年は例年になく、キノコがたくさんなっている。
本当に良かった。
私は神さまにお礼を言って、森を出て家へ戻ることにした。
家と言っても、今は丘陵地にあるほら穴が私の家だけどもね。
私は物心ついた時から、この様な生活をしている訳ではないよ。
以前の私は、両親とあっちの街とかこっちの村と、いろんな所を旅をしていたんだ。
それがどうしてこの様な生活をしているかって?
その話をすると少し長くなるけど、私のことを判ってもらうために話すよ。
もう5年くらい前になるかなぁ。
私の居た地方一帯を襲う巨大な地震が発生したんだよ。
それにより私が居た街も、宿泊していた宿屋を始めとしてほとんどの建物が壊れたよ。
領主の館も、街の周りを囲む塀もね。
地震は深夜に起きたから、たくさんの人々が建物の下敷きになって亡くなったんだ。
私や両親もその時は宿屋で寝ていたから、どうすることも出来なかったよ。
私だけが運良くと言うのか、運悪くと言えば良いのか判らないが……瓦礫の中から足の骨を折っただけで、救助されたんだ。
それで私は何日か包帯と塗り薬の交換をして貰うために、臨時の診療場所にもかよったよ。
当然、私も自分の治療が終わったら、他の人々の包帯を替えたり、煮炊きの手伝いをしたりしていたよ。
それは私が錬金術師だからではなく、動ける住民は自分から行政官たちに確認して、出来ることを手伝っていたからね。
治療は街の神官たちが行っていたので、あえて私が治癒魔法を使う機会も錬金術で薬を作ることもなかった。
それがこの街の領主たちが決めたルールなので、他の魔法使いたちも同様に治療とかで魔法を使うことはやっていなかったし、人々も文句を言うことはなかったよ。
それと、倒壊した建物の下敷きになっていて新しく発見されたモノは、生きていれば治療場所へ運ばれて来る。
だから、私は幾つかある治療場所で両親を捜していたが、残念ながらそこで両親を見付けることは出来なかったよ。
そして、私は何度か宿屋の建っていた所へも行き、自力で両親や私たちの荷物を捜索したよ。
そこでも両親を見つけることは出来なかったけれども、やっとのことで両親が使っていたアイテム袋は見付ける事が出来た。
当然、回収された遺体のありかも人々に聞いて、安置されている所を見にも行ったよ。
当然と言えば当然だが、貴族と一般人とで扱いに違いがあった。
身元が判った貴族は、一族に引き取らせて各家々で埋葬をさせている。
しかし、貴族もお金を支払えば、一般人と同様に共同墓地へ埋葬も出来るみたいな話もあった。
身元が判らない貴族と一般人の方は、有無を言わさず共同墓地で埋葬されていたよ。
家族が名乗り出たからと言って、一人だけ個人での埋葬を許せば歯止めが利かなくなる。
それはそれで仕方ないと私は諦めた。
それに全ての遺体に防腐処理をすることは、数から言ってさすがに出来ない。
なので全員の身元が判明するまで、何処かに安置して置く訳にはいかない。
もし、安置して置いて腐敗すれば、伝染病が発生しかねない。
そうなったら大変だからね。
なので、実際に両親の遺体を見た訳ではないから、もしかしたら何処かに居るかも知れないけど……
地震で街はほぼ全て破壊されたが、人々のパワーはスゴいモノで少し経つと簡易な家々が建ちだした。そして、街自体も地震で壊れた箇所を修復や修繕とかをし、徐々にだが復興していった。
そして、半年もしない内に、以前の様なにぎわいを取り戻しつつある。
と、言っても地割れや崩れた山や崖などの地形は、元通りにはなってはいないけどね。
私がほら穴に一人で暮らしているのは、そんな訳だよ。
ほら穴がいくら自分の家と言っても、なにも考えずにそこへ入ると大変なことになるよ。
変なんモノに侵入されない様に扉は付けてあるけれど、自然のほら穴なのでどうしても隙間が出来る。
そう、本当にたまにだけど、ウルフなどが中に居ることがあるからね。
だから、出掛けていて家に入るときが、一番緊張はするし注意も必要なんだよ。
私は錬金術師だから、魔力は当然持っている。
なので、錬金術以外にも、少しの魔法を使うことが出来るよ。
魔法の専門家である魔法使いからしたら、子供だましの魔法だけれども今の私にはそれで充分だよ。
私が使える魔法は、簡単な治癒と回復とか、少しの攻撃魔法かなぁ。
これは魔法が使えるモノなら、最初に教わるので全員が使えるよ。
その後に僧侶や武僧などの聖職者、屍術師や呪術師とか自分が目指す職業の専門的な知識を覚えていくんだよ。
だからウルフくらいの相手なら、不意打ちで襲われなければ私も五分五分の勝負が出来るよ。
今日も家の中にウルフなどは居なかった。