198 やっぱり
私たちはイルナルやロステムルに案内されて、孤児院の一室に行った。
「貴重なタマゴを売ると聞いたのですが、職員は今でも手一杯ですよ」
イルナルがそう言ってきた。
返事は院長でなくイルナルからだったから、今日は断るつもりなのかなぁ。
「だったら初めから売らなくても良いな、売る準備が出来てから少しずつやり始めればよい。それで、庭にいる牛の世話も職員がしているのか」
ヴェルゼーアが尋ねた。
「ここを出てからのタメに、牛の世話は子供たちがやってますね」
「そうか。それなら鳥も子供たちに世話をさせたら良いな。牛との違いを知るコトは良い勉強にもなる」
「しかし、気性の荒い鳥だと子供たちが、ケガをしますよ」
「ビブラエス。出してくれ」
ビブラエスは、クーリツァをアイテム袋から二羽取り出して、話し出した。
「この鳥はクーリツァと言い。非常に大人しい上、タマゴは産みっ放しだ。そしてこれが産んだタマゴだ」
ビブラエスはクーリツァを床に置いて、イルナルとロステムルにそれぞれに一個のタマゴをアイテム袋から取り出して渡す。
二人はタマゴを手にして、真剣な眼差しをそれに向けた。
始めて見たのかなぁ。
「あの鳥が産んだタマゴなんですね」
今まで黙っていたロステムルが聞いてきた。
クーリツァは室内を自由に歩きまわっている。
「それに暴れることもありませんね」
「ここで飼うことも出来るが、変な病気に罹り子供たちにうつすコトもある。そうだなゼファーブル」
「ビブラエス、それもあるけど。子供たちの中には鳥の羽とかで体が痒くなるコトがアルから、一緒の建物で飼うのは大人しくてもやめた方が良いよ」
「そうなのですね。確かに、牛乳を飲むと体調を壊す子供もいますね」
イルナルがそう言った。
「大人になるにつれて自然と平気になる場合もあるよ。症状を軽くする薬ならあるけど、体調を崩すなら無理に飲まさないことだね」
「ゼファーブル。その薬をやることは出来ないか」
「ビブラエス、あげても良いけど。薬が無くなると、牛乳を飲まなくても逆に不安になるよ。だからあとで症状を緩和する薬の、簡単な作り方を教えるよ」
「今じゃ無いのか」
「素材選びからやって欲しいんだよ。だから料理のあとでやるよ」
「料理ってなんですか」
ロステムルが尋ねた。
「料理ってタマゴの料理だよ。売らなくても良いけど、子供たちには食べさせて欲しいんだよ」
「私たちはあなた方にたくさんのお金を頂きました。それで充分です」
「お金は使えばいつかなくなる。かと言って、必要な時にも使わないのはもっとダメだ。だからと言うわけではないが、収入をもたらすモノは有った方がよい」
「そうです。しかし、今直ぐにはタマゴを安定的に出荷することが出来無いので、そんなに利益は出ないと思います。それに職員が自分たちで売ることが出来ないのなら、商業ギルドへ売っても良いですね」
「商業ギルドですか」
「商業ギルドに買い取って貰い、お店に売ってもらいます。但し、今の様に高価な商品だと、悪徳業者が出てきますから、値段は実費に少々の上乗せした額で良いと思います。安価なモノでは悪徳業者も旨味がありませんしね」
「そうだよ。金額が決まっていれば、子供たちでも計算は出来るよね。その場合はここまで、商業ギルドに取りに来てもらった方が安全かなぁ。安く卸すと云えば商業ギルドも嫌だとは言わないと思うよ」
「そうだな。今売ることは決めることではない。院長や職員、そして子供たちと相談してから決めれば良い。それで試食を兼ねて幾つかを作りたいが、ここで火を使う訳にはいかないと思うが台所は借りられるか」
「院長に確認して来ます」
ロステムルがそう言って部屋を出ていった。
一人残ったイルナルは心細そうだ。
ロステムルが院長を伴って戻って来た。
「ロステムルから話は聞きました。どうしてあなた方はそこまで私たちのことに関わるのでしょうか」
「私たちがお節介だからだ。それで、回答になっているか」
「それは何となく判りますが……」
「勘違いしないでね。私たちは別にあなた方で無くても、同じことをしているよ。鳥がいて、そのままにして置いたら魔物にやられるからね。それを活用することが出来る人がいれば届けるよ」
「……」
「それともお金のことか、それはブゴーグは確かに高価な魔物だ。でも、私たちはあれを譲ったお陰で、もっと希少な魔物に出会えた。それにより、冒険者ギルドのギルマスにも知り合うことが出来た。もし、ブゴーグを譲らずに冒険者ギルドで私たちが売っていたらこうは行かなかったから、逆に譲ってくれと言われたことに感謝をしている」
「そうなのですか」
「それと、置いていった箱は、私たちが立ち寄った処にも幾つか置いてある。今回が初めてでも無い。出来れば全ての村や集落に設置したいと思ってもいるからな」
「なんとなくでしか判りませんが、それであなた方の気が済むのでしたら、私たちはその申し入れを受け入れましょう。しかし、これから台所は昼食の準備で無理です」
「今日の献立はなんなの」
「イルナル、今日は何を作るつもりですか」
「今日は野菜を炒めたモノとスープを作ろうと思ってます」
イルナルが応えた。
「イルナルが作って居るの」
「この二人が作って居ます」
「献立っていつまで決まっているの」
「決まっていませんが、買い物をする二人の頭の中では決まってます」
「だったら、今日の昼ごはんは、私たちが作っても良い」
「人数が多いですが……」
「人数は大丈夫だけど、野菜炒めをタマゴ料理にしても良い」
「あなた方は普通の冒険者では無いのですか」
「冒険者だよ。定食屋も少しの間やっていたから、このくらいの人数で全部同じ料理なら作れるよ。そうだよね」
「作れるな」「作れますよ」
ビブラエスとレファピテルが応えた。
「そうまで言うのでしたら、お使い下さい」
アークシュリラとビブラエス、レファピテルはイルナルとロステムルの案内で台所へ行った。
ヴェルゼーアと私は残された。
着いていっても戦力にはならないから、それは仕方ない。
「院長、聞いても良いか」
「何ですか」
「イルナルとロステムルのコトだが、あの二人は子供たちの相手はしないのか」
「しない訳ではありません。彼女たちは少しの魔法ですが使えます。ですからもっぱら街とのやり取りを中心にやってもらってます」
魔法が使えず剣も扱えなければ、魔物や盗賊に襲われたら為す術はない。
適材適所だけど……