197 ホッペルポッペル
私たちは湖の周りを相変わらず進んでいると、前方にたくさんの鳥が歩いている。
「鳥がたくさん居るね。名前って判る?」
アークシュリラが言った。
「ベンネやヘンブンに似ているが、ちょっと違うな」
少し考えてからヴェルゼーアがそう答えた。
「そうですね。ベンネやヘンブンだったら、ここに居るだけで私たちを攻撃して来ますものね」
「そうなんだね。とても大人しいね」
「多分これはクーリツァだな。私たちの居たところでは生息はしていないから、こんなに居るのは私も初めて見たぞ」
「ビブラエス、そうなの?」
「連にも居なかったから、こいつは半島はおろか、大陸の東側にはいないのかもな」
「そうかいないんだね」
「そうだな。少しタマゴを貰うか」
ビブラエスの説明では、クーリツァはタマゴを多く産む鳥だが、巣で産まずそこら中に産み落とす様だ。
なので至る所にタマゴがあるんだね。
そして大人しくて飛ぶことは出来ないが、水辺を好むし泳ぎもするらしい。
そうなので何処の草原にでもいる訳ではなく、やはり河より湖の近くに居ることが多いそうだ。
クーリツァの説明が終わって、ビブラエスが続けた。
「そうだな。私がなんかタマゴ料理を作ろう」
いくらクーリツァがタマゴを産みっ放しだとしても、傍に産んだモノの居るところではさすがに私たちでも料理は出来ない。
それで、私たちはクーリツァが見えなくなる場所まで移動したよ。
ビブラエスはジャガイモを良く洗ってから皮を剥いて、一口大の大きさに切って炒めだした。
そして玉ねぎやニンジンを細かく刻み、干し肉をジャガイモより小さく切ってジャガイモと一緒に炒める。
最後にといたタマゴを流し入れる。
「出来たぞ」
一皿ごとに切り分けられたホッペルポッペルが乗っている。
これは食べ応えがあるね。
それぞれが、ホッペルポッペルにかじり付く。
「美味しいですね。ベンネやヘンブンのタマゴと味は変わりないですね」
「こっちの方が濃厚かも知れんな」
「ジャガイモと肉のバランスも良いよ」
「本当に久しぶりのタマゴ料理だよね。ナゼ、街でも売っている処が少ないの?」
「私たちが半島でたまに食べていたのは、気性の荒いベンネやヘンブンのタマゴだ。飼育をするにも、狭い処で飼うとお互いに闘いだす。と言って広大な場所で飼育する訳にもいかないから、上流階級用に僅かに飼育されているだけで、そもそも流通自体が少ないから仕方ないな」
「もし、売っていても高価ですね」
タマゴを庶民が知らない訳では無い。
自然界に居る鳥のタマゴを採取して食べる事もある。
しかし、鳥たちも自分たちの子供なので、取ろうとすれば鋭いくちばしを使って襲ってくる。
採取するモノもケガをする場合も有るから、飼育されたモノで無くても金額は安くは無い。
「これをファリチスに届ければ、みんなも食べられる様になるかなぁ」
「どうだろう。ファリチスにはタマゴがなくても、食べ物は豊富にあるからな」
「そうですね。私たちがお店をやめると、直ぐにマヨネーズなどタマゴを使うモノはなくなってしまいましたよ」
「それは仕方がないね。材料のタマゴが高いから、儲けを考えればあの値段では売れないよね。それになくなってもみんな困っていなかったよ」
アークシュリラから引き継いだビブラエスやレファピテルが定食屋をやっている間は、たまにタマゴ料理も提供されていた。
しかし、私たちがお店を他のモノに引き継いで、直ぐにそれらは消えて行った。
確かにタマゴ料理が無くてもファリチスには、様々な料理があるから仕方ないけどね。
「だったら孤児院にあの鳥を運べば、あれほど大人しいんだから子供たちとも仲良く出来るよ」
「牛が居たから、タマゴをあっちこっちに産まれると大変だぞ」
「ならば、小さな小屋でも建てた方が良いかもな。大人しければ、お互いに闘うこともないだろう」
「私たちが幾つかのタマゴ料理も教えて消費出来る様になれば、栄養状態も改善出来るよね」
「それにタマゴも売れれば、収入にもなりますね」
「私たちは孤児院の傍にずっと居る訳でないから、それは院長の交渉次第だな。残念だが、そこまで面倒を見るコトは出来ないな」
問題が発生したら、内容を書いたモノを手紙の箱に入れてくれれば私たちに届く。
しかし、私たちがこの箱を置いたのは、街との日常連絡で活用して欲しかったからで、私たちとはあくまでも緊急時の連絡用だよ。
私たちがいつでも助けてくれると、孤児院が思う様になったら良くない。
出来るだけ私たちも助けてあげたいが、依頼が重なっていけないコトもある。
瞬時に移動は可能だが、私たちは分身して複数の場所に居るコトは出来ない。
なので、そこは今まで通りに院長や職員で考えて、時間が掛かっても自分たちの力で出来るだけ解決して欲しい。
「孤児院に持って行って要らないと言われたら、ファリチスに持って行こうよ」
「それもそうだな」
折角仲良く暮らしているのに仲間と離れ離れにするのは可哀想なので、全てのクーリツァを捕まえた。
タマゴも見える範囲にあるモノは全部拾ったよ。
「直ぐに孤児院へ行くか」
「他にも珍しい生き物が居るかも知れないから、湖を一周だけはしようよ」
「手紙で事前に確認した方が良いと思いますよ。タマゴを食べることを禁止している宗教などは、聞いたことは無いですが……」
「それもそうだな」
いつもの様にヴェルゼーアが手紙を書いて箱に入れた。
それから数日が過ぎて、私たちはようやく湖を一周した。
「じゃ、行くか」
「そうだね」
私たちは孤児院を囲む柵に作られたゲートに転移して、建物まで歩いて行く。
「教える料理は決めたの」
「料理はホッペルポッペルと肉巻きか肉炒めで、後は手間がかからないゆでタマゴと目玉焼きだよ」
ゆでタマゴと目玉焼きはそのままでも一品として使えるが、他の料理でも使えるので知って損はない。
時間のかかる料理やお菓子とかは、専属の料理人がいない孤児院なのでやめた様だ。
正面玄関に着くと、イルナルとロステムルがやって来て一室に案内をされた。
私たちの担当に成ったのかなぁ。
それとも雑用は、この二人が全てやって居るのかもね。