196 山にある魔法陣の破壊
私たちはイルナルとロステムルの二人と別れて、山に残してある魔導師の魔法陣や仕掛けを全て消し去りに行った。
「この前に来たときには一匹も居なかったのに、今日は何匹かの動物もいるね」
アークシュリラが周りを見ながら言った。
「この装置が悪影響していたのかもね」
「そうなるとブゴーグたちも、ここに戻って来るかもな」
全ての生き物が異なる地域で暮らしている訳ではないが、棲み分けが出来てお互いが平和に暮らせたら良いなと感じた。
「さて、これで全て消し去った訳だな。次は何処へ行こうか」
「ここからだと、やっぱり湖か」
「そうだね。南の方は面白そうにないよね」
南方は相変わらずの草原が続いている。
私たちは北にあった湖に向かった。
急ぐ旅では無いけども湖は結構遠くにあったので、カヌーで行くことにした。でも、速度は非常にゆっくりである。
もうこの速度でなら、寝ていても直進は出来る。
それでも馬よりかは早いよ。
と云っても、寝ることはないけどね。
「私は全部の目次を見ていないけど、やっぱり塔に有った本って魔法の本が多かった?」
「ゼファーブル。魔法の本も有ったが、お前が好きそうな本も有ったぞ」
「そうだね。あのモノって魔導師じゃないのかもな」
「昔は魔法を使うモノ全員が、魔法使いと呼ばれていたと聞いたことがありますよ。500年くらい前から徐々に細分化されていき、今の様になったらしいですね」
「そうだよ。その前は剣で戦うモノも混ぜて全てが、冒険者って言われていた時代もあったからね」
「ギルドが冒険者ギルドって呼ばれるのは、その名残だな」
「今も宿屋とかでも、そう言われるよ」
自分はあのモノと違うと自分で呼称する場合と、専門的に技術を磨いたモノを称えて呼ぶ場合に、今までと違う呼び方をすることが多い。
そして今や呼び名であふれかえっていて、原点回帰もしている。
「でしたら、それらの本はゼファーブルに渡しますね」
「いつでも良いよ」
私たちは湖の傍に着いて、馬での移動に切り替えた。
まだ傍であるが、ここからでもその大きさに圧倒される。
最初から馬や歩きで来て、これが見えた時は海に着いたと思うにちがいない。
私たちは今までカヌーで移動していたので、湖はずっと見えていたからそうは思わないけどね。
「この大きさは、ほとんど海だね」
「そうだな。でも、潮の香りがしないから、この湖は淡水なのか」
「そうですね。塩湖でしたら、既に香っていても良いですね」
「カヌーでは、この周辺に大きな街はなかったな」
「だったら釣りでもする」
ここに来た目的は特にない。
山頂で話し合って、南の方は草原だったので、それに比べて湖の方が面白そうと言うだけだ。
「一応、湖は一周しようか。反対側は見えないしね」
「そうだな。ゆっくり景色を眺めるのも良いな」
私たちは湖の周りをのどかに進んでいる。
「この湖って流入する河もないよね」
「まだ一本も河が無いのは変だな」
「魚はいる様だから、水も入れ替わってると思うけどね」
私たちは湖の周りを進んでいる。
既に幾つかの村も通り過ぎたし、河も幾つもあった。
「特に大きいだけで、普通の湖だな」
「ヴェルゼーア。さすがに、そんなに昔のモノや事件には出会わないよ」
「でも、結局は塔も私たちが解決したし、これでブゴーグたちも山に帰れば良いけどな」
「そうですね。魔法陣とかが壊れるのは仕方ないですが、後の世で問題にならない様にしないといけないですね」
「レファピテルは自己修復って、理解することが出来たんだよね」
「ほぼ理解しました。しかし、破壊されたらダメなので、誰でも小さく作れる様にしないとならないですね」
「小さくされたら、非常に困るぞ」
「ビブラエス。消し去るのは無理だとしても、解除系の魔法を覚えれば良いのですよ」
「私も、そろそろ本格的に魔法を学ぶかな」
ビブラエスの技は、そのほとんどが魔法でないので、使えないことは起こりにくい。
魔法を多用する諜報や忍びのモノもいるが、魔法が使えない場合はナニも出来なくなってしまうからね。
その場合は魔法使いも無力化されるよ。
でも、魔法が使えない原因を上回る魔力で、それを解除することが出来れば問題はない。
「そうですよ。ビブラエスだけでなく、ヴェルゼーアもアークシュリラを見習って魔法を勉強して下さいね」
「考えておく」
ヴェルゼーアは興味なさげに言った。
私たちは既に湖の最北端に着いて、反対側を南へ向けて進んでいる。
ときたま、鳥が水面下で泳ぐ魚を獲るために急降下して来たり、魚が水面上に跳ねたりしている。
小さな鳥なら気にもならないが、カラスくらいの大きさの鳥が近くに飛び込むと、音や水飛沫も大きいのでさすがに驚く。
普通のカラスも水浴びはするが、上空から水面下に勢いよく飛び込むのは、カラスの魔物であるヴァロアナが多いよ。
こいつはカラスの様に真っ黒ではなく、どちらかと云えば紫色だね。
鳥たちも何も考えずに魚を食べるために飛び込んでくると、湖には飛び込んで来た鳥を襲うワニなどの種類もいるから、注意が必要だけどもね。
鳥たちも考えないと、逆に自分が食べられてしまう。
ここでも弱肉強食の世界があって、きちんと食物連鎖をしている。
それ以外は特に変なん洞窟や怪しい建物とか、変わったコトさえもない。
野宿の度にレファピテルは、あの塔から持ち出した本を数冊ずつ私に渡してくれた。
まぁ、魔法関係の本は私が貰うより、レファピテルが読んだ方が良いよね。