195 イルナルとロステムル
私たちが帰るためにラステバと受付に行くと、受付からエステスがこっちを見ている。
最初はギルマスが来たからと思ったが、ナンダか困った顔をして居るようにも感じた。
受付に居るのはイルナルとロステムルの二人だ。
「あの二人は売りに来たのか」
「その様だけど、少し変だな」
そのまま見て居ると、ロステムルが私たちに気が付いた様で指を指す。
「傍に行くか」
「そうですね。どっちも困っている見たいですね」
ラステバも私たちと一緒にそこへ行った。
「どうした」
「あっ、ギルマス。この方々がブゴーグを売りに来たので、退治した場所とかを聞いたのですが、少し困ったことになりました」
「そうか、場所は判っているのだな」
「はい。依頼の有った森の近くです」
「だったら、普通に処理をすれば良いではないか」
「それが自分たちでは倒して居ないから、依頼の達成で無いと言うのです」
「なるほど、そうなると入手先が問題だな」
魔物をお店から盗んで売りに来る、不届きモノも居る。
冒険者ギルドとしては、そんなモノを買い取って商業ギルドへ廻すことは出来ない。
信用問題になるから、そこはいい加減にはいかない。
「はい。それで落ちていたかと聞くと、今度は親切な人に譲って貰ったとしか答えてくれません」
「ブゴーグだぞ。売ればいくらになると思う」
「そうですね……」
なるほど、それで三人とも困っていたのか。
「この人たちに貰いました」「私たちが譲ったモノだ」
イルナルとヴェルゼーアが同時に言った。
「決着をしたな。二人とも疑ってすまん。このブゴーグは状態が良いし、それに少し迷惑を掛けた分を上乗せして金貨5枚で良いか」
「はい」
「ヴェルゼーアたちも、もう一度カードを出してくれ」
私たちは面倒だが、自分たちが播いた種だからきちんと刈り取らなければいけない。
私たちはラステバにカードを渡した。
それを受け取るとエステスに渡して言った。
「エステス、ベルルに処理を頼め、早く用意しろ」
「判りました」
エステスはカウンターの奥に行き、少しして戻って来た。
「成功報酬がこちらで、魔物の買い取りがこちらです」
「5枚ですから、こんなに貰えませんよ」
「ブゴーグは一体で金貨5枚だ。2体なので金額はあっていると思うが」
自分たちがとんでもないことをしたと気付いたらしく、イルナルとロステムルは困っている。
まぁ、ウルフよりちょっと高いくらいと、思っていた様だね。
もう一方のトレイからヴェルゼーアはカードのみを取って、私たちに配った。
「後はイルナルとロステムルの分だ」
ヴェルゼーアも人が悪いね。
金貨10枚で困って居るのに、達成報酬は一体につき金貨10枚だからね。
「遠慮はするな。ブゴーグを譲ってくれと言い出したのは、自分たちじゃないか、それにここで会ったのも何かの縁だ。その金も受け取ってくれ」
「ブゴーグって……私たちはこんなに貴重なモノと知らずに……」
結局イルナルとロステムルの二人がいくら頑張ってもヴェルゼーアに敵うはずもなく、最後は全てのお金を受け取ってくれた。
奥からベルルがやって来る。
「ギルマス。これは良い魔石ですね」
ラステバはベルルから魔石を受け取るとヴェルゼーアに差し出した。
「こんな綺麗な魔石はそうそうないぞ。魔石は討伐した証しだ、持って帰って良い」
「良いのか、それでは買い取り金額が高すぎないか」
「ブゴーグは皮だけでなく爪や牙、肉や内臓も高価だ。私たちが損をすることはない」
「ならば、遠慮無く頂くとするか」
ヴェルゼーアはブゴーグの魔石を受け取り、アークシュリラに二つとも渡した。
アークシュリラはその二つを受け取ると、それを私に差し出す。
「これはゼファーブルにあげるよ。アシエゴーレムの魔石はあげられないからゴメン」
「うん、ありがとう。でも、二つも要らないから、一つはアークシュリラが持っていて良いよ」
「ありがとうね」
アークシュリラは嬉しそうにそう言った。
私に全部の魔石を渡したが、本当はアークシュリラも欲しかったんだね。
私たちとイルナルとロステムルはギルドを後にした。
イルナルとロステムルがこの後は街で買い物をすると言うので、私たちは護身のためにと一緒に行ってあげた。
その際に自己紹介もキチンとしたよ。
買い物は孤児院で使う塩などの調味料とか肉や野菜などであった。
全ての買い物も終わったので、私が聞いた。
「あなたたちは馬車で来たの」
「はい、そうです」
「私たちの所為でギルドで時間がかかったから、孤児院まで送るよ。それに付けて来るモノがいないとも限らないしね」
私は、馬車ごと孤児院の入り口に転移させた。
馬車ごと転移させたので、二人はしばらくの間は何が起こったのか把握が出来ない感じだった。
「子供の世話で忙しいと思うけど、ここの図書館も本は案外有るから有効に使ってね」
「そうですね。もっと勉強をします」
「そうだよ。勉強は自分たちのタメだけでなく、子供たちを守る手段にもなるからね」
「院長に会っていかないのですか」
「今日は良いかな。それにこれをあげるよ」
私たちは二人に手紙を送る箱を幾つか渡した。
使い方を説明したけど使うかは判んない。
でも、街と孤児院の連絡は早い方が良いと思ったからね。