194 アシエゴーレムの買い取り
ベルルが奥から一人の女性を連れて戻って来た。
「私は当ギルドのマスターをしていますラステバと言います。ベルルから話は聞きましたが、魔石を見せて頂けますか」
「これだよ」
アークシュリラはラステバにその魔石を渡した。
ラステバは懐からルーペを取り出して、眼窩に挟み込んでから魔石を見ている。
「確かに……でも、こんなに綺麗なのは、あり得ない」
ラステバは魔石を見ながら独り言を言っているが、その声は私たちにも聞こえる。
そして一通り魔石を確認すると、私たちに言った。
「燃えるような赤い色で、透き通る混じりっ気のない魔石ですから、確かにこれはクラスニィヴィヴェルナの魔石で間違いありません。それにこの大きさは何千年もの年月を生きていたモノです。とても素晴らしいです」
そう言ってアークシュリラに魔石を返して、続けて言った。
「このゴーレムですね。ベルル、これは買い取ったのか」
「私では評価出来ない金額ですから、ギルマスをよんだのです」
「そうだったな」
ラステバが魔石を抜き取った跡を確認して頷いている。
そして私たちの方を見て言う。
「このアシエゴーレムには剣で斬った痕はありませんが、魔法で倒したのですか」
「違う。殴り合った」
「そうですか。アシエゴーレムの体にクラスニィヴィヴェルナの魔石だと、1日程度殴り合ったくらいでは倒れませんが、何日間に亘り殴り合ったのですか?」
「そんなに掛かっては居ない。正確な時間は判らないが、せいぜい30分くらいだ」
「では、既に動いて居なかったのですか」
「元気に動いて居たよ。何度も私たちにパンチを当てようとしていたしね」
「そんなんことはありません。アシエゴーレムは他のゴーレムと違い、エネルギーを無駄に消費しないようにエネルギーが半分以下になると活動を停止します」
「エネルギーが無くならない様に、頭にエネルギーを補充する魔法陣が有りましたよ」
レファピテルがそう言うと、ラステバがアシエゴーレムの頭部を確認する。
「確かに……そうなると……」
ラステバは身震いをしてから、私たちの方に向き直って言った。
「魔法陣は確かに有りました。これではこのゴーレム一体で一国の軍隊以上の戦力と云うコトになりますが、あなたたちだけで倒したのですか。他に仲間というか軍団は居ますか」
「ギルマス。一体だけでなく、後三体あります」
ベルルがラステバの勘違いを、すかさず訂正した。
「えっ、四体も……」
ラステバは、会ってはいけないモノに出会ってしまった冒険者の様に、その場で固まってしまった。
「で、いくらにしてくれる」
ヴェルゼーアがギルマスに聞いた。
我に却ってラステバが言った。
「そうですね。一体につき10枚のミスリル貨をお支払いします」
「それでは高すぎないか。アシエゴーレムは、高くてもミスリル貨には届かんぞ」」
「普通のアシエゴーレムならそうですが、あの魔石が長い年月に亘り使われていたのですから、素材の鋼は普通のと違い変化しています。これは商業ギルドの範疇ですが、調べれば直ぐに判ります」
「そう言うモノか。ギルマスがそう言うなら反対する理由はないな」
「鋼の体だけで無くてあの魔石を使っていて、その上、エネルギーは頭からいつも供給されているのですから、ウチに居る冒険者が全員で行っても、退治出来なかったでしょう。どうりで、何年もこの依頼が達成出来なかった謎も解けました」
そして、私たちはギルドの応接室に案内をされた。
「では、達成の処理をしますので、ギルドカードを出して下さい」
「コイツらはランクは無いが、良いか」
「無ランクですか、構いません。ランクを付けるコトも出来ますが、一国の軍隊以上ですと特8以上に成りますね」
「その特何とかは幾つまであるのか」
「9迄です。それ以上はありません」
「そうか。二人とも今更不要と思うが、一応ランクが無いと依頼が受けられないから付けて貰うか」
「別に良いよ」「構わないよ」
私とゼファーブルのカードを処理しだして、ラステバは止まった。
「もしかして、ここに記載されているモノも退治したのですか」
「ナニが書いて有ったの」
ラステバが、一つずつ読み上げた。
それは私たちが今まで退治した、幾つかの魔物が書いて有った。
「お前たちは……」
ヴェルゼーアがなんか言いたそうだが、今は無視して私が言った。
「そうだよ。退治して来たら、ランク付けするならギルドの職員と戦ってとか言うからやめたんだよ。手を抜いてもケガをさしたら悪いしね」
ギルマスの話し方が頭に来たからとは、さすがにこの場所では云えないよね。
「そうですね。ウチではケガで済めば良いですね。ランク付けは特Xとして置きます。ウチでは計ることは出来ませんからね」
そして三人のランクも同じ特Xになって、通常の冒険者ランクから外れた。
ベルルが魔石などを持ってやって来た。
「全部、同じモノだったぞ」
机にそれを置く。
それは、今アークシュリラのアイテム袋にあるモノと同じで、どれも真っ赤でとても綺麗だ。
「私は要らないから三人で分けていいよ」
「ゼファーブルらしくないな。あとで騒いでも遅いぞ」
「良いよ」
ヴェルゼーアはレファピテルとビブラエスに一つずつ渡して、最後の一つを自分のアイテム袋にしまった。
プラチナ貨を数えていたレファピテルが、それを私に渡してくる。
「枚数はありましたよ。ゼファーブル」
私は素直にそれを受け取った。
私としては、魔導師の書いていたノートを貰ったことの方が嬉しかった。
昔だったから、錬金術師って職業はなかったのかも知れない。
今なら、あの人物は私と同じで、錬金術師なのかも知れないね。