193 ゴーレムの査定
私たちがギルドの奥にある部屋でゴーレムを出して居ると、一人の筋骨隆々の男がやって来る。
「エステス。ゴーレムだと聞いたが、本当か」
「ベルル、本当だ。これだが普通のアイアンゴーレムと違うと思うが、どうだ」
「私はベルル。このゴーレムを調べて良いか」
ベルルと名乗るモノは、私たちにそう聞いて来た。
「構わんぞ」
ヴェルゼーアがそれに応じた。
そして、ベルルはゴーレムの腕や足などを叩いて、音の違いなどゴーレムを調べ出す。
それから、戦いで受けた傷なども確認して、メモを取っている。
一人でやって居るが、その作業は素早いし多分正確なのだろう。
それに、幾つもの専門の工具も使っている。
作業が終わり、ベルルが聞いて来た。
「これはギルドに未解体で売るつもりか」
「値段によるな」
「そうだな。金貨で50枚どうだ」
「あのモノはアイアンゴーレムと云っていたが、お前の見立てもそうか」
「これはアイアンゴーレムでなく、アシエゴーレムだ。エステス、もっと勉強をしろ」
ベルルからそう言われたエステスは、それに応えるコトもせずにやれやれと云う感じがした。
「アークシュリラ、どうする」
「ヴェルゼーア、魔石って貰えるかなぁ。貰えれば私はその金額でも良いよ」
「魔石か、これだと結構良いものを使って居ると思うぞ。なんなら魔石だけ抜き取って返却しても良いが、どうする」
二人の会話が聞こえたので、ベルルが言って来た。
気の短い人なのかなぁ。
「そうか、なら頼む。それと、あと三体有るが、それでも金額は変わらんか」
「そうだな。鉱物の量から云って、まとめて250でどうだ」
「ここら辺には鉱山が無いから300でも安いと思うけどな。私は駆け引きをするのは面倒だから、ズバリ言ってくれ」
「そんなことも知っているのか。だったら350だな。これ以上は、このギルドでは無理だ。気に入らなければゴーレムはしまって、エステスに達成の処理だけしてもらってくれ」
「判った、それなら350で良いぞ。アークシュリラ残りのアシエゴーレムも出してやれ」
まぁ魔物の買い取り金額は、良くいるモノならだいたいの値段は決まっている。
それらも、金額はいつでも同じと言う訳では無い、大量に討伐されて値崩れすることもあるけどね。
しかし珍しいモノだと査定するモノの経験とカンにより、大きく変わってくる。
それはギルドとしては誰が査定しても同じ金額にしたいのだが、いかんせん魔物の数が多すぎて全てを網羅することは出来ない。
もし全部の魔物の金額を決めても、職員はそれだけを覚えれば良い訳ではない。
緊急時には自分たちが討伐もするから、剣術や魔法も覚えなければならないし、解体の仕方や事務作業なども覚える必用が有る。
そんなにたくさんのコトを、覚えることは出来ないからね。
最初に言った金額から、大幅に変わることはよくあるよ。
「待て、出すならあの隅に頼む」
ベルルはこの部屋の隅を指差してそう言った。
「良いよ」
アークシュリラはベルルが指し示した、ここから見える一角にアシエゴーレムを出した。
「じゃ、金は達成の処理をしている間に用意する。魔石も一緒に渡せるよう準備をするが、それとも見ているか」
「どうやって魔石だけを取るか、知りたいから見ているよ」
「そうか、見ることは良い勉強になるぞ」
ベルルは腰に付けていたダガーを手にして、私たちに説明をしながら意図も簡単に、魔石をアシエゴーレムから抜き取った。
「そんなに簡単に取れるモノなの」
「ベルルのダガーはミスリルだからな」
一緒に見ていたエステスが、自慢気に言った。
「そうなんだね」
「この魔石はなんだ。とても綺麗だが、今までこの仕事をしていて、一度も見たことはないモノだぞ。ほれ」
ベルルはそう言うと、アークシュリラに抜き取った魔石を渡した。
「アシエゴーレムの魔石はこれだったんだね。通りで固い訳だ」
「お前さんは、これが判るのか」
「うん、判るよ。これはクラスニィヴィヴェルナの魔石だね」
「今は存在していないクラスニィヴィヴェルナだと言うのか、そうなるとこのアシエゴーレムはそれが居た時のモノか」
「そうかもね。私たちは倒しただけだから、大昔に作られたモノとしか判らないよ」
「だったら500では安すぎるかもな。ギルマスが判断するがプラチナ……いやミスリルか。ちょっと待っていてくれ」
そう言ってベルルは奥に下がった。
「アークシュリラ、クラスニィヴィヴェルナってナニ?」
「ワイバーンの先祖と書いてある書物もあるけど、本当は龍種の紅龍の祖先か、それに近い種族だよ。だからワイバーンみたいに毒を吐いて相手を攻撃するんじゃなく、ちゃんと火のブレスを吐くよ」
「今は居ないのか」
「今も居ると思うけど、人々とは生活する処が違うかなぁ」
「別の世界ってことなの」
「別の世界だけど、違う次元らしいよ」
動物や魔物の資料にもそれらは記載されてはいるけど、ドラゴンや龍はおとぎ話や伝説の類である。
しかし、アークシュリラの手にはそれの魔石があるから、昔は人々と闘って居たのだろうか? それとも、人々と交流していたのだろうかなぁ。
あの魔導師はそんな貴重なモノを使った……イヤ、このゴーレムを作った時は、簡単に入手することが出来るほど居たのかも知れない。
今の私に言えることは、鋼もクラスニィヴィヴェルナの魔石も、魔導師に取ってはゴーレムの素材にしても平気と言うことだけだね。
奥から声が聞こえてくる。
そして、ベルルが一人の女性を連れて戻って来た。