188 ゴーレムとの戦い
私たちはこんどは反対側の階段を上って三階に行った。
「この向こうにナニかいるな。音から云って四体だな」
聞き耳をしないでも判る音が扉からしているが、ビブラエスは丁寧に説明をしてくれた。
「四体か、私とアークシュリラが一体、後は倒せれば倒して良いが、レファピテルとゼファーブルは魔法で動きを封じてくれ」
「私は二体でも良いよ」
「魔法で動きを封じるくらいはできますから、無茶はしないでも良いですよ」
「ゴーレムは素早くないから、大丈夫と思うよ」
「それじゃ、戦った様子次第で、私たちが二体受け持つ」
ビブラエスが扉を開けると、室内で動き回っていた金属で出来たモノが動きを止めて、私たちの方を向いた。
「アイアンゴーレムか」
ヴェルゼーアはそう言って室内に入ったので、アークシュリラもそれに続いた。
そして、それぞれが一体ずつに斬りつけた。
キーン キーン
二人の剣が、二体を斬ったかに見えた。
「なんて固さだ」「これじゃ、時間がかかるね」
アークシュリラの剣を受けたモノは、ナンとも無い感じがする。
ヴェルゼーアの剣を受けた方はバランスを崩しそうに成ったが、踏ん張って耐えた。
「大丈夫そう」
「動き自体は遅いから二体でも良いけど……」
そう言いながらアークシュリラは、刀の柄で近寄って来たモノを小突いた。
「私も平気だが、これはアイアンゴーレムでなくてアシエゴーレムだな、全く傷が付かん」
アシエゴーレムはアイアンゴーレムの一種だが、アイアンゴーレムより固い鋼の体をしている。
動きはアイアンゴーレムと同様に遅い。
「それじゃナニか有ったら言ってね」
「判った」
ヴェルゼーアとアークシュリラたちが、動きの遅いアシエゴーレムの攻撃を受けるコトは先ずない。
問題は、耐久力が有るので二人が疲弊することだけだ。
しかし、アシエゴーレムは魔法を使わないから、二人が疲れたら相手の腕が届かない空中などの位置に行って、休憩をすれば良いよね。
なので、ナニかが起きるまでは、私たちはヒマになる。
「レファピテル、これじゃ動きを封じてもダメそうだね」
「そうですね。それにアシエゴーレムは魔法で傷付けるのは無理ですね」
レファピテルはそう言ったけど、周りの被害を一切考えなければ、体を構成している鋼を溶かすコトは出来る。
当然、そんなことはしないけどね。
周囲のコトを考えての魔法で傷付けるコトは無理でも、魔法自体は効くからさてどうするかなぁ。
ヴェルゼーアは剣で相手を斬っていると云うよりか、剣で叩いて……いや、ぶん殴っている感じだ。
でもそれが、ヴェルゼーアの持っている諸刃の剣、本来の使い方だよね。
アークシュリラも斬ってはいない。
その上いつもの本差しではなく、今は脇差しで相手を突き刺しまくっている。
アークシュリラの持っている剣の刀身は薄いから、ヴェルゼーアの剣の様に殴ることは出来ないよね。
「レファピテル。エネルギーの源はドコだろうね」
「この部屋では無いようですね」
「でも、それだとコイツらはいちいち扉を開けて、違う階に行くことになるぞ」
ビブラエスの云うことは正しい。
階段がこの部屋の中に有れば、侵入者から上の階に有るモノを守っていると言うことが考えられるけど……下から続く階段はまだ上にも続いていた。
なので、この部屋に入らないで上下の階に行けるのだから、アシエゴーレムたちをここに置く意味がない。
今はナンにも無いこの部屋に、アシエゴーレムたちを置く意味が必ず有るハズだ。
「ビブラエス。この部屋にナニが有ると言うのですか」
見た感じは一階より狭いが、ナニも置かれていない空間だ。
一階より狭いのは階段などが室内に無いからで、それを考えると私には同じと感じる。
なので、ここには隠し部屋が有るようには思えない。
「広さは一階と同じくらいだから隠し部屋で無くて、有るとしたら魔法陣だろうな。それに、あの階段をアシエゴーレムが通行するとは考えられん」
「応接もそうなるよね。私は弟子の魔法使いがお茶を出して居たモノと考えて居たけど、アシエゴーレムが居るのだからそれを使った方が効率的だよね」
「そうだ。アシエゴーレムは二階だけでなく、全ての階にも行けるかも知れないな」
たまにヴェルゼーアとアークシュリラを見ると、剣で斬れないコトに若干の不満が有ると思っていたが、二人は楽しそうに突き刺したり、ぶっ叩いたりしている。
いくら耐久力が有るとは云え、アシエゴーレムは無限に耐えられる不死身の構造物ではない。
もう少ししたら、撃破するコトが出来るかも知れない。
それに攻撃は喰らっていないので、私たちの支援は要らない様だね。
そう考えて居ると、ヴェルゼーアが相手をしていた一体のアシエゴーレムが、動きを止めた。
「邪魔だ! どけ」
ヴェルゼーアはそう言って、足でアシエゴーレムを押し倒した。
アシエゴーレムが石で出来た床に倒れたので、結構な衝撃が塔全体に起きた。
アシエゴーレムが倒れているので、少しは戦いにくくなってしまった。
「ヴェルゼーア。私がそれを退かしますか」
「あぁ。レファピテル、頼む」
レファピテルがアシエゴーレムに杖を向けて、そして少しずつ杖を動かしている。
それと一緒にアシエゴーレムも動く。
そしてヴェルゼーアの邪魔にならない、部屋の隅までそれを動かした。
続いてアークシュリラの方の一体も動きを止めた。
レファピテルは同様に、部屋の隅にアシエゴーレムを移動させている。
まぁ一体をずっと攻撃していた訳では無いから、残りの一体も直ぐに動きが止まった。
「もう、腕がパンパンだぞ」
「こんなに耐久力が有ったんだね」
「こんどゴーレムが居ると判って居たら、剣でなくウォーハンマーやバトルアックスを用意して置くかな」
「打撃だけなら、メイスでも良いかな」
「そうだね。買って置いても良いかもね」
レファピテルが戦闘で疲れた二人に回復の魔法を掛けた。
その後でアシエゴーレムをアイテム袋にしまって、みんなで部屋を調べるコトにする。
天井や壁の上の方も隈無く探したが、予想に反して魔法陣すら見つからなかった。
アークシュリラやレファピテルがアシエゴーレムの魔力を解析もしたけど、魔導師のモノと思われる魔力が塔全体に多過ぎて、上手く解析が出来なかったんだよ。