184 ブゴーグと戦う?
私たちはブゴーグを退治するために、カヌーで森へ向けて出発をした。
眼下には人の姿はあまりない。
「あんまり人が居ないね」
「ブゴーグが居ると騒ぎになっているのだから、よっぽどこの道を通る必要があるモノ以外は、別のルートを通っているのだろうな」
それにしても、人が居ない。
全く居ない訳では無いので、これでは万が一にも襲われたら、助けて貰うコトが出来ないから一溜まりもないだろう。
それともブゴーグくらいなら、やっつけられるほど強いのだろうかなぁ。
「あの山が噴火するかも知れないんだな」
「カンニラムは、そんなことを言って居ましたね」
「噴火しても、人々で対応出来るってどう言うことだろうね。レファピテルは噴火を止める魔法を知っているの」
「そんなのは無いですよ。有ったとしても、一人ではどうするコトも出来ないと思いますよ」
こんな巨大な山に対して掛けるのだから、結構な魔力を使う。
噴火を止めるのは、地下水があふれ出ているのを止めるのとは訳が違う。
なので噴火を止めるのではなくて、石とかが街に飛んで来ない様にするコトかも知れないね。
カヌーのスピードを出して居ないコトもあり、私たちはようやく街と森の中間付近に到着した。
「ブゴーグは居ないね」
当番ではないけど、たまに5人のうちの誰かが下を見て確認もしている。
でも、ブゴーグはおろかウルフすら居ない。
「こっちでは無かったのかもな」
「あれだけの騒ぎになっていたんだから、居るならそろそろ見付けても可笑しくはないけどな」
森の傍で魔法が爆ぜた。
「居たようだな」
「違ってもナニかと戦っているのだから、急ごうよ」
私たちはカヌーの速度を上げて、魔法の爆ぜた処へ急いだ。
そこには私たちと同じくらいの年齢の魔法使い二人が馬車を守りつつ、二匹のブゴーグと対峙していた。
しかし、一つの魔法を放ってから、次の魔法を使うまでの時間が掛かりすぎる。
どうみてもブゴーグは、この魔法使いが勝てる相手ではない。
それにブゴーグの接近を許したら、魔法使いたちの腕力では杖を使って牙や爪を止めるコトは不可能だろう。
私たちはカヌーから下りて、馬車の脇に行った。
「手助けは必要か」
「お願いします」
その魔法使いは今にも泣き出しそうな顔で、そう言った。
女性なのでと言うつもりはないが、ローブから覗くこの二人の腕などには、筋肉があまり付いていない。
たまに弓を使う私の方が筋肉は多いから、絶対に鍛えて無いのだろう。
「判った。アークシュリラ行くぞ」
「判ったよ」
ヴェルゼーアとアークシュリラは、それぞれのブゴーグに剣を抜いて向かって行った。
ブゴーグも二人が魔法でなく接近して戦うと判った様で、四つ足になって二人に飛びかかって来た。
二人はほぼ同時に、手にしている剣でブゴーグの突進を止めた。
「二人とも支援は要りますか」
「これだったら必要ないよ」「これぐらいなら要らん」
「ですって」
「だったら私たちは魔法使いたちだね」
「二人だけなのか」
「はい、二人だけです」
「魔法使いが二人だけで、本当に剣で戦うモノは居ないのか?」
「可笑しいですか」
「イヤ、そうではないが……まぁいい」
ビブラエスはナニかを感じた様だけど、それ以上の詮索はしなかった。
《ビブラエス。ナニが有ったの》
私はビブラエスに念話をした。
《馬車の中に数人の人が居るな》
《それは、レファピテルたちにも伝えといてね》
《判った》
直ぐにヴェルゼーアとアークシュリラが戻って来た。
「終わったの」
「あぁ、終わった」
「結構、動きが素早くて楽しめたよ」
戦った跡をみると、そこには二匹のブゴーグが転がっている。
それを見て魔法使いたちは決心した様で、私たちに語り出した。
「私はイルナルと言います。こっちがロステムルです。私たちは見ての通り魔法使いですが、まだまだ力が不足しています。そこでお願いが有るのですが、良いですか」
「コトと場合によるけどな」
二人の魔法使いは顔を見合ってから、イルナルが言った。
「あの魔物を私たちに下さい。ギルドには別のモノから譲り受けたとキチンと言いますのでお願いします」
「それは売るから欲しいと言うことか」
「そうです」
「訳はナンですか。見たところそれ程お金に困っている様にも、そして魔法は多少粗いですが実力がないとも思えませんが」
「あの人は気付いている様なので言いますが、この馬車には子供が5人乗っています」
「ちょっと、イルナル」
今まで黙っていたロステムルがそう言って、イルナルを小突いた。
「ロステムル。私たちは無理なお願いをしているのです。私たちが怪しいと思われたら、話を聞いて貰えなくなります」
「そうだけど……」
ロステムルは納得をしたようだ。
「すみません」
「思う存分やり合ってくれても良いんだぞ。それで5人の子供はお前らの子供なのか」
年齢的に少々変であるけど、こればかりは絶対に無いとも言えない。
「違います。今は眠らしていますが、全員が孤児です」
孤児を買い求めて、他の街で売りさばくモノがいると聞いたコトがある。
このモノが、そんなコトをしている連中には見えないけどなぁ。
「そうか」
「もしかして勘違いは、してないですか。私たちはあの山の麓にある孤児院のモノです。人買いではありませんよ」
「だったらナゼ子供を連れている」
「連れているのではなく、孤児が保護されると私たちの所に手紙が届くので、引き取りに行った帰りです。眠らしているのは、途中で逃げ出さない様にするためです」
子供にとっては美味しくなく量も少ないが、食事が出る孤児院は良い処のハズだ。しかし、全く知らない人に行ったことのない場所に連れて行かれるのだから、不安で逃げるのは理解出来る。
更に孤児院によっては、魔法や剣技などイロイロと学ぶコトも出来る。
もちろん最低限、どこの孤児院でも読むことと書くことや計算は習える。
「それでブゴーグの死骸が欲しいのだな」
「あなたたちは、アイテム袋って持って居るの」
「持って居ますが、私たちのアイテム袋では、二匹の魔物なんて入りません」
「まさかとは思うけど、子供と一緒に馬車の荷台に積むの」
イルナルとロステムルの回答を聞く前に、ヴェルゼーアが言った。
「私たちが持っていくか」
「でしたら、私たちが今から転移して、ギルドで売って来ても同じですよ」
「だったら、お金を渡した方が早いよ」
レファピテルやアークシュリラが意見を言った。
「ここで言い合って居ても仕方ない。孤児院は山の麓にあるらしいから、どうせ私たちの通り道だ」
そう言われたら、レファピテルやアークシュリラは折れるしかない。
「判ったよ」「判りました」
それを聞いてヴェルゼーアは、イルナルとロステムルに言った。
「孤児院まで私たちがあれを運ぶから、そこまで案内してくれ」
「本当ですか。ありがとうございます。でも、歩きですか」
「馬ならあるので、心配はするな」
私たちがそれぞれ馬をアイテム袋から取り出すと、二人の魔法使いは目を瞬かせた。
そして、ロステムルは馬車の御者台に乗り、イルナルは荷台に乗った。
「それでは行きます」
ロステムルが合図を送って馬車は進み出した。