183 街に戻る
奥の院のモノたちは、この地をある程度整備したら帰国することになった。
更に建物はハルメニア王国から人を派遣して、管理を続けてくれるらしい。
その理由は、ここが人の少ない所なので、剣術や魔法の訓練にうってつけだとビブラエスが言っていたけどね。
その真偽は私には判らない。
「――、これで全て終わったね」
「この件については、そうだな」
「この件?」
「これからオーラガニアなどにも、ガシララ王朝の歴史や文字など、私たちが知った内容を広めていかないといけない。カンニラムが云う通りで、消したモノたちがこれから邪魔をして来るだろうな」
「そうか、私たちが知って終わりで無いんだね」
「私たちも二人とこのまま旅を続けていたいが、祖国が攻められたり、洗脳されたりしたらそうはいかない。ハルメニア王国にも軍隊や奥の院のモノが居るので、やられ放題と云うことは無く、それが対応するだろう。それに私たち三人が居ても、状況は変わらんかも知れないけどな」
「確かに、そうなっているのに、私たちと旅をするのは心配だよね」
「そうなんだ。でも、もし神々が昔のコトと言うことで、関与して来ないかも知れない。中途半端に帰るつもりはないが、万が一にもナニか有ったら連絡がくる様にしてある」
「そこは無理しないで良いよ。きっとアークシュリラも判ってくれると思うよ」
「そんな心配はしていないぞ」
ヴェルゼーアはそう言って、眼下で作業をしている奥の院のモノたちを見てから続けて言った。
「あの街もガシララ王朝だったのだから、今は全く関係がないとは言え、歴史を辿れば私たちの仲間と云うことだ。その住民である、コボルトを傷付けたモノの正体も気にはなるしな」
「そうだよね、まだ終わってもいないよね」
「今回のことで判ったことは、私たちが闇の神々と戦う必要は無くなったと云うことだけだ」
私たちは再度転移して、街へ戻って来た。
「もう、図書館に行く必要は無いんだね」
「そうですね。知りたいコトは、ほぼ判りましたからね」
「それでは、冒険者ギルドへ行こうと思うがどうだろうか」
「例のコボルトを傷付けたモノか」
「そうだ」
冒険者ギルドに私たちが着くと、沢山の人で賑わっていた。
「こないだと雰囲気が変わったよね」
「そうだね。こんなに人が居なかったよね。先ずは依頼を見てみようよ」
私たちは掲示板の所に行き、依頼内容の確認をした。
予想通りにクローツ退治の依頼が出ていた。
「コボルトを襲ったのはクローツだったんだな」
「どうですかね。クローツは引っ掻きはしますが、あすこまでの戦いはしませんよ。そうですよね、ゼファーブル」
「うん。コボルトが革の甲冑がボロボロで血まみれだったから、多分、違うと思うよ」
「そうなると、これは、ただ同じ時期に出ただけなのだな」
「でも、これって3つのパーティーが、今は対応しているみたいだよ」
その依頼書の下には、受託したパーティーの数が判るように、ギルドのマークが3つ記載されていた。
「それじゃ、これはどうかなぁ」
「オークか。オークの武器は剣だぞ」
「そうだったね」
私たちは掲示板から室内へ視線を移動させた。
「でも、人が多いな。ナニが有ったというのだ」
「ヴェルゼーア。周りの人々はブゴーグが出たと言っているな」
ビブラエスがそう言った。
「ブゴーグってジャッカルのデミヒューマンだっけ」
「近いですが、ジャッカルが二足歩行している様なモノですよ。戦闘では四足歩行になって二足歩行の時と比べものにならない速さになりますし、鋭い牙や爪も有りますよ」
「だとすると、コボルトを傷付けたのはこいつなのかもな」
「ビブラエス。周りの雰囲気では無理っぽい感じだけど、退治は出来そうなの」
「ゼファーブル、見てのとおりだ」
「それで、これ程の数の冒険者が、ギルドに押し寄せたんだな」
「そうですか。ブゴーグは何体ぐらい確認されているのでしょうか」
「森や草原などで二体と言うのが多いな。それが同じモノなのかは判らない様だ。受付で怒鳴っているモノに対応している係員の話では、正確な数は判っていないようだ」
「あの人って、上級者じゃなかったの」
「アークシュリラ、上級者にランク付けされている全員が、必ずしも強い訳ではないぞ。運も影響するしな」
どんなに魔物のランクが高いやつでも、退治するときに元気で万全の状態と云うことはない。その時にケガなどで弱っているコトもある。それと私たちみたいなギルドを介さないモノに、やっつけられていたモノをキチンと報告しないで、自分の手柄にする不届きなヤツもいる。
「じゃ無理そうだね」
「イヤ、数組のパーティーは平気と思うよ」
「そうですね。幾つかのパーティーは情報を聞きにきて、この騒ぎでそれらが出来ないだけの様ですね」
「そうなのか。それじゃ、私たちはここから遠い、山の方へ行ってみるか? 近くの草原はそのモノたちに任せよう」
「そうだな。アークシュリラとゼファーブルは依頼を受けられないから、もし出会ったらやっつけるで良いな」
「そうですね。ブゴーグの正確な居所は判らないのですから、森の近くに居るかも知れませんしね」
「それだと、ヴェルゼーアたちの冒険者レベルは、上がらないよ」
「ゼファーブル。私たちには、もうそんなレベルは必要はないぞ」
昔にオーラガニアの冒険者ギルドでレベルを特1にしても良いと言われたのに、ヴェルゼーアたちが断っていたことを思い出した。
宿屋を引き払って私たちは森、そしてその向こうにある山を目指した。
「ブゴーグが居るかも知れないからカヌーで良い?」
「そうだな。その方が安心だろうな」
私たちはカヌーで森へ向けて出発をした。
眼下には人の姿はあまりない。