182 届いた本を読む
そして二人の処へ、カンニラムから約束通りに本が届いた。
予想通りに本は箱に内容毎に分けられていないで、二人の目の前に一挙に送られて来た。
こんな送り方で、良く二人が送っても良いタイミングが分かったモノだね。
「先ずはこの本をジャンル別に分けてからだな」
「私たちが読んで良いの? 二人ともどんなコトが書かれていても平気なの?」
「二人だけではこれだけの量の本を読むだけでも、一年以上が掛かると思う。それに私自身のことなら少し困るが、ナン世代も前の人々の記録だ。たとえ犯罪者で有っても気にはならない」
そう言ったがヴェルゼーア以外は家の名はないから、たとえ酷いコトをやっていても先祖だとは判らないし、名前が似ていてもそうだとは言えないよね。
先ずは神々の戦いとガシララ王朝とかに分けてから読むことになった。
ハルメニアやファリチスに建物を建てなかったのは、ヴェルゼーアとビブラエスが読んで公開するかを判断してからになるから、その前に一般に広まることを恐れたからだよ。
でも、これには二人にとって、どんな残酷なコトが書いてあるのかなぁ。
二人も、私やレファピテルに協力して欲しいと言って来たので、私たちも一緒に読んで居るよ。
私たちが本を読み出した頃になって、アークシュリラがやって来た。
「ゼファーブル、これは返すよ」
「もう、平気なの」「アークシュリラ、大丈夫なのか」
みんなが口々に言った。
「みんな、もう平気だよ。それとゼファーブル、ありがとうね」
「えっ、ナニが?」
「薬とか魔法を使わなかったでしょ。多分あの時に私の体力や気力だけを無理矢理に回復させたら、精神が崩壊していたかも知れないからね」
「そう。私の治療の技術も向上したのかなぁ」
「そうだね」
そう言ったモノの、私はナニもしていない。
両親に言われた通りに、杖に丸投げしただけだ。
私はアークシュリラから杖を受け取ると、杖にある蛇の頭や羽根をなでてから少し上を見てありがとうと呟いた。
そしてアークシュリラも、みんなと一緒に読書をすることになった。
アークシュリラは以前と変わりはなく、何事も無かった様に読書会に参加している。
「レファピテル。ガシララ文字について書かれている処が有ったよ」
「どれですか」
「これで、いろいろな文章を読めそうだね」
「これは凄いですよ。ハルメニア王国と言わず各国が欲しがると思いますよ」
ガシララ王朝については私が考えている様な共同体ではなく、外交や内政など国の根幹と成るモノはしっかりと各国に行政官を派遣して行っていた。
但し文化的なことや宗教関係は各国に任されていたらしい。
多分、そう言ったモノが自由だったコトから、人々の間で伝わるウチに尾ひれがついて外交や内政なども自由と考えられた様だね。
版図も私が考えたモノよりも、随分と広大だった。
なんせ今までに私たちが行った所は、全てガシララ王朝の版図だったのだからね。
南北にも結構な距離が有るから、当分の間は私たちがその版図から出るコトはない。
神々の戦いの方は、光の神が自分たちの影響力を増やすために画策した様だ。
闇の神々を減らせば並行世界の管理は時の神々に任せると言われて、時の神々は戦いに参加したと書いてあった。
後はエンギル、リファヴェーラやネフィロメンスが言っていた通りだった。
でも、ナゼ、全てを統べるモノの証で、闇に属する神々が釣られたかは判らない。
まぁ、貰ったのは歴史書であって、物語でないから心情描写は記載されていないからね。
途中で、レファピテルがハルメニア王国へ行ってガシララ文字についての説明をしたり、ビブラエスも消された神々の説明に行ったりしていたので三ヶ月以上の月日が掛かって、ようやく私たちは全ての本を読み終えた。
「カンニラムが言っていた、残酷なコトってナンだったのかなぁ」
「光の神が悪者だったことですかね。闇の神々は悪で光の神は正義と思っている人が多いですからね」
「でも、神々の仕事分担が偏りすぎなのが、そもそもの原因だよね」
「それもありますね。しかし、神々の個々の能力が違い過ぎるのが問題ですね。もし同じ量にしたら、仕事が停滞しますよ」
日々の仕事はそれぞれが担当として行うが、責任者と言うか取りまとめの神は、属性毎に一人しかいない。
確かに停滞しそうだ。
ヴェルゼーアは、奥の院のモノに神々の戦いについての物語を、作って貰うことにした。
そうしたのは神々が持つ個別の名前をオブラートに包むコトで、宗教団体からの攻撃を減らすコトが目的だよ。
ちなみにハルメニア王国に持っていった本は、全てレファピテルと私が作った複製品で、その上私たちの注釈が書き込まれている。
それと、これを今時点で公開するとマズいと思う箇所は、みんなで相談した後にヴェルゼーアとビブラエスの二人が判断して、文字を消したり読めなくしたりしてもあるよ。
原本はヴェルゼーアとビブラエスの二人がアイテム袋に入れて、しっかり管理をしている。
「石碑もナニが書いてあるか判ったし――」
石碑には起こったコトの詳細がガシララ文字で書かれていた。
これが有るってことは、当時の人々が神々の戦いについて知っていたのだろう。
それにこれを建てたのは、ガシララ王朝が無くなる三代前の王様と云うことだ。その王様の時までは、なんとか神々と上手くやり合っていた。
この戦いが有ったからかは判らないが、徐々に神々の関与が多くなって行った。
最後から二代前の王様の時には、神々の関与も酷くなってしまう。
そののちに即位した最後の王は、これ以上神々とやり合うことで国民が不幸になることを案じて、王朝そのものを廃したから在位期間はとても短く、実績らしいことの記載もない。
名前は本には記載されていたけど、残念ながら私は忘れたよ。
しかし、私には無駄に神々と争って国民を疲弊させないで、国を廃した決断は素晴らしいと思う。