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171 泉の水

 私たちが泉を眺めていると、どこからともなく声が聞こえて来た。


「それ以上の詮索はするな」

 しかし、その声からは怒っている感じはしない。

「誰だ」

 ヴェルゼーアが、その声の主に問うた。

「ワシは命を管理するモノじゃ」

 そう言うとオレンジ色の靄が集まって、一つの球体に成った。


 命を管理するモノと名乗るモノ……イヤ、錬金術師(アルケミスト)でそんな大げさに名乗るモノは、メコリオスしかいないと思う。

 まぁ、私の中では、書物の中の人物だったけど……霊体ってことは、肉体は既に朽ちたと云うことだね。


「お前がこれを作ったのか」

「そうじゃ。魔法や錬金術などで蘇生が出来ないモノのタメにワシが作った。元々は魔法や錬金術などは金儲けの手段でなく、あらゆる生き物がより良く暮らすタメに――」

 その声は、魔法や錬金術などの本質を語った。


「私もそうなると嬉しいけど、それは夢物語だよ」

 私の短い人生でも、イヤと言うほどそう言う汚い所を見てきている。


「確かにそうだな。この泉も最初は誰でも自由に出入りをさせた。そしたらこの泉の水で商売を始めるモノが現れたからな」

「この水に混ざっているモノはナンですか」

 レファピテルが質問をした。

「魔法使いか、そこの錬金術師(アルケミスト)に聞けば教えてくれるぞ」

「知らないよ」


「そうか、知らぬか。その杖を使いこなしている様だから、もっと優秀かと思ったが残念じゃ」

 みんなの前で残念と云われたので、いくら心優しい私でもちょっとカチンと来たね。


「こんな危険なモノを生き物、それも人々に飲ませる野郎だと判っていたら、幼い頃にこんなに凄い錬金術師(アルケミスト)がいるのと、夢中になってあんたの物語を読んでいた自分をぶん殴ってやりたいよ」

「ナンだと」

「メコリオスだって錬金術師(アルケミスト)ナンだから、このクヴェックズルーバーが生き物に取って毒だと知っているでしょ。まさか知らないってコトはないよね」

「……」

「少しでも飲めば二、三年のウチに、内臓がやられて必ず死ぬよ。また、こんなに濃かったら肌に触れただけでも、肌は爛れてしまうよ」

「それでは、お前は魔法や錬金術などで蘇生が出来ないモノで、お金のないモノは蘇生することすら許されないと言うのか」


 クヴェックズルーバーは毒だけど、ナゼか心臓は動き出す。だからたまに使うモノもいる。

 でも、次第に内臓をダメにしてしまう。

 内臓にダメージを与えずに、済むモノは……


「どうした。答えられないのか」

 みんなの視線が痛い。


 そうだ、メルキューを使えば良いのではないか、これは生き物にとっても無害だからね。

 それに錬金術での蘇生にも使われている。

 でも入手が難しいかなぁ。私が用意する訳じゃないから良いか。


「私だったらメルキューを使うよ」

「メルキューだと、そんな高価なモノを使うのは無理だ」

「つくづく残念な人だね。もう、ぶん殴る気力もなくなったよ。早く成仏してよ」

「ナンだと」

「だってそうでしょ。この泉も長い間に亘り、クヴェックズルーバーを流しているんでしょ。だからもう水に融けなくなっているよ。クヴェックズルーバーの鉱石はどこにあるの? 答えなさいメコリオス!」


「泉の中央にある」

「水の中なの」

「そうだ」

「それじゃ。取れないじゃん」

「盗られぬ様にした」

「ほんとに、あんたは困った人だね。私が今から改良するから、良く見て置くように」


 先ずは水をどうするかなぁ。こんなにクヴェックズルーバーに汚染されていたら流せないしなぁ。

 それじゃ、水とクヴェックズルーバーを分けるしかないよね。


分離(セパラスィヨン)!」

 これで、一応は水とクヴェックズルーバーに分けられたが、溶け切らないほど入っていたからまだ心配だね。


浄化(ピュリフィケション)!」

 水は綺麗に成ったハズだけど……どうかなぁ。

 私にはこれを飲む勇気はないなぁ。


 それじゃ、邪魔な水を空中に浮かべてと。

浮遊(シュヴェーベンツ)!」

 泉の水は全て天井付近の空中に浮かんでいる。


「メコリオス、ここで良いの」

 私は杖で中央付近を指した。

「そうだ」


 本当はクヴェックズルーバーを取り出して、メルキューを設置するのが良いけど、あいにく在庫がない。

 かくなる上は、クヴェックズルーバーをメルキューに変えるしかない。

 本来は錬金釜や変性釜とかを使って、物質の性質を徐々に変えていくんだけど、そんな悠長なコトをやってられない。でも、私にはこの杖がある。


組成変換(ウムヴァンドゥルング)!」

 私は杖に魔力を溜めてから、一気に中央付近に放出させた。

 久しぶりにこの杖で、錬金術師(アルケミスト)らしいコトをやったなぁ。

 これでクヴェックズルーバーはメルキューに変わったハズだ。

 しかし、確認しないコトには安心出来ない。


発掘(アウスカーボン)!」

 よし、薄緑色をした透き通った塊が出てきた。

 全ての試薬はここに入れて置いたハズだから、え~と、これじゃ無いし……切らしていないと思うんだけど……ないなぁ。

 あっ、あったっ。

 これで色が黄色くなれば成功と。


 ひとサジ出てきたモノを掬ってから、試薬を一滴ばかり垂らす。

 サジの中にあるモノは綺麗な黄色になった。

 よし。

 あとは元に戻せば良いね。


 私は掛けた順番と逆に、魔法を解除していく。

 最後に杖を翳して、おまけの浄化を泉全体に掛けた。


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