170 泉に到着する
私たちは3つの扉の前で、どれが泉に行く正解なのかを話し合っている。
「ゼファーブルだったら、どう言う感じに作るの」
アークシュリラが私に聞いてきた。
「そうだね。3つのウチで正解は絶対にないとダメだから、それは他のハズレより優先的に出るようにするよ。でも、瞬時に上書きする方が、作るのは簡単かも知れないけど……」
「優先的にですか? しかし、作るのは上書きの方が楽なんですか?」
「そう」
「でも、ここに居るモノ全てを転移させるのですから、扉に必ず当たりがある保証は無いですよね」
確かにそうだ。
3つの扉を全て開けて確認出来ないなら、当たりがあるってのは判らない。
それに泉に行けたら他の扉を開けることはないから、その時はハズレが無いのかも知れない。
そうなると、私が考えていた方法で無くても、出来るね。
「レファピテルの言うとおり、当たりが無いのなら優先的とか無いかも知れないね」
「でも、それではこれほど長い年月に亘って、村人が使い続けることはないと思いますよ」
「そうなんだよね」
「ゼファーブル。魔法を使えば蝶番がどういう変化をしているか判りますよね」
「そうだけど……」
私とレファピテルが転移させる方法を議論していると、ヴェルゼーアとアークシュリラが同時に言って来た。
「議論は後でやってくれ」「じゃ、レファピテルでもゼファーブルでも良いから、魔法で調べてよ」
続けてビブラエスが云った。
「二人ともそうだぞ。ここで言い合っていても仕方ない。調べれば判ることだ」
私とレファピテルは頷いた。
「「心眼!」」
私とレファピテルはそれぞれ同じ魔法を掛けた。
「ゼファーブル。どういうことですか」「レファピテル。大丈夫」
「二人とも順番に話してくれ」
「調べた処、ずっと変わってましたよ」
「そう、色が変わったのは一廻りしたからだと思うよ。さっき一つは絶対に当たりがあると言ったけど、これでは全てハズレとか、当たりになるときが有るんだよ」
「そうですね。それでは当たる確率が減りますから、当たりを増やして調整しているのでしょう」
「だったら完全に運なの」
「扉から泉に行くのは、そう、運以外のナニモノでもないよ」
「運なのか」
「でも、それでは、これを作ったモノも見に行けないぞ」
「そうだな。どこかに泉に必ず行ける通路があるのか、それとも扉を開けても転移しない様に出来るかだな」
ようやく扉から入って泉に着いても、泉が涸れていたら大変な騒ぎになる。
なので作ったモノも、しばらくの間は泉の状態を確認していたと思う。
私なら絶対に確認をする。
その都度、運任せでは面倒だよね。
私たちの様に、普通は扉の周囲を確認するから……止める装置を作って置くとしたら反対側だね。
そこなら見付かりにくい。
「扉がある壁と反対側の壁とかに、扉の転移をとめる装置があると私は思うんだけど」
「ゼファーブル、その可能性はあるな。対象物から遠くの位置に設置することは、よくあることだな」
ビブラエスが私の意見に賛同をしてくれて、反対側の壁を一緒に調べだした。
「私は右側を調べるよ」
「じゃ、左側は私がやる」
アークシュリラとヴェルゼーアが言った。
「私は床と天井をやります」
「レファピテル。天井は私がやるよ。反対側の壁は、ビブラエス一人で大丈夫だよね」
「大丈夫だ。ゼファーブル、そうしてくれ」
私たちはしばらくの間、その空間を調べていた。
「ここに、ボタンが有ったぞよ」
ビブラエスが言った。
それは壁の中央付近のやや高い位置に、小さなボタンが設置されていた。
「今更、違うトラップってことはないだろう。ビブラエス押してくれ」
「それじゃ、ボタンを押すぞ」
ボタンを押してビブラエスが続けた。
「二人とも止まったか確認してくれ」
私とレファピテルは、扉の近くに行ってから再び呪文を唱えた。
「「心眼!」」
「止まってますね」
「ビブラエス、もう一度押して」
「押したぞ」
「スタートし出しましたね」
「そうだね。ビブラエス、じゃ、もう一度押して止めてよ」
「判った」
「ヴェルゼーア、準備は良いですよ」
「どれを開けても平気ナンだな」
そう言ってヴェルゼーアは扉を開けた。
扉を少し開けても大きく開けても、転移するのは同じだと言われていたし、中には魔物は居ないと聞いていたからね。
「泉があるな」
「早く入ってよ」
みんなが扉のある空間から泉のある所へやって来た。
その泉は自然に出来た様で、周囲とかを石で囲って汲み易くしている訳では無かった。
あくまでも、人の手は加わっている感じはしない。
そして水は潤沢に蓄えられているが、溢れている訳ではない。
また。どこかに流れている訳でもなかった。
「この水ってナニか入っているね」
水は確かに透明だが、光るモノが混じっている。
「ナンだろうね」
錬金術で生き物を蘇生させる物質はアルことにはアルけど、色が少し違う気がする。
私が知っているそれに使うモノは、全て水に溶けるけど……これは水に溶けない物質なのかなぁ。
イヤ、これは飽和して溶けきらない状態なのかも……そうなると、これはクヴェックズルーバーだね。
「この光る物質が生き返らせるのか」
水の輝きを見ているだけのヴェルゼーアの問いには答えずに、私はレファピテルを見た。
泉に手を入れそうなら、全力でとめるよ。
レファピテルも考えている様だった。