16 ルージュミルパーツを売る
私とギルマスのバトルが続いている。
「じゃ、お前さんはいくらを望むんだ」
「ギルマスはこいつの外骨格を一枚いくらで売るつもりなの? 安い値段で売るなら金貨3枚でも良いよ。そこでぼったくる様だったら許せないけどね」
「……」
「それに毒を作る生き物の肉や内蔵は、本当に良い薬の材料になるからね。あっ、そうだった、毒も売れるよね。下手に大きいだけの魔物より価値は高いよ」
「判った。銀貨40枚、金貨だと4枚でどうだ」
「私の話を聞いていたの? 9匹って報告を受けたのに1匹と思い込んでいたみたいに、また大事なことを聞いていなかったんじゃないの?」
「判った一匹10枚で銀貨90枚だ、これ以上は無理だ。その代わりと言ってはオカシイが、お前さんらをランク3にしてやる」
「してやる? そこは、なって下さいじゃないの」
「ゼファーブル。もう良いよ、帰ろうよ」
アークシュリラは、私がルージュミルパーツを売る気がないと感じたようだ。
「そうだね」
私がそう応じると、アークシュリラは全てのルージュミルパーツを仕舞った。
「アリスさん、依頼達成だけ処理をしてくれる。退治した魔物をギルドに売ることってなかったんだから良いよね」
無ランクが仕事をしたとは書けないかなぁ。
さぁ、どうでる。
「アリス、処理をしてやれ、ウチのミスだ。ワシが注意を受ければ済むことだ」
あれっ? この人って実は話せば判ってくれる人なのかなぁ。
「分かりました」
アリスさんは処理をして、ギルマスがそれを承認する。
私たちはカードと達成報酬を受け取り、冒険者ギルドを出た。
「ゼファーブル。これじゃ、もう二度とこのギルドに来れないよね」
「アークシュリラはまた行くつもりだったの?」
「またナンかあれば、行くかと思ったんだよ」
「明日、商業ギルドへ行くから付き合ってね。それまでそれを預かって置いてね」
「イヤだけど、仕方ないなぁ」
翌朝、私たちは商業ギルドへ向かった。
「魔物ナンだけど、珍しいと思うから未解体で持ってきたよ。あなたで査定出来る?」
「魔物によりますけど、ナンですか?」
「ルージュミルパーツだよ」
「ルージュミルパーツは、今日だとギルマスしか無理です。呼びますからお待ち下さい」
受付の人は奥に下がった。
ギルマスを連れて戻って来る。
「私は当ギルドのマスターをしてますナルーヴァと申します。そちらがルージュミルパーツを売りたいと言う方ですか?」
「そうだよ。実物を見るよね」
「持って居るなら、見せて頂きたいですね」
「どこに出す」
「何匹売るおつもりですか?」
「金額に寄るけど、最大で9匹だよ」
「では、裏庭へどうぞ」
私たちは受付の中を通り抜けて、裏庭へ行った。
「アークシュリラ、全部出して」
ギルマスはその大きさに驚いている。
そして、見える部位を確認していく。
「素晴らしいです。一匹は内臓が残念ですが、どれも外骨格はキズが無いです。未解体と言うことは毒を作る器官もあるということですか?」
「個体差は判らないけど、あると思うよ」
「ざっくりですが金貨で13枚ですね。これは当方の解体費用を含んだ金額です」
「いいよそれで、じゃ細かく調べて」
「それでは、係員を呼びます」
ギルマスがなにやら呪文を唱えると、数名の人が箱を持ってやってくる。
「それでは、ご確認下さい」
私たちはその箱が空であることを確認した。
「ゼファーブル。ナンなのこの木箱は?」
「ルージュミルパーツを一時的に仕舞うものだよ。最初に中に違うモノを入れておいて、すり替えない様にナニも入って無いことを売り手が確認するの。あの状態だと重なっている所が見えないからね」
私は木箱をアークシュリラに渡した。
「そうなんだね」
アークシュリラは色々な方向から、その箱を見手から私に渡す。
「ナルーヴァさん、大丈夫みたい」
「では、始めます」
ナルーヴァさんたちは、一匹ずつ丁寧に確認していく。
外骨格の枚数を職員が数えて、ナルーヴァさんが再度確認をする。
先ずナルーヴァさんが手本とばかりに、一匹の尾っぽをダガーで裂いて中を確認する。そして職員が別のルージュミルパーツに取りかかる。
それをナルーヴァさんがポイントを教えながら裂かせている。
職員の勉強もさせている感じだね。
牙の状態も確認している。
全てのルージュミルパーツを確認して、用紙にまとめた。
それを私に渡して再度説明をする。
「あの中に魔石も有りそうですが、必要ですか?」
「はい、必要です」
アークシュリラが答えた。
ならばここはゼロと……
「で、全部で金貨16枚と銀貨8枚になりますね」
「全部銀貨で下さい」
「良いですよ。支払いの準備をします。ついてきて下さい」
私たちは個室に通され、少し待って魔石と貨幣をもらう。
「ゼファーブル。これ一枚一枚数えるの?」
「数えても良いよ。でも、20枚を数えて同じ高さを8こ作れば、8枚が残るよ」
アークシュリラが私の言った方法で数えている。
私も一緒に適当に摘み、基準の高さに合わせる。
「確かにありました」
「では、サインをして下さい」
私は用紙を読んで、アークシュリラに渡した。
アークシュリラも読んでいる。
「疑問点はない?」
「ないよ」
「ならば、サインをするよ。アークシュリラがする?」
アークシュリラが私に用紙を渡してきたので、それを受け取り私がサインをする。
ナルーヴァさんにそれを渡す。
「アークシュリラ。じゃ魔石とかを仕舞ってね」
ナルーヴァさんは用紙を見る。
「これで、終わりました」
「じゃ、帰ろうか」
「うん」
ナルーヴァさんが、受付の外まで案内をしてくれた。
そして私たちは商業ギルドを出た。
「ゼファーブル。全然金額が違ったね」
「冒険者ギルドの方は私たちが解体もしてないから、ルージュミルパーツの価値を知らないと思ったんだよ。だから安く買い叩こうとしてたんだ。まぁ、私たちはその金額でも良かったけど、アークシュリラの最初の労働だし、適正な報酬をもらって欲しかったんだよ」
「そうだったんだね。ただ金にがめついヤツかと思ったよ」
「私は、お金はあれば良いけど必要ないよ」
「そうなんだね」
「それに私が回復薬を何日も掛けて作らないといけない金額を、アークシュリラは一匹の魔物で稼ぐんだからね」
「そうかなぁ」
「そうだよ。それとお金が入ったから、アークシュリラはランタンとか持って無いでしょ。少し離れて居るけど今度買いにいこうよ」
「ここの街じゃ、ダメなの」
「ダメじゃないけど、ダガーとランタンだけは良いのを使った方が良いよ。チョークや小瓶とか虫眼鏡は安くても良いけどね。でも、良いと言っても高いモノじゃなくて、手に馴染んで使い勝手の良いものだよ」
「うん、判ったよ」
ここ何週間かの間にアークシュリラは凄く成長している。
最近は私が助けられることも多く成っている。
アークシュリラの他人を信頼しきるお人好しの性格は、早く直した方が良さそうだ。そうしないと、冒険者ギルドのギルマスみたいな人に騙されることが出て来るだろう。
でも、意地悪になったらアークシュリラじゃなくなるよね。
どっちかでなくバランスを取れれば良いんだけど、こればかりは難しいね。