167 ヴェルゼーアが料理を作る
私たちは街の傍でカヌーを下りて、それをアイテム袋にしまってから歩いて街に入った。
冒険者ギルドや図書館など、紅竜亭の道すがらに有るモノを一通り説明をしたよ。
宿屋について私たちは六人部屋を借りた。
私がナニも考えずに3人部屋と2人部屋を借りようとしたら、六人部屋を一部屋借りた方が安いとレファピテルから言われたからだよ。
でも、ベッドが開いているからと言って、他の人と一緒と言うことは無いよ。
翌日からはそれぞれ別々に行動をすることに成った。
別々と云っても、みんなは図書館かどこかのギルドに居ることが多いけどね。
私は商業ギルドと冒険者ギルドしかこの街にもないと思って居たが、魔法使いも魔導師や魔道士と事細かくギルドが存在していたよ。
そして錬金術師のギルドも有ったよ。
夜になれば宿屋で一日の収穫を話して、各自が知り得たことの共有をしている。
それによってレファピテルの神々の知識は、もの凄く向上していることが判った。
ビブラエスも同じ様な感じだ。
私とアークシュリラはガシララ王朝や並行世界について調べたかったが、そもそもそう云った関係の書籍は無かった。
これらは人々の記憶から抹消されている感じがする。
ガシララ王朝が有った時代は、並行世界とかをみんなが知っていたのかなぁ。
私たちは半分諦めて本を探して居るよ。
もしかしたら、消し忘れたモノが有るかも知れないからね。
でも、錬金術師ギルドでは、欲しかった材料や器具が買えて嬉しかったよ。
私たちは一ヶ月近くセファニラに居たので、みんなは目的の本をあらかた読んでいる。
「もういいと云う感じだね」
「そうだな」
「普通の神々については理解出来たが、これが正しいのか判らんな」
「そうですね。意図的に同じ様な系統の書籍を揃えていることも有りますね」
「じゃ、次の街へ行こうか」
「次はドコにする」
「次はデアニア王国と同じくらい古くから有る、魔導王朝ルダニファルですかね」
「魔導王朝ってなに? 魔導師の王国なの」
「違うらしいです。国民は普通ですが、国内の至る処に魔導関係の術法が張り巡らしてあるそうです」
「それってゴーレムとかホムンクルスが居るのか」
「ホムンクルスを作るのは錬金術だよ」
「ヴェルゼーア。細かく言うと人間の様な形のモノを魔力で動かすのがゴーレムで、人間と同じモノに魔力を入れるのがホムンクルスです」
「どっちも人工的に作ったモノを動かすんだろ、違いが判らんな」
「じゃ、土で人形を作って動かしたらどっちだ」
「土ならゴーレムだろう」
「違うよ、土がどうのじゃなくて、動かす方が大事だよ」
「もしかしてホムンクルスは自から行動をするのか」
「そうだよ。レファピテルも魔力を入れるって言っていたよね」
「ゴーレムもここを守れと命じれば、自分で考えて防戦をします。でも、指示に無い敵の本拠地を攻撃することは有りません。しかし、ホムンクルスは考えて本拠地が手薄ならそこを攻めます」
「錬金術師は人を作れるのか? でも、ルダニファルは魔導だから平気だな」
「ルダニファルは魔導王朝と言うより錬金術王朝に近いですね」
「そうだね。王朝と言うより連邦に近いから錬金術連邦だね」
「そのホムンクルスは剣で切れるのか」
「素材によるよ。ゴーレムと同じで土や木なら簡単だけど、金属に成ると面倒だね。オリハルコンやミスリルだと普通の剣じゃ傷も付かないよ。まぁ、高いから普通はそんな金属じゃ作らないけどね」
「古いと云っても、そこでは魔導関連の本しか無いのではないか。そもそも、そんな国に行って平気なのか」
「そうだよね。私たちが行く目的は闇の神々が本当に悪者かが知りたいだけで、魔法や錬金術の勉強じゃ無いよね」
「そう言った本が有るかは判りませんね。でしたらドコへ行きますか」
「真っ直ぐ西へ進もうよ。多分、ここより蔵書が多い処って無いと思うからさ」
「それも良いな。知った知識を整理する時間も必要だな」
私たちはゆっくりと馬で草原を進んでいる。
アイテム袋の中では食べ物を与えなくても、馬が調子を崩すことはなかった。
それが判る前は夜とかに確認していたが、少しの間アイテム袋に馬を入れていたのを私もアークシュリラも忘れていて、思い出した時に恐る恐る袋の中から取り出すと元気だったので、とても嬉しかったのを思い出すよ。
今は移動のたびにとはいかないけど、こういう草原では馬で進むことが多くなっているよ。
「今日はここで野宿をしようか」
「そうですね。食事当番はヴェルゼーアですね」
「私は凝ったモノは作れないから、肉を焼いたヤツで良いな」
「ヴェルゼーアは焼き方が上手だから、ぜんぜん良いよ」
「そうか……」
みんなが馬を自由にさせて、ヴェルゼーアは肉を切ったり、私は竈を作ったりする。
他のモノもその作業を手伝っている。
馬は草原を駆けたり、草を食んだりしている。
「ヴェルゼーア、スープは必要?」
「あれば良いな」
「今あるのは、キノコ汁しか無いけど良い」
「それで充分だぞ」
鉄板の上でヴェルゼーアが肉の塊を焼いている。
私としては切ってから焼いた方が簡単と思うが、ヴェルゼーアはイツもこのスタイルだ。
しかし、いつでも中まで火が通っていて、生焼けということはない。
私たちのアイテム袋の中に入っているから、食材が腐ることは絶対とは云わないまでもほぼ無いと思う。だが、動物を仕留めて解体作業をして居るから、肉を生で食べる気持ちはさらさらない。
「出来たぞ」
人数分の皿に、肉の塊は一人分に切られて乗っている。
どれも旨そうだ。
「スープも良いよ」
各自が肉の載ったひと皿とスープを取って、草原に座った。
「塩だけしか使って無いのに流石だね。私じゃ、出来ないよ」
「ナンで、ヴェルゼーアが焼くと同じ肉でも美味しく成るのか不思議ですね」
「私は料理を知らないから、変に考えることをしないからだ」
「そうだな。私たちは中まで火が通っているか、周りは焼き過ぎないとかいろいろ考えて肉をいじり過ぎるのかもな」
「ゼファーブルのスープもキノコを分けて入れただけなのに、ほんのり塩味が効いて美味しいですよね」
「入れるキノコにこだわりはあるんだよね」
「昔はこだわってたけど、今はあるモノを入れているだけだよ」
ヴェルゼーアはどうか判らないが、私は腹が満たされれば、食事なんか食えるモノならナンでも良いと思っている。
美味しいに越したことは無いけど、不味くても平気だよ。
確かに健康のためには、いろいろなモノを食べた方が良いらしいけどね。
なので、今は作った料理がどうすれば美味しくなるかなど、全く考えていない。
どうしても肉を頬張っているから、会話は少なくなる。
なので食事の時間も短かった。