164 エンギルが云ったこと
私たちは大人しくエンギルの話を聞いてから、レファピテルが言った。
「言いたいことは、判りました。私から質問が有りますが、良いですか」
「ナンダ、言ッテ見ロ。答エラレルモノナラ答エル」
「有り難う御座います。では、あなた方は私たちが悪魔と言って、恐れているモノと違うのですか」
「ソレワ、ドオ言ウコトカ」
「人々に禍を与える存在なのかと云うことです」
「ソレガ、人ヨリ良イ思ヰヲシタイトカ、他ノ者ヲ陥レタイト云ウ感情、病ヤ死ヌコトナラ我々ガ与エル。シカシ、羨ム気持チガナケレバ世ノ中ワ進歩シナイ。ソレニ、アラユル生キ物ワ死ナナイト別ノ世界ヱワイケナイゾ」
確かに他のモノが使っている品々がよければ使いたいと思う。イヤ、それ以上のモノを作って羨まれたいと思うハズだ。
それで国や街は発展もするし、更に個人だって向上をして行くと私は考えている。
どんなに素晴らしいことをしても憧れられないのなら、人々はやる気を失うとね。
「どう言うことだ。私たちは誰でも死にたくはない」
「タチダト、ソレワオ主ノ思ヰ込ミダ。生活ガ苦シイモノヤ体ガ不自由ナモノ、好キデモナイ仕事シテ居ルモノナドワ違ウ場合モアル」
そうかも知れない。親が店をやっていれば、子供はそれを引き継ぐのが一般的だ。
どんなに自分に向いてはいないとしても、一度はやらされる。
それと体が不自由だったり、ナニをしても生活が苦しかったりしたら、来世での健康的で普通の生活に夢を託すこともある。
「私はアークシュリラだよ。別の世界って言っていたけど、詳しく教えてくれる」
「別ノ世界トワ、文字通リ他ノ世界ダッタリ、違ウ生キ物ダッタリスル。コノ世界モ他ノ生キ物カラミレバ別ノ世界ニナル」
「別の星ってこともあるの」
「ソレモアル。オ主タチガ我ノ話ヲ聞カズニ戦ッタ世界モアル」
「並行世界のこと?」
「ソウダ。アラユル可能性ノ世界ガ、コノ世ノ中ニワアル。ソレノ管理モ我々ノ仕事ダ」
「そこに行くことは出来るの」
「出来ルガ、自分ノ好キ嫌イデワ、行クコトワ出来ナイ」
「そうなんだね」
アークシュリラは納得した感じだ。
「私はヴェルゼーアと云う。それじゃ、有るだけ無駄ではないか」
「ヴェルゼーアカ、我ヲ傷付ケタモノワ、久シブリダッタゾ――」
ヴェルゼーアからは、少し照れている感じが見受けられる。
「――デワ、質問ノ答エダガ、無駄デワナイ。ソノ世界ニモ、ヴェルゼーアワイル。ソコデモ色々ナ経験ヲ積ム」
「いくら経験をしても、死んだら無駄じゃないか」
「本当ニソウカ、オ主ワヤッタ事ガナイモノデモ、簡単ニ出来タコトワナイカ? マタ、虫ノ知ラセト云ウ第六感ヲ経験シタコトガアルダロウ」
ヴェルゼーアは考えている。
「私はゼファーブルだよ。それって他の……並行世界だっけ、そこからのお知らせってことなの」
「オ知ラセカ、今ノ処ワ、ソノ理解デイイ」
ヴェルゼーアは考えがまとまったのか、エンギルに言った。
「死んでも経験は残るのか」
「全テノ経験ワ残ル。シカシ、生マレ変ワッタラ、ソレヲ全テ覚エテイモノワ少ナイ」
「そうなのですか。その並行世界を理解するのには、私たちには時間が必要です。それではエンギル、貴方はベギャブルの家来なのですか」
「我々ニ上下ノ関係ワナイ。家来ト云ウノワ間違イダ」
「あなたとベギャブルとの違いはナンですか」
「ヤッテイル仕事ガ違ウダケダ」
私たちはエンギルの話す内容を全て理解できた訳ではないが、半分くらいは納得できた。
これ以外にも沢山のことを話してくれた。
「エンギル。ヴェルゼーアの付けた傷を治しますね」
「モウ、直ッテオル。ソノ心配ワ無用ダ」
「そうですか。最後にガシララ王朝と貴方たちは関係あるのですか」
「アノ国ワ我々ヲ神トシテ崇メ崇拝シテイタ。シカシ、光ト時ノ神々ニソソノカサレテ我々ヲ封印シタノダ。人ナノデソノ事ニワ怒ランガ、神々ノヤリ方ワ気ニ入ラナイナ」
「また、あなた方を崇拝したら守って頂けますか。それとも人々には関わることはしないですか」
「我々カラ祈ルナトワ云ワン。デモ、昔ミタイニ知識ヲ授ケルコトワシナイ」
「今後、光と時の神々に戦いを挑むのですか」
「ソンナ力ワ、今ノ我々ニワナイ」
「判りました」
レファピテルはそう言うと、腕に付けていたブレスレットを外してヴェルゼーアを見た。
ヴェルゼーアはナニも言わなかったので、レファピテルはエリロヘルスから貰った衣を脱いで二つの品をヴェルゼーアに渡した。
「私は今からエンギルたちを信仰します。ですからヴェルゼーア、これを返しますが良いですか」
ヴェルゼーアは大きく頷いて、それを受け取って言った。
「私も同じ意見だが、ビブラエスは違うかも知れない」
「そうですね。私は彼女を無理に誘うことはしませんよ」
「そうしてくれ」
「ビブラエスモ仲間ナノカ」
「そうだ」
「アノモノワ、元々我々ヲ崇拝シテイル。ソレニ明日ニナルト全員ガ到着スル」
「それって、この世界のことで良いのか」
「並行世界デモ同ジダ。一緒ニヰナイ間ワ同ジ世界ニワ存在シナイ」
私はエンギルと話すために、傍に来ていたアークシュリラに聞いた。
「アークシュリラはどうする」
「私は光の神を崇拝している訳ではないから、どうでも良いよ」
「じゃ、ヴェルゼーア。私もこの衣は返すよ」
「そうか、ならば明日になって、ビブラエスから連絡をもらったらエリロヘルスの所へ返しにいこうか」
「そうだね」
「オ前タチニ掛カッテイル変ナ魔法ワヨイノカ」
「変なって、倒せる相手なら無駄に戦わなくて済む魔法だよ」
「ソウナノカモ知レナイナ。デモ、術者ニ、オ前タチガヤッテイルコトガ伝ワリモスルナ」
「エリロヘルスに判っちゃうの」
「ソウダ。ソレト光ノ神タチヲ相手ニシタラ、効果ガ反対ニナリモスルゾ」
私はヴェルゼーアを見た。
「これは解除出来るのか」
ヴェルゼーアは言った。
「出来ル。シカシ、吾がやるよりレファピテルが行え。お主にはその力があるハズだ」
エンギルの話す言葉が少しずつ鮮明になってきた。
長期間に亘り話さずにいたけど、私たちと少しの間だが喋ったから機能が元に戻ったのかも知れないね。
「私にエリロヘルスの魔法を解除する力があるのですか」
「あぁ、そうだ。今、やらなくても良い。解除すると術者との繋がりが切れるから、他のモノタチとよく相談してやるが良い」
「そうします」
「もし、解除出来ないと行けないので、ヴェルデムベゼラを行かせる。出来ない時はそのモノに頼め」
「ヴェルデムベゼラって死を司る神ではないですか」
「そうだ。我々と違って、あやつが一番時間がある。もし解除することが出来なかったら、このコインを空中に投げろ。そうしたらやりに行く」
レファピテルはエンギルからコインを受け取って言った。
「判りました」
私たちはエンギルと別れて、ビブラエスが来るのを待つことにした。