162 全てを統べるモノって
私は平原に有った岩を、魔法で持ち上げている。
「ゼファーブル、そのままでいて」
「横穴がありますわ」
「ゼファーブル、みんなが入ったら元に戻してくれ」
「そうしたいけど、私が移動すると岩がこんな形だから不安定になるよ。レファピテルはこの岩を持っていられる?」
「やってみます」
「じゃ、お願い」
「それでは飛翔は私が引き継ぎます」
「じゃ、レファピテル、準備はいい」
「はい」
「ゼファーブル移管レファピテル飛翔!」
私が先ず飛翔の権利を、レファピテルに譲ることを宣言する。
「レファピテル移管ゼファーブル飛翔!」
レファピテルが私が譲った飛翔の権利を受け取る。
これで飛翔の術者の権利は、私からレファピテルに移った。
それと同時に岩は落下して、凄い土埃を上げ元の穴に収まった。
「ゼファーブル、どうして私には出来ないのでしょうか」
「魔力の多い少ないでは無いと思うから、私には判んないよ」
レファピテルでは持ち上げられないと云うことが判ったが、ではどうすれば良いかなぁ。
私が持ち上げて、動くと落下の危険性がある。
こんなモノが頭上に落下したら、ケガでは済まない。
九分九厘、死ぬ。
持ち上げていないで、どこかに置くかなぁ。
私が考えて居ると、ヴェルゼーアが発言した。
「ゼファーブルしか持ち上げられないのなら、私とアークシュリラが横穴に入ってからここに転移する。そしたらゼファーブルは岩を元の位置に戻してくれ」
「そうだね。そして再び横穴に転移すれば良いよね。岩は元通りだから、横穴に他のモノが入って来ることもないよね」
まぁヴェルゼーアの言う方法が、今は確実ナンだろう。
「判ったよ、それでやろう。じゃ魔法をかけるよ。飛翔!」
岩は持ち上がって、空中に浮いた。
アークシュリラとヴェルゼーアが、岩がどいて出来た穴に入っていく。
少しして、白い光と共に二人が戻って来たので、私は元の通りに岩を降ろした。
岩の周りの土や草は掘り返したように成っていて、元通りに成ってはいないけどね。
「転移!」
アークシュリラとヴェルゼーアが私とレファピテルを連れて転移させた。
「灯り!」
すかさずレファピテルが魔法で周囲を明るくする。
魔族が近くに居る処では、レファピテルの魔法が使えない訳ではない様だね。
隊列は先頭がヴェルゼーアでアークシュリラ、レファピテルと続いて、最後が私の順だよ。
「ここから丘までの距離を進むんだね」
「そうなれば良いな」
草原には他に怪しいモノは無かったので、あの丘が人工物だとしたら、きっとこの通路が丘まで続いているハズだね。
通路は土を掘っただけで滑らかに綺麗に成っているとか、石とかで囲われていない。
更に、そこには人工的なモノは何一つとして落ちてはいなかった。
なので自然に出来たほら穴や洞窟と云われれば、否定する根拠はない。
しばらくの間、私たちは一本道の通路を進んでいく。
「ナニも居ないな」
土そのモノの通路と云い、湿り具合から言ってセンチピードやヴェールドゥテールとかが居ても良い。
センチピードはミルパーツほどではナイが、ちょっと大きいムカデの魔物だけど、ヴェールドゥテールはミミズの魔物だよ。
ワームみたいに数メートルもの巨体では無く、大きくても50センチメートルもないけどね。
でも、肌を爛れさせる粘液を体から出すので、落ちてきたりすると厄介だよ。
「そうだね。ナニも居ない理由に成るかは判らないけど、ここって寒いよね」
「確かにね。涼しいと云うより寒いね」
「これも魔族が起こして居るのか」
「魔族には気温を操るモノは居ませんよ」
しばらく土で出来た通路を進と、私たちは広い空間に出た。
「この空間はナンだろうね」
「天井も高いですね」
今までは杖で天井を突けるくらいの高さだったが、ここは私たちの身長の5倍以上はある。
その上、床には石畳が綺麗に敷き詰められているし、壁も途中まで石で覆われていた。
正面に通路が一つある。
「ただの空間にしては、今までの床や壁などの感じから言っておかしいが、ここには見たところ祭壇も石棺も何一つとしてないからな」
「休憩を兼ねて調べようよ。それとも、見たところナニもないから先に進む」
「休憩で良いよ」
私たちはその空間の中央で休憩を取ることにした。
「レファピテル。ブレスレットって変化してるの」
「全く変化はありません」
「魔族が居るのに変化しないのか」
「そうです。光ることも温度変化も有りません」
「でも、それで魔力を封じてるのなら大丈夫だよね」
そもそもブレスレットは魔族の魔力を封じると言っていたから、魔族が傍にいても反応しないのは判る。
しかし、動作しているなら光るとかで、教えてくれても良いと思う。
これじゃ、壊れていても判らないよね。
「話を変えるけど、レファピテルは全てを統べるモノって知っているの?」
「全てを統べるモノですか? この星が出来た時に生きモノや植物などあらゆるモノを作った、唯一無二の存在ですね。その後、一人では大変なので沢山の神々を作ったと教わりました」
「ゼファーブルは知らなかったの?」
「リファヴェーラに聞くまでは知らなかったよ。アークシュリラは知っているの?」
「うん。私が魔法を本で学び始めたときに、治癒や回復などは神の力がどうのってあったよ。そこでそんな名前が出てきたけどね」
私が錬金術師として魔法学校で魔法の初歩を習った時は、魔法の体系的……基本的なことだけを学んで神々については学んでいない。
それに本で学び直した時も子供向けの書籍だったし、そんな細かいことは書いては無かったよ。
「そうなんだね。唯一無二の存在かぁ」
「今はこの星で起こることは各神々が管理してますので、その存在は神々の管理者って感じですけどね。どうして急に聞いたのですか?」
「悪魔を封印するタメにあすこに誘い出したエサが、全てを統べるモノの証だったらしいよ」
「そんなモノが有るのか」
「そんな証は無いって言ってたよ」
「そうか」
「ヴェルゼーアは、その存在になるつもりなの?」
「イヤ、そんな気はサラサラない。それが有るのなら魔族で無くとも欲しがるモノが出て来る。ナンなら私が破壊しても良いと思うな」
「そうですね。そんな危険なモノが有るのでしたら壊すべきですね。しかし、無いと云うなら良いですね」
「レファピテル。無いと証明することは不可能だ。どこぞの王様が欲しいと言えば災難が起きるぞ」
「もしかしてエサがそれだったから、人々はあの封印のことを記録出来なかったのかもよ」
「それも一理有るな」
「それではガシララ王朝のことが伝わって居ないのは、全ての神々によって消されたと言うのですか?」
「それは違うと思うよ。もし消したのが全ての神々なら、ハルメニアやオーラガニアとかにも口伝ですら残って居ないだろうね」
「そうだよ。ゼファーブルの云うとおり一部の神々がやったから、残っているモノが在るんだよ。リファヴェーラたちは抹消に係わって居ないから、ゼファーブルに真実を教えたと思うよ」
アークシュリラの言っていた、係わって居ないから教えたと云うことは正しいと思う。
自分たちが消したことを、わざわざ教えるモノはいないと思うからね。
休憩が済んで、この空間を調べたがナンも無かった。