161 感情が流れ着く場所
私たちは感情の流れを測定する装置が出来たので、相談をしている。
「で、もしネスリオだったらどうかなぁ」
「ネスリオか、それだと水中での戦いになるな」
「私たちは水の中でも居られるけど、魔法は使えないモノがあるよ」
「そうですね。ゼファーブルの雷撃は無理でしょう」
「そうだな。私たちも水の抵抗で剣が上手く扱えないな」
「私も本差しだと水が気になるね。脇差しやダガーなら抵抗も少ないけど、戦いは不利になるよね」
「最悪そうなるな。でも、そうと決まった訳ではないけどな」
「ゼファーブル、早く機械を設置してよ」
直ぐに私は機械を始動させて、嫉妬などの感情がどの方角に流れていくかを確認しだした。
「やはり、ここでは湖の方に流れているね」
「ここでは?」
「反対側は違うかもよ」
「それは、湖を通過しているってことですか?」
「そう」
「私たちの感知能力を疑うの?」
「アークシュリラ、違うよ。私も知らなかったけど、ネフィロメンスによると水があるとそう言った感情の波動が変わるらしいんだよ」
「そうなのか」
「私も聞きかじりだけど、相手も考えていると言うことだね」
アークシュリラとレファピテルからは、納得することが出来ないと言う感じがした。
「それじゃ、周囲を確認に行くか」
「そうだね。カヌーで飛べば良いから、直ぐに行こうよ」
私たちはカヌーに乗って湖の上に来ている。
「感情はこの様に流れているね」
私は機械を見ながら、それが指し示す方向へカヌーを動かしながらそう言った。
「行き先は湖の中で、ないのか」
「そうだね。ここら辺で四方八方から感情が集まって来るから、流れが凄く乱れているけどこっちに流れ出ているね」
「水の有るとこで、あっちこっちから流れて来るのを、一時的だけど整理していたんだね」
「増幅とかはしていませんモノね。河で云う貯留場所の様なモノでしょうか」
「それで、その先はどうなっている」
「えっと、こっちだね。進んでみるよ」
「頼む」
私たちは湖の上から出て、更に進んだ。
もう、湖は小さく成っている。
馬だと随分な距離だ。
私は進んでは引き返し、戻っては先に進んで流れが集まっている処を探した。
目で見えるなら分かり易いが、機械でしか判らないから仕方ない。
「ここかなぁ。流れが集まっている所って」
私の真下には丘がある。
「あの丘に居るのか」
「居るかは判らないけど、感情の流れはここに辿り着いているよ」
「今ここで居るか居ないかを議論してもムダだよ。あの丘を調査すれば判るからね」
「でも、居ると仮定して、見付け次第に攻撃をするのですか?」
「それだと逃げられないかなぁ」
急に襲われたら魔族でも逃げるよね。
もし、また靄の様になったら面倒だ。
「ヴェルゼーア。あのブレスレットは使えそうなの」
「レファピテル。どうだ」
「いくら魔力を封じるとは云え、これで相手が逃げられなくなるとは思えませんね」
使ったことがない品だから、私もどうのこうのとは言えない。
一応、貰ってから試したけど、私たちの魔力は封じられることはなかった。
更に、私たちがここまで来るのに、魔法を使う魔物にも遭遇していないからね。
「でも、ここでずっと対策を考えている訳にはいかないよね。もし、逃げられたら追いかければ良いよね」
「アークシュリラの云うとおりです。ブレスレットも試さないことには、どう言った効果が有るのかも判りませんよ」
「判ったよ。それじゃ丘に下りるとするか」
私たちは丘の上に下りた。
見た感じは、ナンの変哲もない平原の中にある丘陵地である。
「これって人工物じゃないかなぁ。例えば円墳とかだけど……」
「お墓ってこと?」
「そう、周囲の感じと違和感があるよ。でも、成仏しているみたいで霊とかは感じないけどね」
魔族も住むのに、普通の丘より古墳の方が良いのかも知れない。
「じゃ、穴を掘ったら問題になるな。でも、本当に魔族が隠れ住んでいるなら、自分が入った穴は有るだろう。探すか」
「そうですね。この大きさなら周囲を隈無く探しても、それ程時間はかからないでしょう」
私たちは丘の周囲の捜索を開始した。
丘は木々に覆われている訳ではないが、草で覆われている。
その草は膝より少し短いので、ウサギやイタチの住む穴だと掻き分けないと見付けられない。しかし、魔族が出入りスルほどの大きな穴ならば、遠くから見るだけで判る。
「穴ってどのくらいなのかなぁ」
「相手が潜り込める大きさでも、私たちが入れなかったらどうするの?」
「そうだな。これが墓だとしたら、私たちが副葬品を盗っていると思われるよな」
「私たちが入れる大きさなら良いのですがね」
周りを一周したが、ウサギはおろかネズミの巣穴すらなかった。
「入れる所は、ないな」
「そうですね」
「魔法で中を見れないか」
物体を壊さないで中を調べる……そんな便利な魔法はない。
「ムチャを言わないでよ」「ありませんよ」
私とレファピテルはほぼ同時にヴェルゼーアに言った。
「そうか。穴を掘らないと、ここで終わりか」
「自分で言っといてなんだけどね……確かに草原の中にぽつんと有るので、作りは不自然だけどこれが墓って決まった訳ではないよね」
「そうですよ。周囲に石碑も祭壇も無いですから、不自然でも丘ってこともありますよ」
「それもそうだな。じゃ掘って行くか」
「ヴェルゼーア。丘だけでなく、もう少し周りを確認しない」
「カヌーで飛べば良いから、周辺を調べようよ」
「それもアリですね。ここに感情が流れ込んでいるけど、地下道で少し離れた出入り口とつながっていることもありますよね」
私たちはカヌーに乗って、丘がある周囲を見て回った。
「あの岩も草原には不似合いですね」
「そうだね。私たちの背丈より大きいよね」
「下りようか」
私たちは草原にある岩の所に来た。
ここからあの丘は良く見える。
「文字はナニも書いて無いな。魔力はどうだ」
「微かに感じますね」
「そうだね。下だね」
三人が私の方を見た。
「少しずらすよ」
「頼む」「お願い」「お願いします」
「移動!」
私は岩を動かそうとしたが、動かない。
あれっ、これって地中深く刺さって居るのかなぁ。
だとすると、これでどうだ。
「飛翔!」
私は岩を魔法で空中に持ち上げる。
「わっ。地面が……」
その岩は見えていた部分の数倍の大きさが地中に埋もれていて、持ち上げた拍子に私たちの居た場所以外の地面がそのまま持ち上がった様だった。
丘の方……私たちの居る所は加工されたように真っ直ぐになっているが、岩の左右と反対側は膨らんで居て思ってたよりとても大きかった。