159 ヴェルゼーアたちが戻って来た
ヴェルゼーアたちがやって来たが、奥の院のモノたちはまだ到着していない。
「ビブラエス。小人数でも良いから先見隊は来ないの?」
「無茶を言うな。これでも、ハルメニア王国外に派遣してもらうだけでも苦労したのだぞ」
「ゼファーブル、そうですよ。来るのは、アークシュリラや私のやっていた魔力の解析が出来るモノたちであって、魔法使いなら誰でも良い訳ではありません。国内でも表舞台に出ることのない奥の院のモノたちを、ハルメニア王国に直接関係しないことで派遣させたのです」
「レファピテルの云う通りだ。一ヶ月くらいすれば着くだろう」
「そんな人たちを良く派遣させたね」
「それは、レファピテルから届いた拓本のお陰だ」
「拓本? 誰か読めたの」
「誰も読めないから派遣が決まった。ここまでガシララ王朝の版図なら新発見だからな」
「私が調べた処では、もっと大きいと思うよ」
そこで、私が今まで調べた結果を軽く説明した。
「そうか、その解釈だと一つの国と云うよりかは共同体だな。だから私たちの国でも、ガシララ王朝のことはあまり知られていないのかもな」
昔はハルメニアもガシララ王朝に属していたが、王朝からは内政や外交に口出しされなかった。
そしてハルメニアは周辺を併合して王国になった。
そう言うことなら、ハルメニア王国にガシララ王朝の歴史が無いのも頷ける。
しかし、それだとガシララ王朝に属する意味はないと思うけどね。
それでも、ガシララ王朝に属するうま味……それがナンであるか今は解らないが、当時の各国には有ったと云うことだね。
「ガシララ王朝のことは奥の院のモノたちに任せても良いが、レファピテルたちはあいつらがドコにいるか判ったのか」
ヴェルゼーアが脱線していた話を元に戻した。
「おおよその居る方角は判りました」
「ナニか不都合が有るのか」
「アークシュリラ。話さないとダメですね」
「みんな。ベギャブルだけ、居る所が判んないんだよ」
「どう言うことだ。端折らないで言ってくれ」
「なら説明をするよ。ベギャブルの魔力と思うモノは、このクレーター内で一番強く感じたよ。なんせイカヅチを落として、これを作ったんだからね」
「その魔力がこの世の中に無いのです。考えられることは三つあります。一つは、死んだか生命活動を極限まで落としていることです。二つ目は、他の世界に行って、この世の中にいない場合です。最後が、新たに生まれ変わって、今までの魔力以上に進化した時です」
「生命活動を極限まで落としていても、微かに感じないの」
「クマの様に寝ているだけの冬眠なら判るけど、卵とか繭などでシールドされたら無理だよ」
「二つ目だと、エリロヘルスから連絡があるだろう。ヴェルゼーアの持っているブレスレットは返すことに成るのだからな」
「連絡が無いと云うことは、もし他の世界であっても私たちで行けると言うことだ」
「そうか。行ければ回収はしないよね。でも、最後だと面倒だよ」
「どう進化したのかが判らんことには、探しようが無いな」
「エリロヘルスも臣下のモノから退治と言ってたから、それらを退治している間にベギャブルがどうなったか判るよね」
「確かにそうだな」
それからレファピテルがヴェルゼーアとビブラエスに念話のやり方を教えていた。
レファピテルからは念話が出来るが、二人からは全く念話が来なかった。
それを不思議と思い二人に聞いたところ、頭で相手を思って話すを、相手を思って本当に独り言のように言うと勘違いしていたらしい。
魔力が足りないから使えなかったんじゃ無くて、本当に良かった。
私とアークシュリラはガシララ文字について図書館に行って調べたり、魔法使いギルドや魔法ショップに行って聞き込みをしたりしていた。
それと、エリロヘルスの処に行ってから、アークシュリラの言っている、彼女が元々住んでいた世界……地球の情報が分かるようになった。
エリロヘルスの処に行ったことで、つながったのかなぁ。
でも、これは私だけかも知れないよね。
「ビブラエス。奥の院のモノが来るまで、私たちもここでのんびりしている訳にはいかない」
「判っている。レファピテルとアークシュリラが感知出来るうちに見付けないとな」
「そうだな。もし、万が一でも、進化したら面倒くさいしな」
「レファピテルとアークシュリラ。二人が頼りだからな」
レファピテルとアークシュリラは頷いた。
そして、私たちはビブラエスを残して魔力のする方向へ出発した。
ビブラエスが念話を使いこなせることが判ったので、ハルメニア王国から人が来たら念話をしてもらい、誰かが転移でビブラエスを迎えに来ると話してある。
私たちの行き先がドコドコと決まっているなら、ビブラエスに来てもらうのだが、行き先は決まっていないからね。
「二人とも先ずはどの辺り?」
「魔力の強さから言って、そんなに遠くないと思うよ」
「そうですね。相手は飛ぶのですよね。見付けても私たちで戦えるのでしょうか」
「ジャイアントヴェスペの時は、私たちは飛べなかったけど、今はナンとかなるよね」
「ゼファーブルは前線で戦わないから判らないと思うけど、飛べても剣の威力は踏ん張れないから落ちるよ」
「そうだな。アークシュリラと模擬戦をして、大地が如何に剣捌きに重要か良く判ったよ」
「でもそれは慣れていないことが、一番大きいんだけどね」
私も弓を射る際に、空中ではどうしても安定して射出することが出来ない。
魔法でも杖を急に相手に向けるとか、杖から射出すると反動をモロに受けてしまう。
なので、発射したら無防備な時間が、僅かに生じる。
「私だって弓を射るとか、杖から射出させる魔法では、上手く扱えないから判るよ」
「そうですよ。魔法も種類によっては、踏ん張れないのは痛手ですよ」
「そうかも知れないな。飛べても空中での戦いは、私たちにとって不利なのは変わりがない。しかし、全く手足が出ないことは無くなったな」
「そう、相手が空中で休むことくらいは、妨害出来るよね」
「そうだな」
空中で踏ん張れないのは相手も同じだが、相手は昨日今日になって飛べる様になった訳ではない。
最初から飛べたから、それに応じた戦い方をしている。
そのことは、ヴェルゼーアやアークシュリラも頭では判っているが、今まで培っていた技術が邪魔をして体が言うことを聞いてくれない。
なので慣れるまでは、私たちは地上で戦っていたのと同じ戦いを空中でもしている。
でも、私は無から有を作りだす錬金術師だ。
直ぐにとはいかないまでも、早い段階に空中でも踏ん張れる足場を作らないといけないね。