154 リファヴェーラに聞く
私たちは王立図書館で、それらしいタイトルの書物を探しては閲覧場所で見ている。
さすがは王立図書館だけのことはあって、蔵書の数は冒険者ギルドにあった図書室の比では無い。
なので、一日中居ても、目的の本を探し出せる訳がない。
それからナン日かが過ぎたが、冒険者ギルドの図書室で調べたのと同じく、魔法陣は複数の魔法使いが作ったと云うことしかどの書物にも記載がない。
「アークシュリラ、どう?」
「ゼファーブル。これも同じだね」
中には生贄を用意したと云う記述があったけど、私たちにはどうしてもその記述は信じられなかった。
また、私たちは本を読み出す。
「あれって、悪魔じゃ無いのかなぁ」
「どうして?」
「私たちは顔を見た訳じゃ無いよね。あのモノの姿って、イカズチが落ちた際の輝きと月明かりの中で見えたモノ……そう、背中の羽と頭にあった角らしきモノしか判らなかったよ」
「そうだけど、アークシュリラは他にそれらしきモノは知っているの」
「知らないよ。私も悪魔だと思うけど、でも悪魔って一度に複数体も現れないよね」
「確かにどの書物でも、悪魔は一度に複数体は現れないと書いてあるね。でも、それじゃあれはナニモノなの」
「封印されたのは確かに悪魔だと書いてあるから、それは間違って無いと思うんだけどね。でも、一つの魔法陣で封印することが出来るのかなぁ」
他の魔物の様に沢山いれば詳細も判明するが、特定の悪魔は一体しかいない。
それは人自体は多いが、私は一人しかいないと言うことだよ。
実際に悪魔は複数体が存在するが、その一体ごとに名前がある。
その一つ一つで違った性格や生態を持っている。
「じゃ、光の神リファヴェーラに聞いてみる」
「どうやって?」
「私が召喚魔法で呼ぶよ。そうすれば、どの悪魔なのかが判るよね」
「確かにね。本当は悪魔で無かったのかも知れないから、それも判るよね」
私たちは宿屋の人に今日は帰らないと伝えて、街から出る。
そのまま悪魔が落としたイカズチの跡に転移した。
そして私はその脇に、光の神を召喚する魔法陣を描く。
アークシュリラは簡易祭壇を作っているが、ただロウソクを置いただけで供物は特段用意していない。
「ゼファーブル。本当に供物は要らないの? 狩った魔物や果物なら持って居るから、置くだけ置いておこうよ」
「光の神だよ。供物ぐらい無くても、文句は言わないよ。もし文句を言うなら、一切の悪魔たちに関する対応は神様に任せるよ。あんなモノ、本来は人の手でどうこう出来る訳ないよね」
「そうだけど……」
召喚の準備は整った。
「それじゃ始めるよ。私はゼファーブル、光の神リファヴェーラに尋ねたいことがあります。私の元に来てその問いに答えんことを切に望む……」
私は、光の神リファヴェーラを召喚する。
「リファヴェーラ。知っていると思うんだけど、あすこから黒い靄が出て来て、しばらくすると角らしきモノと背中に羽のある生き物に変わったけど知っているの?」
「知っていますよ」
「そのモノたちはナニモノなの? 沢山いたけど」
「一体はベギャブルですが……」
リファヴェーラはベギャブルについての情報を語った。
小さいモノはベギャブルの臣下とも言っていた。
「ベギャブルって魔界の王だよね。元々は神だったハズだから、当然のこと神々で対応してくれるんだよね」
「お前たちはナニを言っているのですか、神々はお前たちの世界には関わらないのです」
ベギャブルが暴れようが、神界で無ければ良い様に感じる。
「そう。で、リファヴェーラはドコで暮らしているの」
「それを知ってどうするのですか」
「モチロン、その出て来たモノたちを送り届けるタメだよ。神々の暮らしている所でなら、そいつらがナニをしていたって構わないからね」
「ここから我々の住む処に送るですと……そんなことは出来ません」
「ゼファーブルがリファヴェーラを召喚することが出来るなら、逆に行くことも可能だよね」
今まで大人しく聞いていたアークシュリラが、そう言った。
「うっ」
リファヴェーラが返答に詰まっている。
アークシュリラの言ったことは、図星みたいだね。
「教えてくれなくても良いけどね。もし、調べて住んでいる所が判ったら、その魔法陣を公開して厄介な魔物やこの世界で不用なモノとかもどんどん送る様にするよ」
「そんなことをしたら天罰が下りますよ」
「じゃ、ベギャブルに助けて貰うよ。この世界を支配するより、神界を支配した方がベギャブルに取っても良いだろうからね」
「お前は、私を脅迫するのですか」
「最初は、どうすればやっつけられるかを聞くつもりだったけど。リファヴェーラが自分たちに被害が無ければ、この世界がどう成っても良い感じがしたからね」
「判りました。しかし、私、一人で決めることは出来ません」
そう言ってリファヴェーラは消えた。
召喚は解いていないから、まだリファヴェーラとつながっている。
今は魔法陣にリファヴェーラの姿だけが無い状態だ。
「ゼファーブル、リファヴェーラが消えたよ」
「大丈夫だよ。まだ、つながっているからね」
もう、リファヴェーラが消えてから、数時間が経過している。
しかし、幾ら待ってもリファヴェーラが現れる気配はない。
神々にとっては数十年でもちょっとの期間なのかも知れないが、私たちにとっては数時間でも充分に長い。
「アークシュリラ、リファヴェーラの居る処に行こうか?」
「行っても良いけど、この世界にまた戻って来れるの?」
「それは判んないよ。召喚の魔法陣で呼ぶのではなく、逆に行くのだからね」
アークシュリラは悩んでいる。
私だってこの世界でまだやりたいこともある。
その上、行った先の神界が、本当に書物に記載された状態ならまだ良いけど……もしそこがナニも無い空間にリファヴェーラたちのエネルギー体があるだけなら、私にはそこで暮らすことは到底出来ない。
「ゼファーブル、行こうか。ずっと待っていても仕方が無いよ」
しびれを切らしたのか、考えがまとまったのかは判らないが、アークシュリラが言ってきた。
「本当に良いの」
「行く前にヴェルゼーアたちに連絡をしておこうよ。もし、私たちが戻れなかったら、後のことは頼んどいた方が良いよね」
リファヴェーラから聞いた悪魔のこと、私たちは今から神々と折衝するタメに神界に行くこと、戻れるか判らないので一週間しても連絡が無ければ、後のことは済まないがよろしく頼むと手紙に書いて箱に入れた。
ファリチスから旅立った時にも書いたが、今度は本当に二度と会えないかも知れないので、今までの感謝なども書いたよ。
「ヴェルゼーアがこの手紙を見て返事を書いても、私たちは読めるかなぁ」
「神界まで届くかは試したことは無かったよね。届けば良いけどね」
「そうだね、ゼファーブル。それじゃ行こうよ」
私たちは魔法陣に乗って、つながっている魔力を辿って行く。