153 調査をやり始める
私たちは紅龍亭に着いて、部屋を一週間ばかり借りた。
「ベッドはふわふわで、ギルドの受付の人が言っていた通りだね」
「これで普通なんだよね。白亜亭はどんな感じなのだろうね」
「じゃ、次は白亜亭にする?」
「私たちは寝るだけだから、高い処にする意味は無いから普通で良いよ」
「じゃ、ギルドに戻って調査だね」
私たちは再び冒険者ギルドへ行き、二階にある図書室で悪魔について調べた。
太古に居た魔法使いたちにより封印されたと云う記述を見つけたが、その方法が書いていない。
これでは、普通の魔法陣で良いのか、特別な魔法陣を使ったのかが判らない。
しかし、悪魔が通常の魔法陣で封印出来るとは思えないけどなぁ。
更に普通の魔法陣で良ければ、いくら自分を閉じ込めていたモノを破壊するにしても、あのイカズチの威力はやり過ぎだ。
「アークシュリラ。悪魔を魔法陣で封印した様だけど、普通の魔法陣で良いのかなぁ」
「ゼファーブル。もしそうなら、私でも封印出来ることになるよ」
「どの本にも特殊な魔法陣を使ったとの記述が無いんだよ。詳細は不明でも、違えば通常と異なるって書くと思うんだけどね」
「もし、何人かの魔法使いが共同で魔法陣を作ったのなら、それって普通の魔法陣じゃ無いよね」
そう言うことか、私もアークシュリラも個別に魔法陣は描けるが、同じ目的の魔法陣を共同して描くことはしないし出来ない。
一人より二人、二人より三人と係わる人数が増えれば、当然のことで使う魔力も増える。
それで術者の心が一つになれば、魔法陣に使った魔力……この場合は効力が、単純な足し算ではなく掛け算になる。
しかし、心が一つにならなければ、逆に引き算でなく同じく掛け算で効果が減ってしまうから、ただ多くの魔法使いを集めれば良いと云う訳でも無い。
「そうだね。普通の魔法陣じゃ無いね。閉じ込めるとか、魔力を減らすとか、考えられる効果を相談して一つの魔法陣にしたと思うよ」
「それって巨大に成るよね。あっ、あのクレーターが全て魔法陣だったの」
「多分ね。もう既に粉々に成っているから実際の大きさは判らないけど、クレーターと同じ大きさと考えて良いと思うよ」
「魔法陣はそうかも知れないけど、どうやって誘い出したのかなぁ」
アークシュリラがぽつりと呟いた。
それは一理ある。
あんなに大きな魔法陣を描くのも大変だが、相手に悟られずに連れてくることは更に難しい。
一人なら騙すことも可能だが、複数に成るとさすがに不可能だ。
順番にあの数のモノを封印していく場合は、先に封印に閉じ込めたモノの魔力が突然消えることになる。
なので、相手がよほど慌てていないか、抜けていない限り用心される。
ならば一度に封印したのかなぁ。
でも、あすこはナニもない草原だから、餌が無ければ悪魔たちが自分からやって来ることはあり得ない。
「ナニを餌にして誘き出したかだね」
「悪魔たちが欲しいモノじゃ無いと来ないよね。でも、同じモノで今回も来てくれるかなぁ」
「絶対に欲しいモノなら何回でも来るよ。前回は封印されたから、入手することが出来なかったよね」
「それって……」
「この星の支配者の証しだよ。それを持つだけでこの星の支配者に成れるのなら、各国や街とかに行って自分の力を誇示しないで済むから絶対に欲しいと思うよ」
「ここにはその類いの書物は無いから、明日は図書館に行こうか」
「そうだね」
宿屋に戻り食事などを済まして、私たちは部屋に居る。
「ヴェルゼーアからハルメニア王国とオーラガニアには、一報を入れたと手紙が来たよ。他の所には、追い追い話すそうだね」
「云われてもどうすることも出来ないから、ただ不安を煽るだけなので仕方が無いと云えば仕方が無いね」
人は100パーセントとは云わないまでも、対応出来ないことや今までの経験が活かせないことには、どう動けば良いのかを理解することが出来ない。
なのでヴェルゼーアたちが知っている情報を全て話しても、聞いた村人たちはその情報に対して全く対処することが出来ないので、自暴自棄に成る恐れがある。
そのため下手に情報を与えるのは危険なので、様子を確認してからでも遅くはない。
二つの国は半島で起こりうる、人々が暴動などを起こさない様に備える意味でも知っていた方が良い。
兵士を集めることや魔法陣の開発は、一朝一夕には出来ないからね。
その二つの国で箝口令を敷いても、どうせ知るモノが多く成れば他の国や関係者にも伝わるだろう。
だから、ヴェルゼーアの判断は間違っていない。
これが悪魔で無くて、普通の魔物なら戦って勝てるかも知れない。
それなら、全員に伝えて早急に避難の準備や支援をしてもらうことも出来るけど、今回は絶対に無理だね。
「ヴェルゼーアたちも手伝いや準備をしてくれる様だから、私たちで判った事はどんどん流すことにしよう」
「そうだね。ナンか必要なモノが有ったら、作ってもらうぐらいは出来るよね」
「入手もしてくれるかもね」
必要な素材を集めるとかなら出来そうだ。
イヤ、私たちで各地に行って集めるよりか、多くのモノがやった方が早く集まる。
私たちが情報を集めるだけでなく、ヴェルゼーアたちにも情報が入るかも知れないし、互いに準備をしたって良い。
もし、各大陸に行くことに成れば、尚更のこと信頼出来る人が多いにこしたことはない。
翌日は、街の中心街から少し外れた処に建っている、王立図書館に出向いた。
私たちの所持しているギルドカードは、ハルメニア王国やオーラガニアの二つの国家にとって重要な人物であると記載されている。
それは二つの国家が、私たちの身分を保証していると云うことだ。
ヴェルゼーアからも要人待遇のことを以前に聞いているから、カードを出した際に幾つかの質問をされたが、特に怪しまれることもなく本を閲覧することが出来た。
各国は全く外交上で付き合いが無くても、その肩書きは重視してくれる。
それは、陸上ならあまり知らない土地へ行くことはあり得ないが、船旅で自分たちもどこに流されるかが判らないからだよ。
そうは言っても、陸上でも誘拐や魔物などに連れられてとか、魔法陣に乗ってしまって見知らぬ処へ行くこともあるけどね。
勿論、外交上で付き合いがない場合は、警護の人などは付かない。
当然のことで、付き合いがあっても、王城や諸侯の屋敷とかの重要な施設に自由に出入り出来る訳でもないよ。
ちょっと提出する書類が減ったり、審査期間が短くなるくらいだね。
「ここは沢山の資料があるね」
「本当に、二つの国には感謝だね」