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151 カレーを食べる

 私たちは草原の中で会話をしながら、ゆっくりと馬を進めている。

 太陽も随分と傾きだして、もう少しすると地平線に吸い込まれる。

 この草原は厄介な魔物がいないので、野宿をする場所としては手頃だ。

 しかし、ここでは木が無いので、タキギを拾い集めることが出来そうにない。

 そのためか、野宿をしているモノは誰もいない。

 アークシュリラのアイテム袋には大量のタキギはあるし、私なら小枝が一本も有れば一晩に亘って暖まる火を灯すことが出来る。

 煮炊きの火が暖を取る火と別なら、もう一本の小枝が必要だけどね。


 私たちは野宿をする場所を決めた。

 アークシュリラは、アイテム袋にある肉や野菜を手際良く調理している。

 そして私は、火を熾す竈を作るために石を積みだした。

 石積みが終わり、アイテム袋から小枝を出して着火させた。


「火の準備は出来たよ」

「こっちも、もう少しで終わるよ」


 アークシュリラが鍋を竈で温め出すと、周囲に懐かしい匂いが漂ってきた。

 うん。この匂いはカレーだね。

 しばらく食べてなかったから、無性に食べたい。

 この料理は、どうしてこうも中毒性が有るのだろうかなぁ。

 中毒性が起こる物質は入ってはいないのに、本当に不思議だ。


「カレーだね」

「そう、体に良いからね」

 カレー粉に使っているモノは、ほとんどが薬草だから体に悪い訳はない。

 それに、肉や野菜も入っているのだから、旅の途中で食べるモノとしては完璧だね。


 ご飯が炊き上がって、アークシュリラが皿にそれを盛り付けている。

 私はその上に鍋からカレーをすくって、皿に載ったご飯の上にかける。

 人によってカレーの掛け方が違うが、アークシュリラも私もこれが一番美味しく食べられると思っているよ。

 食べ方も最初にご飯とカレーを混ぜるとか、混ぜないとか云う人もいる。

 私たちはご飯とカレーを少し混ぜて、中心部から食べているよ。

 そうしないと、ジャガイモや肉が皿から落ちるからね。

 でも、さすがに全てを一度に混ぜることはしないよ。


 ファリチスの食堂でも、ご飯とカレーを半々に盛ったモノやご飯を円状にして中にカレーを入れたモノも有った。

 ご飯にカレーをかければ完成するから、いかにお店らしくして料理としてお金を貰うか考えてのことだね。


「アークシュリラ。カレーってこう言った外で食べるのが一番よいね」

「洗うのが大変だけど、もともと材料はゼファーブルに貰った薬草だからね。疲れを取るとかの効能が有るんだよね」

「あるよ。それ以外にも胃腸を調えるとかあるし、煮込めれば具材はナニを入れても良いからね」

 さすがに腐っていたら無理だけど、野菜や肉もじっくりと煮込むので多少なら傷んでいても大丈夫だ。

 心配なら危なそうな箇所は、入れなくても良いけどね。


「そうだよね。ピザとかも窯が有れば屋外でも良いけど、窯を作って翌日には壊すことになるからね」

「竈と同じなので作るのは良いけど、ピザのタメだけに作るのも無駄だよね」

 ピザの他にスープを作るとなると、もう一つ火を熾す場所を作ることになる。

 上手く一つでピザとスープを作れるモノにすると、ちょっと巨大なモノに成ってしまう。

 今は寒くないから良いが、冬だと暖まる火も必要だよ。

 カレーなら一つでご飯を炊いて、カレーも温められる。

 食事を作っている時も、このまま暖を取ることも出来るよ。


「それもそうだ……ゼッ、ゼファーブル」

 大きく地面が揺れた。

 地震が起きたみたいだ。

 直ぐに揺れは治まったが、随分と大きかったと感じた。

 それは、私たちが地面に直接座っていたからかも知れない。

 周囲には建物とかがないので、実際に本当に大きかったかは怪しいけどね。


「アークシュリラ、大丈夫?」

「私は大丈夫だけど、あれってナニかなぁ。さっきまで無かったよね」

 草原の中央で野宿をしているので、周囲には草原が続いていたハズなのに、ほんの少し離れた処で地面に穴が開いている。

 さっきの揺れは、地下の空洞に落盤などで地面が落ちたモノとは思えない。

 そうなので、これは今の地震で地下に有った空洞が耐えられずに陥没をしたのか、魔物が出て来るかの二つしかない。


 この付近で野宿をしているモノは私たちしか居ないし、街道を行き交う人々も日中に比べてもの凄く減っていて、今は誰一人として通って居ない。


「地中から美味しそうな匂いに釣られて、カレーを食べに来たのかなぁ」

「じゃ、私たちのお客さんだよね。相手をして上げないとダメだよね」

 アークシュリラはそう言って剣を抜く。

 私は灯り(ライト)の呪文を唱えて、穴の周辺を明るくしてから杖を構える。


「準備は整ったから、さぁ、出て来なさい!」

 少し待ったが魔物は姿を現さない。


「ゼファーブル。出てこないね。違ったのかなぁ」

「ワームかジョーヌミルパーツだと思ったけど、違う様だね」

 土の中から現れる魔物は多いが、時間的にこの二体以外に思い付かない。

 しかし、魔物だと出て来るときに土を巻き上げるが、今回は周囲に土埃は起きていない。

 なので陥没とは思ったけど、ただの陥没と安心して穴に近付いて魔物だったら大変だからね。


 私たちは相手が来ないので、様子を見に行ってみることにした。

 私たちが穴に近付こうとした時、私の灯り(ライト)が解除される。

 えっ、ナニモノかが、私の魔法を解除したの?

 すかさず私は灯り(ライト)の魔法を再び掛けて、自分たちの周囲だけを明るくする。

 これでは穴まで灯り(ライト)の明かりは届いていないが、月明かりで穴は一応確認が出来る。


 ナニが起こるか私たちが見ていると、黒い靄がその穴から湧き上がってきた。

 そして靄は次第に集まりだして、幾つかの人型に変わった。

 その中の一体は私たちと背丈は同じくらいで、それ以外はその一体より小さい。

 出現したモノ全てが、自分たちが出て来た穴を見ている様だ。

 向こうを向いているので、どんな顔をしているのかは判らない。

 その背中には、黒か青などの寒色系統だと思う、二本の羽が生えているモノがいる。

 そのモノたちの姿を照らしているのは月明かりなので、実際の色とは違うかも知れない。 生えている羽は鳥よりか、コウモリに近い様な気がする。


 私でも、このモノたちから漏れ出ている凄まじい魔力を感じる。

 こいつの相手は無理だ。

 アークシュリラも、黙って現れたモノたちが行うこと――成り行きを見守っている。

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