150 邪悪なモノはナニだったの
私たちは一週間以上に亘って、図書館へ通いつめた。
興味深い書籍は有るモノの、目的で有る森林での邪悪な気配の情報が全く見付けられ無かったからである。
封印をしたのなら、ナンらかの情報が有っても良いハズだ。
誤って封印を解く恐れが有るので、それを残さない魔法使いはいないと思う。
邪悪なモノを封印したのなら尚更である。
それが一向に見付けられない。
「アークシュリラ。邪悪な気配って封印されていないのかなぁ」
「これだけ調べて無いのだから、違うかもね」
「それに、この森林が残っているのも、ドライアドが居るかもと云うことらしいね」
「冒険者ギルドの人は、もう居ないと言っていたけどね」
ドライアドの宿る木を切ると、切ったモノを呪うと言われている。
それは、切り倒さなくてもだ。
そのために、周辺にいる人々は木を伐採して新しく道を通すことはもとより、無闇に傷付けることもしない様だ。
一般の人だと、ドライアドが本当に居ないのかが判らないからね。
「じゃ、邪悪な気配はナンだろうね」
「ゼファーブル。軽めの浄化を一度して見て、また邪悪な気配が出て来ればナンか有るってことだよね」
「確かに完全に浄化をしなければ、それも可能だね。それなら直ぐに行こうか」
「分かったよ」
アークシュリラが邪悪な気配の最も感じた処に、私たちは転移した。
「ゼファーブル。お願い」
「じゃ、やるよ」
私は杖の力を使わない様に傍に置いてから、少しの魔力を貯めて呪文を唱えた。
「浄化!」
私を中心に5メートルくらいの範囲が白い光に覆われた。
スゴく軽めに掛けたので、地中には1メートルも届いて居ないと思う。
「どう」
「邪悪な気配は無くなったよ。でも、直ぐには出てこないね」
「じゃ、一週間ぐらい経ったらまた来ようよ。それで感じないのなら、もう正体は分からなくなっちゃったよね」
「そうだね。仕方がないけど、それはしょうがないよね」
私たちはそれから街に戻って、一週間ずっと図書館に通い詰めて気になる書籍を読みまくった。
私は知らなかったことを学べたので、スゴく充実した一週間だったよ。
「ゼファーブル。もう、一週間が経ったから、そろそろ行ってみようよ」
「そうだね」
カヌーで大森林の上空に来たが、アークシュリラはここからではナニも感じないと言っていた。
私たちは地上に降りて、アークシュリラが大地に手を添えて周囲を確認している。
「邪悪な気配はしないね。あれで消えたってことはナンだったのだろうね」
「アークシュリラは、それで土の中にあるモノは判るの?」
「判るよ。ナニも無いよ」
「骨は無い様だから、少し掘ってみるよ」
「やっぱり気になるよね」
「発掘!」
ナニも出ては来ない。
「ナンにも無かったんだね」
「そうだね。地上は当然だけど、地中の随分と深い処にも無いからね。ナンだったのかなぁ」
杖の力を使っても邪悪な気配を発していたモノを、地上を含めて地中にも発見出来なかった。
もう私たちにはお手上げ状態だ。
「私たちにはもう無理だね。だったら先に行こうよ」
「そうだね」
翌日に宿屋で支払いを済まして、私たちはカヌーで先に進むことにした。
気持ちを切り替えたから、邪悪な気配の正体が気には成らないと言うのはウソになる。
今の私たちにはどうすることも出来ないから、諦めたと言う方が正解かなぁ。
「この付近って国は連しか無いんだね」
「ドコも街以上には成っていないね。中央に巨大な森林が有るのが、良い影響をしているんだね」
「そうだね。どの街もそれを迂回したり、突き進んだりして攻め込む気持ちが無いみたいだね」
それと、どこの街も自分たちのことで、精一杯と言う感じもする。
街に居たときに見た領主や各ギルドなどの建物も、下手に派手な装飾はされてはいなかった。
よく言えば古色蒼然とした歴史を醸し出していたよ。
それに無駄に兵士を雇ってもいない。
それは、他の街を支配しようとは思ってもいないことのあらわれでもある。
「ゼファーブルが昔に行ったことのある所も、こんな感じだったの」
「兵士を大量に雇っていて、外交の度に攻め込むぞと恐喝まがいなことをする国はあったと思うよ。それと実際に戦争をしている国も有ったよ」
「私はどこも平和で戦争をしている所は無いのかと思ったよ。でも、そう言う所も有るんだね」
「私たちの所でも、イファーセル国がサバラン聖教国に攻め込んだよね」
「そうだったね」
「ナンでそんなことを聞いてきたの」
「図書館に兵法の書籍が無かったから、この星には戦いは無いのかなぁって思ったんだよ。でも、イファーセル国は攻め込んだよね」
「兵法?」
「そう、陣地を築く場所や兵士たちの運用方法とかをまとめたモノだよ」
「そう言う国防に関連する書籍は、図書館に置いて無いだけだと思うよ」
「そうかもね」
カヌーで飛んでいるのも良いが、下には草原が広がっている。
別に急ぐ旅では無いのと、カヌーで飛んでいると地上にある僅かな変化を見逃すこともある。
そこで、私はアークシュリラに聞いた。
「街道が逸れるまで、草原を馬で行かない」
「ゼファーブル。私も今そう思ったよ」
私たちは陸地に降りた。
そして、アイテム袋から馬を取り出して騎乗した。
カヌーで飛んでいた時に見た景色は、ほぼ一直線の道が草原の中を通っていた。
周囲には街はおろか、村の気配すらない。
しかし、街道を行き交う人々は多い。
「あの人たちはどこへ行くのかなぁ」
「大森林の何処かの街か、山を越えて連に行くと思うよ」
「半島に行ってもナニも無いしね。きっと、そうだよね」
街道には歩いている人もいるし、大きな馬車もある。
騎乗しているモノもいる。
その全てが他者のことを考えていて、我が物顔で街道を通行していない。
「この辺りはのどかだね」
「ファリチスの周りみたいだね」
海が近くに無いこと以外は、ファリチスと同じくのどかに時間が流れている。
「アークシュリラは、これから先もこんな感じで良かったの」
「良いよ。私だってイツも戦いたい訳ではないよ。でも、たまには戦いたいけどね」
「戦うと言っても、このペースだと食べる肉になるモノの相手だけだけどね」
「それでも良いよ。今のままだと、ギルドの依頼は受けられないからね」
「アークシュリラが受託したい依頼が有ったら、別にギルドに登録しても良いよ」
「ギルド職員が相手の認定試験を受けるのは、面倒だよ。それと試験を受けないで、今更一番下からやる気も当然ないね」