147 大森林の捜索 その2
私たちはアークシュリラが感じた邪悪な気配が、ナンであるかを確認するために森林の中にいる。
「確かに無かったね。そうなると、今この森林に居るのって私たちだけなのかなぁ」
「アークシュリラ、ギルドの人は勝手に入るモノがいるって言っていたよ」
「そうだったね」
「でも、私にはナンだか大勢居る気がするけど、アークシュリラはどう」
「私にはそっちは判んないね」
私もそんな気配を感じる能力は持ち合わせていない。
私が付けた目印の木にナニかをすると、私に何となく分かるんだよ。
これは本来は知らない間に、目印が無くなることがない様に術者に知らせる機能だけどね。
だから正確な人数は判らないし、木にナニかをしているのが人とは限らないよ。
まさか木を切り倒しているとは思えないから、枝を薙ぎ払っているのかなぁと感じるくらいである。
でも、私たちが通って来たところは、私たちの身長の三倍くらい上にしか枝は出てなかった。
簡単に手の届く低い位置には、通るのが邪魔になる枝は無かった。
それじゃ、少し大きめの魔物が通過しているのかもね。
でも、上空から見た時は、木々は倒れていなかったので、木々を倒すほどの大きさでは無いと思うよ。
アークシュリラは悪さをしてないなら戦いたくは無いと思うので、どうしたら良いのだろう。
私が考えるよりか、本人に聞いた方が早い。
「アークシュリラ。私たちが通って来た所の木々に、誰かがナンかしているんだけどどうする」
「ゼファーブルがマーキングしていたヤツだよね。上空から見た時は、この森林の木々は倒れて無かったよね。木の上で野宿の準備をしているのかなぁ」
「そうだね。枝を上手く使って、野宿の準備ってこともあるよね」
ナンで私はこんな単純なことに気が付かなかったんだろう。
「まぁ、ジャイアントスパイダーは夜行性じゃないし、ヘビはナニが居るのか判らないけど……木々にナニかをしているのが収まったら私たちは先に行っても良いよね」
ジャイアントスパイダーを喰うヘビは何種類か居るが、どれも夜行性である。
まぁ、ジャイアントスパイダーが夜間に休んでいる時に襲う方が効率的だから、当然と云えば当然だよね。
しばらくして木々にナニかをしている様子は無くなった。
それでヘビに出くわさない様に、私たちは徒歩での移動をやめて少し浮いて先を目指すことにした。
もし、そのモノたちが私たちの魔力を追跡しているのだったら、地面に気配を残すのは良くないと云うのもあるよ。
もちろん、土で作った壁などは、元の土にしておいた。
「ゼファーブル。邪悪な気配が少し強くなったよ」
「夜だから?」
「そうかもね」
地上や木の枝には夜行性の小動物たちが、飛んだり動き回ったりしている。
しかしその中に、枝からとか飛んでいるモノが直接的に私たちに飛びかかって来るモノはいない。
私たちは一応警戒しながら、アークシュリラが感じる方向へ進んでいく。
二日くらいして、もう木々にナニかをしているモノはいなくなった。
街道を通るより森林の外周部を突っ切った方が早いので、多少経験のある冒険者がショートカットをしたのだろう。
私たちは適度に休息を取りながら、更に先を進んだ。
一週間程度が過ぎた頃に、少し大きめのヘビが地上を這っているのが見えた。
「ゼファーブル。あれってフォルツサーペントだよね」
「そうだね」
フォルツサーペントは、森の大蛇と云う名前の通り2メートル以上になるから大型のヘビだが、性格は体に似合わずおとなしい。
体の色は落ち葉の様に茶色がかった緑色をしているので、ヘビ革としても人気はないよ。
その上、スパイダーとかセンチピードやミルパーツなどの魔物を食料にし、人や動物を食べることはない。
でも、自分たちの身に危険が迫れば、自身を守る為に攻撃はしてくるけどね。
食べるスパイダーには小さなクモだけでなく、ジャイアントスパイダーも含まれるよ。
「良く見れば、出会った魔物が危険かそうでないか分かるよね」
「アークシュリラ。そうだけど、一般の人だと急に出会ったら恐いよ」
私たちが地上に居たら現れなかったかも知れないけど、もし、現れたらさすがに気にはなるが、こいつならそばに居てもよい。
「そうかなぁ。ゼファーブル、こいつって森林の外周部には居ないよね。これが冒険者ギルドの人が言っていたヘビだとしたら、ここまで来るモノが居るってことだね」
「そうだね。杣工が周りで木を切って居る訳じゃ無いよね」
杣工が、よい木材を得る為にここまで来たのか。それとも森を管理する為に、少し中に生えている木々を間引いていたのかなぁ。
「そうだね。よっぽどのあわて者か初心者じゃ無ければ、相手をみてから一番有効的な攻撃をするよね」
「ここは直ぐに休める訳じゃないから、無駄な攻撃はしないよね」
フォルツサーペントは攻撃をしなければ襲って来ないが、フォルツサーペントが居ると云うことは、そのエサであるスパイダーとかセンチピードやミルパーツもいると云うことだよ。
そいつらは敵わない相手でも襲って来るけどね。
私たちはしばらくの間、フォルツサーペントと同じ方向へ進んでいた。
途中でフォルツサーペントは、獲物を見付けたのか右に曲がっていった。
「行っちゃったね」
「アークシュリラ、なんならあっちへ行く」
「フォルツサーペントと私たちは目的が違うから、このまま真っ直ぐに進むよ」
「分かったよ。で、その気配は動いてないの」
「動いて無いみたいだよ」
動かないモノなんだね。